NAFTA再交渉、中小企業の活用促進で決着-第3回会合終了、ヤマ場は次回以降に-

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2017年10月03日

米国、カナダ、メキシコによる北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の第3回会合が閉会した。交渉国間で意見の対立が少ないNAFTAの「現代化」に係る条項が中心となったもようで、中小企業の活用促進に関しては交渉がまとまった。しかし、政府調達や貿易救済措置の発動に係るルール改定などの分野はこれからという状況だ。原産地規則や投資家対国家の紛争解決手続き(ISDS)については、米国側から具体的なテキストが示されておらず、交渉のヤマ場は次回会合以降になる。

幾つかの分野で「重要な進展」

9月23日からカナダ・オタワで開催されていたNAFTA再交渉の第3回会合が27日に閉会した。米国、メキシコ、カナダ政府が発表した共同声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますには、幾つかの分野で「重要な進展(Significant Progress)」がみられたと記された。

共同声明によると、中小企業の活用促進に関する条項については交渉がまとまった。また、競争政策に関する条項についても大きな進展があり、10月11~15日に米国ワシントンで行われる次回会合の前に交渉がまとまるとの見通しが示された。そのほか、通信、競争政策、デジタル貿易、規制慣行、税関・貿易円滑化の分野で意味のある進展がみられたとしている。ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表によれば、国有企業に対する規律や衛生植物検疫措置(SPS)の分野でも交渉が進展しているという。

こうしたNAFTAの「現代化」に関する分野は交渉国間の意見対立は少なく、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定で既に合意している分野も含まれている。このため、他分野に比べて交渉は容易との見方が強かった。

政府調達分野で提案を交換

ライトハイザーUSTR代表は、交渉のヤマ場はこれからとの見方を示しており、これまでの進展を評価しつつ、「幾つかのとても困難で意見が対立する条項を含め、今後片づけなければならない仕事が大量にある」と述べた。メキシコのイルデフォンソ・グアハルド経済相も「われわれはワシントンで行われる次回の交渉会合において、乗り越えなくてはならない実質的な課題に直面する」と述べている(通商専門誌「インサイドUSトレード」9月27日)。

政府調達については、各国は互いの提案を交換した。「ブルームバーグ」(9月29日)は、米国は同国の政府調達市場へのメキシコとカナダのアクセス規模を、両国が米国に開放する政府調達市場の規模と同レベルに限定することを要求していると報じたが、ワシントンの通商弁護士によると、この要求に対しては、米国政府の内部や産業界からも反対の意見が出ているという。

そのほかUSTRは、アンチダンピング(AD)と補助金相殺関税(CVD)措置の発動に関する紛争解決制度(NAFTA19章)や、セーフガード措置発動に係るNAFTA加盟国の適用除外規定(NAFTA802条)の撤廃についても提案したもようだ(注1)。これらの措置の撤廃には、メキシコとカナダ政府が強く反対している。カナダ政府はNAFTA19章の改定案を示しているが、内容は不明だ。

米国政府はまた、繊維製品の原産地規則の例外である「非原産繊維製品特恵関税割当(TPLs:Tariff Preference Levels)」の撤廃を提案している(「インサイドUSトレード」9月26日)。TPLsをめぐっては、撤廃を求める繊維メーカーと維持を求めるアパレルメーカーが対立している(2017年7月24日記事参照)。米国アパレル・履物協会(AAFA)などのアパレル・流通10団体は9月20日、NAFTA再交渉においてTPLsを維持することを求めるレター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを3カ国の交渉責任者宛てに出している。

労働組合は労働条項が不十分と批判

労働条項については、USTRが提示した交渉テキストに対して、同テキスト案の説明を受けた労働組合から内容が不十分との批判が出ている。全米最大の労組組合である米国労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)貿易・グルーバル政策専門家のセレステ・ドレーク氏は「急を要するNAFTAの労働問題に対応できるように作られたテキストではない」と述べている(「ウォールストリート・ジャーナル」紙9月26日)。

米国とカナダの労働組合は、メキシコが緩い労働者保護に基づいた低賃金により企業を誘致し、不当に安い生産コストで輸出を行っていると批判し、メキシコの労働環境の改善を求めてきた。特に労働条項に違反した国に対して、他のNAFTA加盟国が関税引き上げなどの報復措置を取ることができる「執行力のある」労働規定の導入を求めている。

民主党のサンダー・レビン下院議員(ミシガン州)は、「再交渉後のNAFTAが議会で投票に付される前にメキシコの労働環境に劇的な変化がなければ、民主党の支持は全く得られないだろう」と述べている。

原産地規則やISDSのテキストは示されず

USTRは、メキシコやカナダが強く反対する可能性のある幾つかの条項について交渉テキストを示していない。

自動車の原産地規則に関しても、議論は既に一部行われているが、米国の提案内容は依然不明だ。ライトハイザーUSTR代表は「できれば次回会合までに具体的なテキストを用意したい」と述べた(「ニューヨーク・タイムズ」紙電子版9月28日)。

そのほか、「投資家対国家の紛争解決手続き(ISDS)」に関する交渉テキストも示されていない。ライトハイザーUSTR代表はNAFTA再交渉の開始に当たり「国家主権を尊重するかたちで紛争解決システムは設計されなくてはならない」と述べたが、米国の産業界はISDSを堅持するよう求めている(注2)。他方AFL-CIOなどの労組団体はISDSの撤廃を主張している。米国政府は、参加国がそれぞれISDSを利用するかどうかを決められる制度の導入も検討していると報じられているが、最終的な交渉方針は依然見えない。

貿易赤字の状況により5年ごとに協定参加の是非を見直す「サンセット条項」についても、米国政府内で意見が分かれており、交渉テキストは示されなかった。

(注1)「2015年大統領貿易促進権限法」(TPA法)105条(b)(3)項PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は、新たな貿易協定に署名する180日前までに、米国の貿易救済措置関連法に修正が必要な事項を記載した報告書を議会の関連委員会に提出することを大統領に義務付けている。「インサイドUSトレード」(9月24日)によると、USTRは9月22日に同報告書を提出しており、米国がNAFTA19章と802条の撤廃を米国政府が提案したことが記されている。同報告書の提出により、議会がNAFTAの批准法案を審議できるのは最も早くて2018年3月21日になった。

(注2)ビジネスラウンドテーブル、米国商工会議所、全米製造業者協会(NAM)の米国主要産業団体は8月23日、NAFTA再交渉でISDS条項を維持するよう米国政府に求める声明PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発出している。

(鈴木敦)

(米国、カナダ、メキシコ)

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