米国提案をめぐり意見が対立、年内妥結を断念-NAFTA再交渉第4回会合が終了-

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2017年11月01日

北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の第4回会合が10月17日に閉会した。米国が具体的な提案内容を示したことで、カナダおよびメキシコとの意見対立が顕在化した。自動車の原産地規則の改定や貿易救済措置の発動に係る紛争解決制度の撤廃などの米国提案は拒絶され、ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表はカナダとメキシコ両国による「抵抗」を批判している。共同声明では2018年第1四半期まで交渉を継続するとしており、当初目標としていた年内妥結は断念した。

メキシコとカナダ政府の交渉姿勢を批判

10月11日からバージニア州アーリントンで開催されていたNAFTA再交渉の第4回会合が17日に閉会した。会合では米国の提案内容が具体的に示され、カナダおよびメキシコとの意見対立が顕在化した。3カ国政府が発表した共同声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、「閣僚は、交渉国間の考え方の著しい隔たり(Significant Conceptual Gaps)について議論を行った」としている。

米国政府は貿易赤字の削減とNAFTAの現代化の2つの目標を掲げて交渉を行った。しかし、メキシコとカナダ政府は米国の提案に対して否定的な反応を示し、ライトハイザーUSTR代表は「交渉相手国が示した抵抗に驚き失望している」と不満をあらわにした。

報道によると、米国政府は自動車の原産地規則の改定案を示した。乗用車と軽トラックに適用されている62.5%の原産地比率を85%まで引き上げ、そのうち最低50%は米国製品とすることを要求している。また、鉄鋼など全ての自動車部品をトレーシングリスト(注1)に追加することを求めている(ロイター10月13、20日)。

これに対しカナダのクリスティア・フリーランド外相は、米国製品の使用義務の導入について、「サプライチェーンを分断し、域外からの輸入品に対する北米生産者の競争力を失わせるものだ。これにより、北米における何万人もの雇用が危険にさらされる」とし、米国提案を拒否した(「ワシントン・ポスト」紙電子版10月17日)。カナダ政府はそのほか、5年ごとにNAFTAの継続を判断するサンセット条項の導入や、アンチダンピング(AD)や補助金相殺関税(CVD)に係る紛争解決制度(NAFTA19章)の撤廃などの米国提案についても受け入れを拒否している。

メキシコ政府関係者によると、メキシコ政府も米国のほぼ全ての提案を拒否したもようだ(通商専門誌「インサイドUSトレード」10月17日)。

ライトハイザーUSTR代表は「両国には、(米国の)巨大な貿易赤字の削減に向けたいかなる変更についても、受け入れる意思が全くみられなかった」と、カナダとメキシコの交渉姿勢を批判した。

「現代化」に関する交渉も難航

協定を現代の経済活動に即したかたちに更新する「NAFTAの現代化」に関する交渉も難航している。これらの分野の一部については、米国、メキシコ、カナダも交渉参加国だった環太平洋パートナーシップ(TPP)協定で、一度は合意が成立している。このため、専門家の間ではNAFTAでも合意は比較的容易との見方が強く、ライトハイザーUSTR代表も「現代化(交渉)の後に厳しい作業が始まる」との見通しを示していた(2017年8月18日記事参照)。しかし、同代表によると、メキシコとカナダ政府はTPPで合意された分野についても、その合意内容をそのまま受け入れることを拒否したという。

共同声明では、競争政策の章について交渉が妥結したと発表(注2)したが、税関・貿易円滑化やデジタル貿易、規制慣行などの分野では進展があったとするにとどまった。ライトハイザーUSTR代表は、デジタル貿易、通信、腐敗防止などについては現時点では合意ができていると考えていたと述べ、交渉の進展状況に不満を示している。

なお、ブルームバーグ(10月19日)は、為替操作条項はNAFTAの本協定に盛り込む条項としては議論されておらず、協定外の合意事項となる可能性が高いとの交渉関係者の見方を紹介している。米系自動車メーカーや労働組合は、為替操作条項についても協定の紛争解決手続きが適用される拘束力ある規定とすることを求めており、本協定からの除外に反発する可能性が高い。

2018年第1四半期まで交渉継続

交渉国は「全ての提案内容を評価する時間を設ける」として、当初10月末または11月初に予定されていた第5回会合(開催地:メキシコ)を11月17~21日に延期し、2018年第1四半期まで交渉を継続することを決定した。交渉国は、メキシコの大統領選挙(2018年7月)や米国の中間選挙(2018年11月)に関する動きが活発化すれば合意が難しくなるとの認識の下、2017年中の合意を目指してきたが、年内妥結は断念した。

「2015年大統領貿易促進権限法」(TPA法)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(注3)は大統領に対して、貿易協定に署名する90日前までに議会に署名の意思を通知することを義務付けている。また、米国際貿易委員会(USITC)に対して、大統領による署名後105日以内に当該貿易協定が米国の経済や産業に及ぼす影響などについて評価し、大統領と議会に報告することを義務付けている。ワシントンの議会政治の専門家は、こうしたスケジュールを考慮すると、2018年3月末で交渉がもし妥結したとしても、「NAFTAの議会批准が2018年に行われる可能性は極めて低い」との見方を示している。

また、交渉が2018年7月まで続く場合、トランプ政権は7月1日に更新期限を迎えるTPAの更新手続きを行う必要がある。この日までに大統領が署名した貿易協定はTPAに基づき議会の修正を受けない賛否のみの採決に付すことができるが、同日を過ぎた場合はTPAを更新しない限りこの審議プロセスを活用することはできない。大統領がTPAの更新を要請し、議会がそれを拒否する決議を可決しなければ、TPAは2021年7月1日まで更新される。しかし、ウィルバー・ロス商務長官は「現状の議会の硬直状況をみれば、議会がTPA法を更新する可能性は低い」と危機感を示している。さらに、「TPAを失えば、NAFTA協定が妥結することはない」「一般的に、2018年に多く積み残せば、これほど大きく複雑な協定を成立させることはできない」と述べている(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版10月17日)。

(注1)NAFTAの完成車(大型バス・トラックを除く)における域内比率の算定においては、「トレーシングルール」と呼ばれる特別なルールが用いられている。トレーシングルールの下では、定められた関税番号リスト(Annex403.1)に該当する品目(トレーシング対象品目)が域外から輸入されている場合にのみ、当該品目の輸入時点までさかのぼって「非原産材料価額」に含めることが求められる。Annex403.1に該当しない品目については、たとえ域外から輸入したとしても「非原産材料」扱いにはならない。トレーシング対象品目に鉄鋼製品が追加される場合の影響については、2017年7月18日記事参照

(注2)競争政策については、第3回会合後の共同声明において、第4回会合の前に交渉がまとまるとの見通しが示されていた(2017年10月3日記事参照)。ライトハイザーUSTR代表も第4回会合の開会スピーチ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますにおいて競争政策は既に妥結したと発言していた。

(注3)米国憲法では外国との通商関係は議会が管轄しているが、TPA法は、この通商交渉に関する権限を大統領に一時的に付与するもの。議会に対する報告・相談義務など、同法に定められた目的や手続きにのっとって政権がまとめた通商協定法案は、議会で修正を受けずに賛否のみの採決に付すことができる。

(鈴木敦)

(米国、カナダ、メキシコ)

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