最高実力者のドラグネア与党党首、汚職による懲役刑が確定し収監

(ルーマニア)

ブカレスト発

2019年06月10日

ルーマニア最高裁判所は5月27日、下院議長で与党・社会民主党(PSD)党首のリビウ・ドラグネア被告に対し、職権乱用罪で3年6カ月の懲役刑を確定させた。被告は故郷の南部テレオルマン県で、同県職員に見せかけて採用した2人を自身の政党の地方支部で働かせたことが疑われ、2018年6月に最高裁判所から有罪判決を受けていた(2018年6月29日記事参照)。控訴を受け、抽選で選ばれた5人の裁判官による再審が実施されたが、実刑判決が出され、被告は即日ブカレスト市内の刑務所に収監された。

ドラグネア党首は、1989年のチャウシェスク政権崩壊後、最大の権力を握った政治家と見られていたが、国民投票の不正などで執行猶予付きの有罪判決が言い渡されていた。執行猶予中は大統領や閣僚の職に就けないため、ここ数年は短命の傀儡(かいらい)政権のコントロールに徹していたと言われる。そのような中、議会承認を経ずに立法措置が可能な「緊急政令」で司法制度と刑法の改正を強引に推進するなどして、再起をもくろんだ。その結果、大規模デモが発生したり(2018年8月17日記事参照)、他のEU加盟国や米国が強く警告を発したりする事態に発展した。

今回の判決に大きな影響を与えたのが、その前日の26日に行われた欧州議会選(2019年6月3日記事参照)と、同日に実施されたクラウス・ヨハニス大統領〔野党・国民自由党(PNL)出身〕による「正義のための国民投票」だ。前者ではPSDの8議席に対し、PNLは10議席を獲得し勝利。後者では「(1)汚職犯罪への恩赦の禁止、(2)緊急政令による司法改正の禁止」に関する2つの質問に対し、全有権者の41%に当たる約754万人が投票、その80%以上が賛同して民意を示した。

これを受けて、ビオリカ・ダンチラ首相は記者会見を開き、今後与党として司法制度や刑法改正に関する議論はしないと表明した。さらに自身の退陣はないとする一方で、暫定党首にパウル・スタネスク元副首相を任命すると発表した(同氏はドラグネア党首に極めて近い人物だったが、2018年9月にドラグネア党首の退陣に関わるクーデターに加担し失敗、自らが辞任に追い込まれた経緯がある)。汚職政治の象徴とされたドラグネア党首の収監は、ルーマニア政治史における1つの暗鬱な時代の終焉(しゅうえん)を意味し、国内外から多くの歓迎の声が聞かれる。しかし、手のひらを返したようなダンチラ首相の発言にはあらためて批判が出ており、12月に控えた大統領選に向け、今後どの党が有権者の支持を獲得できるかが注目される。

(水野桂輔)

(ルーマニア)

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