トランプ政権が自動車輸入制限措置の延期を発表も、EUや日本との交渉を指示

(米国、EU、日本)

ニューヨーク発

2019年05月20日

トランプ大統領は5月17日、1962年通商拡大法232条(以下、232条)に基づく自動車・同部品(注1)に対する輸入制限的措置の実施を最長180日(11月13日まで)延期する内容の大統領布告外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますおよび声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。大統領布告では、米国の国防・軍事の優位性を維持するために重要な技術の開発が米国の自動車産業に依存している中、同製品の輸入が「国家の安全保障を脅かしている」との商務省の232条調査の結論を示した上で、延期期間中にEU、日本、そのほか米国通商代表部(USTR)が適切と考える国との交渉を進めるようUSTRに指示したと述べている。180日以内に合意を達成できなければ、「追加的な措置をとるか否かを判断」するとしている。

米国はEUや日本との間で貿易交渉を開始しており、両国・地域にとって対米輸出で重要な自動車・同部品に対する輸入制限的措置の実施に180日の期限を設けることで、早期の合意達成を狙う米国政府の意図が垣間みえる(注2)。

なお、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)や米韓自由貿易協定(FTA)の再交渉については、合意の効果について「考慮した」と触れるにとどまった。大統領布告では、232条に基づく自動車・同部品の輸入制限措置の対象となる国は、明記されていない。

措置の導入に強く反対している議員(2019年5月9日記事参照)の一部や自動車業界(2018年7月26日記事参照)は、すぐに声明を発表した。チャック・グラスリー上院財政委員長(共和党、アイオワ州)は同日、措置の延期を歓迎し、EUや日本との貿易交渉において米国政府を支援していくとの意向を示しつつも、「安全保障を自動車・同部品に関税を課す理由とする正当性については甚だ疑問」とも述べ、安全保障のために関税を課すという決定において「意義ある役割」を議会が担えるような法律の制定に向けて作業を続けていく、と牽制する内容の声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。米国自動車部品工業会(MEMA)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、同日付プレスリリースで「関税率引き上げの脅威により生まれる不確実性は、企業活動を抑制し、雇用創出という大統領の目標に反する」と、これまでの主張を繰り返した。

欧州委員会のセシリア・マルムストロム委員(通商担当)は、自身の同日付ツイッターで「われわれの自動車輸出が安全保障上の脅威との考え方に、真っ向から反対する」と批判した。

(注1)大統領布告は自動車の例として、セダン、スポーツ用多目的車(SUV)、クロスオーバーSUV、ミニバン、カーゴバンおよびライトトラック、自動車部品としてエンジン・同部品、トランスミッションおよびパワートレイン部品、電子系統を挙げている。

(注2)ただし、日米両政府は2018年9月26日の貿易交渉開始に関する合意文書の中で、「日米両国は信頼関係に基づき議論を行うこととし、その協議が行われている間、本共同声明の精神に反する行動を取らない」ことを約束している(2018年9月27日記事参照)。米国はEUとの交渉においても、「どちらかが交渉の席を立たない限り、われわれはこの合意の精神に反することは行わない」としている(2018年7月27日記事参照)。これらは、交渉が適切に進んでいる間は自動車・同部品へ追加関税を課さないことを指しているとみられている(2018年12月6日付地域・分析レポート参照)。

(若松勇)

(米国、EU、日本)

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