NAFTA再交渉が開始、USTR代表は大きな改善が必要と主張

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2017年08月18日

北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に関する第1回会合が8月16日にワシントンで始まった。ロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は共同記者会見において、現協定の単なる微修正では十分ではなく、大きな改善が必要と述べた。NAFTAの現代化には誰もが合意しているとしながら、その後の交渉がヤマとなるとの見通しを示した。NAFTA再交渉の第1回会合は8月20日まで開催される予定。

初日に3カ国代表が共同記者会見

8月16日の共同記者会見では、ライトハイザーUSTR代表、メキシコのイルデフォンソ・グアハルド経済相、カナダのクリスティア・フリーランド外相がそれぞれ発言した。

グアハルト経済相とフリーランド外相はNAFTAの加盟国経済への貢献を強調したが、ライトハイザー代表は「NAFTAは多くの米国人を根本的に失望させてきた」と述べた。現協定の単なる微修正や幾つかの規定の現代化では十分ではなく、大きな改善が必要と主張した。

ヤマは「現代化」交渉の後になるとの見通し

ライトハイザー代表の発言内容は、7月17日にUSTRが発表した再交渉目的の詳細(2017年7月20日記事7月21日記事参照)にのっとっているが、米国政府の交渉方針がより明確に示されている。

ライトハイザー代表はまず、「NAFTAの現代化の必要性には誰もが合意している」とし、デジタル貿易、サービス貿易、電子商取引、通関手続き、知的財産権保護、エネルギー、透明性の確保、科学に基づいた農業貿易の分野での規定の導入や現代化が必要だと述べた。NAFTA再交渉を通じて、今後の貿易協定のモデルとなる規定をつくりたいとしている。

ライトハイザー代表はその上で、「現代化(交渉)の後に、厳しい作業が始まる」との見通しを示している。「各国の農家や企業家、労働者、家族などの文字どおり何百万人もの正当な利益を釣り合わせなければならない」とし、米国の農家や牧場経営者にとってメキシコとカナダは最大の輸出先との認識を示す一方、われわれはNAFTAの下で生まれた巨大な貿易赤字や製造業雇用の喪失、企業の閉鎖や移転を無視することはできないと述べている。

農業・畜産・酪農団体は、製造業分野での貿易赤字削減に主眼を置いた再交渉により、カナダとメキシコへの農産品の無税での市場アクセスを損なわないよう、トランプ政権に求めてきた(2017年7月21日記事参照)。全米豚肉生産者協議会(NPPC)は交渉前日の8月15日に声明を発表し、両国への市場アクセスを維持するよう、米政権を再度牽制している。

なお、ライトハイザー代表は、NAFTA加盟国に対する米国の関税撤廃の影響を調査するよう国際貿易委員会(ITC)に命じており(2017年5月29日記事参照)、機密情報扱いの同調査の結果は8月16日にUSTRに提出された(通商専門誌「インサイドUSトレード」8月16日)。センシティブ品目として保護されている砂糖の業界団体は、同調査の公聴会で、輸入関税を維持するよう求めている。

米国政府は自動車の原産地規則を強化の方針

記者会見ではまた、米国政府が再交渉の議題に挙げる具体的な事項が列挙された。

企業の関心が高い原産地規則については、自動車と同部品を名指しし、より多くのNAFTA産(NAFTA content)と「相当量の米国産(substantial U.S. content)」が含まれるようにしなければならないとした。後者の言葉遣いが米国産品に限定した原産地規則の導入を意図しているかは不明だが、グアハルド経済相やフリーランド外相は特定国に限定した原産地規則の導入には否定的な意見を示している(「インサイドUSトレード」8月16日)。自動車の原産地規則をめぐっては、米系を含めた自動車メーカーが比率の現状維持を求める一方、労働組合は引き上げを求めており、労使で意見が対立している(2017年7月14日記事参照)。ライトハイザー代表は、原産地規則の認証規則の強化に取り組むとしている。

為替操作条項については、「実効的な(effective)」規定を導入すべきだと述べた。為替操作条項は、前述のNAFTA再交渉目的の詳細にも、「NAFTA加盟国が国際収支の効果的な調整や不公平な競争優位を獲得するために為替操作を行うことがないよう、適切な仕組みにより保証する」と明記されている。同条項は米系自動車メーカーが導入を求めてきたが、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定では、本協定に最終的に盛り込まれず、関係国間の協議事項として位置付けられた。米系自動車メーカーは、NAFTAで将来の貿易協定のひな型を作るとし、為替操作を行った国に対する協定特恵税率の適用を停止する「強制力のある(enforceable)」規定の導入を主張している。

またライトハイザー代表は、国家主権と民主制度を尊重した紛争解決手続きの構築を挙げた。NAFTA再交渉目的の詳細には、アンチダンピング(AD)や補助金相殺関税(CVD)措置に関する特別な紛争解決制度(NAFTA19章)の撤廃が記載(2017年7月21日記事参照)されている。これに対し、フリーランド外相は、同制度の撤廃に強く反対する姿勢を示している(ロイター8月14日)。

そのほか、ライトハイザー代表は、貿易赤字の縮小と均衡が取れた相互主義に基づく貿易関係の維持に向けて定期的な見直しを行うことや、厳しい労働条項の導入、非加盟国からのNAFTA域内へのダンピング輸出や国営企業への対応、政府調達と農業分野における公平で互恵的な市場アクセスなどを交渉議題として挙げた。

(鈴木敦)

(米国、カナダ、メキシコ)

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