トランプ政権の政策では税制やNAFTAに高い関心-2017年度米国進出日系企業実態調査-

(米国)

米州課

2018年01月11日

ジェトロは2017年10月3日から11月15日にかけて、米国に進出している日系企業1,200社に対してアンケート形式の「2017年度米国進出日系企業実態調査」(有効回答793社、有効回答率66.1%)を実施した。2017年は回答企業の74.4%が黒字を見込み、過去最長の6年連続で7割超の営業黒字率を維持した。日系製造業の米国市場向け製品の生産地として、メキシコでの拡大見通しが2016年度調査から大きく減少した。トランプ政権の政策に対する関心分野としては、税制や北米自由貿易協定(NAFTA)に高い関心を示した。

2017年の営業黒字率は6年連続で7割を超える

米国進出日系企業の営業利益は、2017年は回答企業の74.4%が黒字を見込む(添付資料の図1参照)。2016年度(前回)調査の77.5%より微減となったものの、好調さは維持している。営業黒字を見込む企業は2012年度調査以降、6年連続で7割を超えた(2016年12月6日記事参照)。業種別にみると、鉄鋼(87.1%)や業務用機器(85.2%)で黒字比率が高かった一方、輸送用機器部品(自動車/二輪車)の黒字比率は2016年の82.5%から70.4%に低下した。地域別にみると、特に南部においては売り上げの減少により同分野の黒字比率は61.5%にとどまり、南部の黒字比率は前回(75.6%)から5.9ポイント低下した。

日系企業の景況感を示すDI値(前期と比較した営業利益の「改善」-「悪化」)は7.9となり、前回から9.6ポイント悪化した。2017年の営業利益見込みが「改善する」と回答した割合(37.8%)は前回から3.4ポイント減少し、「悪化する」との回答(29.9%)は6.2ポイント増加した。一方、2018年の営業利益の「改善」を見込む企業は半数近く(46.2%)で、DI値も35.6ポイントと大きく上向くなど、業績改善を見込む企業が多い。業種別では、輸送用機器・部品の黒字比率は70.0%だが、DI値は全てマイナスとなった。

今後1~2年の事業拡大を視野に入れる回答企業は57.1%と、前回から3.7ポイント増加した。拡大する機能として、販売(62.5%)、生産(高付加価値品、49.9%)が主に挙がり、業種別では、食品・農水産加工(75.8%)や業務用機器(74.1%)などにおいて「拡大」と回答した割合が高かった。

米国での地産地消を一層強化へ

日系製造業の調達、生産、販売状況や今後の方針をみると、米国市場向け製品の生産地として、メキシコでの拡大見通しが前回調査から大きく減少したが、それを除けば日系企業の企業業績やビジネス活動について前回の結果から大きな変化はなく、トランプ政権発足に際して、現地経営者は情勢を冷静に受け止めている様子がうかがえる(2016年12月7日記事参照)。

米国で生産・販売活動を行う企業の原材料・部品の調達については、米国内からの調達比率は59.3%となり、前回から2.1ポイント増加した(添付資料の図2参照)。次いで、日本(25.3%)からの比率が高かった。一方、米国で販売活動のみを行う企業の米国内からの調達率は21.2%で、日本からの調達率は53.2%を占めた。

米国向け製品の生産地について、米国の割合は前回から6.3ポイント増の76.3%となり、日本の割合は5.0ポイント減の12.4%となった。今後米国向けの生産を拡大する国としては米国が156社で最も多く、メキシコは29社で前回(68社)の半数以下に減少した。

米国で生産・販売活動を行う企業の販売先は、米国内が80.9%で、メキシコとカナダを加えたNAFTA市場向けが約9割(89.4%)に達し、日本は4.0%を占めた。

今後、販売を拡大する先としては、米国が154社、メキシコが80社で、前回よりも現状維持の割合が増えた。食品・農水産加工や化学品・石油製品などの業種を中心に、米国内での販路拡大を目指す声が聞かれた。また、米国で販売活動のみを行う企業の販売先としては、米国内が77.6%、NAFTA市場向けが88.2%で、日本は4.9%を占めた。

FTAの利用状況について、全回答企業のうち輸出入いずれかでNAFTAを利用している企業は3割超(32.9%)だった。このうち、輸出/輸入を行っている企業に限ると、メキシコやカナダへの輸出にNAFTAを利用している企業は5割前後を占め、輸入では6割強の企業が利用している。

労働者の確保や賃金の上昇などが引き続き課題

米国におけるコスト上昇要因となる経営上の課題については、「労働者の確保」が前回調査から7.1ポイント増の70.6%で最大要因となり、「賃金の上昇」が68.7%で続いた(添付資料の図3参照)。なお、日本人駐在員のビザ取得への懸念が前回(15.4%)から倍増(33.1%)。回答企業からは、米国の景気拡大に伴う失業率の低下により、労働者の賃金上昇が顕著になり、労働者の確保が困難になってきているとの声が多数聞かれた。販売抑制要因となる経営上の課題については、「価格競争の激化」(77.5%)や「有力な競合製品の存在」(57.1%)が例年同様、上位に挙がった。

政策の関心分野は税制、通商、外交が上位

トランプ政権の政策に対する関心分野として、税制(80.6%)、通商(76.5%)、外交(72.0%)が上位3項目に挙がった(添付資料の図4参照)。税制に対する関心は前回(51.0%)から29.6ポイント増えた(2016年11月4日記事参照)。減税による利益増を期待する声が聞かれたが、減税による追加投資には慎重な姿勢が目立った。通商ではNAFTA(55.2%)、外交では日本(57.5%)に関して、半数を超える企業が関心あると回答した。

2017年8月から米国、カナダ、メキシコの3カ国で行われているNAFTA再交渉により影響を受ける内容として、「通関・貿易円滑化・原産地規則」(68.3%)、「物品市場アクセス」(34.9%)、「労働・環境」(32.8%)が上位に挙がった(添付資料の図5参照)。業種別にみると、「通関・貿易円滑化・原産地規則」では輸送用機器・同部品(100%)、「物品市場アクセス」ではゴム製品(57.1%)、繊維(53.8%)、「労働・環境」では繊維(61.5%)の関心が高かった。

(中溝丘)

(米国)

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