スイス連邦政府、EUとの制度的条約交渉を中止

(スイス、EU)

ジュネーブ発

2021年05月28日

スイス連邦参事会(内閣)は5月26日、EUとの制度的条約(2019年3月15日付地域・分析レポート参照)には署名しないことを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますし、欧州委員会のウルスラ・フォン・デアライエン委員長宛てにその旨の書簡を出した。今回の決定により、7年間にわたる交渉は中止となった。

制度的条約は、スイスからEU単一市場へのアクセスを保障し、アクセス拡大の基礎となることを目的としていた。一方で、交渉テキストで問題となったのは、随時更新されるEU法令をスイス国内法に迅速に適用させる仕組みの導入、EU市民権指令(CRD)を取り入れた上でのスイスの賃金水準の維持、州政府補助金の維持、の3点だった(2019年6月17日記事参照)。

2020年11月11日に行われたEUとの交渉で、連邦参事会は各州や関係団体からの意見を踏まえ、前述の3点の明確化が必要とのスタンスを説明し、2021年1月以降、6回の交渉会合と補足的なやり取りを継続してきた。これにより、双方の立場の理解は進んだが、内容の相違は解消できず、2021年4月23日にはギー・パルムラン大統領とフォン・デア・ライエン委員長が直接意見交換を実施していた。

今回の連邦参事会の発表によれば、EUはこれまで、制度的条約がない限り、今後スイスと新たな市場アクセス協定の締結または更新には応じないとの意思を表明してきた。これに対し、連邦参事会は、(5月末で失効する)医療機器の相互承認条約(MRA)など既存の条約の継続は双方の利益にかなうもので、政治問題とは無関係とし、ヘルスケアや電力分野などにおけるこれまでの協力関係が今後も維持されることを望んでいる。

一方で、連邦参事会は、交渉不調により市場アクセスを失った場合の影響緩和策についても検討を既に行ってきた。2019年6月に証券取引市場の同等性認定が失効した際には、スイスの証券取引市場インフラを守るためにスイス企業のEU域内での株式取引を禁止し、スイス市場内の株式取引量を確保した。医療機器については、EUの医療機器規則(MDR)と同等の規制となるよう法改正を行い(2020年7月13日記事参照)、医療機器のMRAが更新されなくとも(2020年3月3日記事参照)、医療機器の国内供給および市場監視は確保されるよう措置を講じている。

スイス・EU間の協力は継続の意向を示す

スイスとEUは相互に重要な経済的パートナーで、またスイスは欧州の中心に位置することから歴史的にEU諸国との人的交流が盛んだ。そのため連邦参事会は、EUとの協力関係が2国間・地域間協定ベースで機能し続けるよう、EUと共通の優先分野における協力について協議するための政策的対話をEUと開始する意向を示している。

連邦政府はまた、EUの法改正をスイス国内法に自律的に反映させるようにすることが、いかにスイス・EU関係の安定化に寄与するかを検討し、EU法とスイス国内法の乖離点を把握し、法律の調整が適切でかつ双方の利益となる分野を特定する作業に取り掛かるとした。このプロセスは、連邦政府が州および関係機関との協議の下、自律的に進められるとのことだ。

(和田恭)

(スイス、EU)

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