在外ルーマニア人主導の反汚職デモ、治安警察と衝突

(ルーマニア)

ブカレスト発

2018年08月17日

ルーマニアの首都ブカレストで8月10日以降、大規模デモが連日発生している。沈静化の動きはあるものの、10日のデモでは参加者と治安警察の衝突が発生し、多数の負傷者が出た。デモは「反汚職・反政府」を大義名分とし、与党・社会民主党(PSD)のリビウ・ドラグネア党首の退陣と、内閣解散による早期選挙実施を求めて行われた。

西欧を中心に約360万人いるといわれる在外ルーマニア人の夏の帰省に合わせ、集結を訴える複数のデモが同時多発的に計画された。当地報道によれば、8月10日には約10万人のルーマニア人が首相府前広場に集まったとされる。「440人以上が負傷し、65人が病院に搬送された」とされているが、それ以上の負傷者が出ていると推測される。また、地方都市においても数千人規模のデモが起こっている。

デモはここ数年で常態化しているが、暴力的な事態に発展するケースはほとんどなかった。負傷者が出た今回のデモについて、参加者からは「汚職にうんざりしており、在外ルーマニア人主導の大規模デモには期待していた。しかし、大多数が平和的な抗議活動を望んでいたにもかかわらず、暴動を起こそうとする人々が交じっていた。女性や子供を含む一般参加者に対して暴行を加えていた警察官も一部おり、憤りを覚える。ただ、デモに関する真偽不明の情報が多数流れており、どれが本当の情報か分からない」(30代女性)といった声が聞かれた。

クラウス・ヨハニス大統領は一連の混乱に対し、「権力を乱用し、ルーマニアを欧州の一員から逸脱させている」として、与党側の責任を追及している。また、国外からの非難の声も多い。オーストリアのセバスティアン・クルツ首相は、オーストリアのジャーナリストが警察に殴打されて負傷した件について、「EUにおいて、表現の自由と報道の自由はいかなる状況においても守られるべきだ」と、ツイッター上で非難。また、イスラエル大使館は、警察が4人のイスラエル人観光客をタクシーから引きずりおろして殴打したことについて、「極めて深刻で、受け入れられない」との声明を発表した。

写真 8月10日、機動隊と衝突前のデモの様子。正面が首相府(ジェトロ撮影)

現在の与党体制ができたのは、2016年12月の上下両院選挙によってだが、投票率は39.49%と低かった。選挙に行かず、デモに参加する姿勢に疑問を呈する声もある。ルーマニアでの社会主義体制が崩壊して約30年。以前から続く汚職はいまだ根深く、民主主義は発展途上にある。低い選挙投票率が物語る政治への無関心や諦めは深刻だ。

今回の一連のデモについて、今のところ進出日系企業への直接の影響は確認されていないが、当地で工場拡張を進める日系製造業からは「ルーマニアで投資拡大を進めている中、不安定な政治が思わぬリスクにつながる懸念がある」と不安視する声も聞かれる。ここ数年のルーマニア経済は好調で、日系企業による投資も活発化しているだけに、安定した政治体制が望まれている。

(水野桂輔)

(ルーマニア)

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