オーストラリア、ニュージーランドとのFTA交渉開始を提案-2017年EU一般教書演説の注目点(4)-

(EU)

ブリュッセル発

2017年10月18日

欧州委員会のユルキ・カタイネン副委員長(雇用・成長・投資・競争力担当)とセシリア・マルムストロム委員(通商担当)による、貿易関連の政策文書をまとめた「貿易パッケージ」に関する記者会見報告の後編。同パッケージに含まれる、オーストラリア、ニュージーランドとの自由貿易協定(FTA)交渉開始と、投資紛争解決に関する多国間法廷の設立協定の交渉開始に関する勧告を中心に概説する。

マンデート案には投資保護章が含まれず

貿易パッケージは、欧州委のジャン=クロード・ユンケル委員長が前日の一般教書演説で言及したもので(2017年10月13日記事参照)、対内直接投資の欧州スクリーニング枠組みの提案も含まれていた(2017年10月17日記事参照)。欧州委は、このパッケージにおいて、オーストラリア、ニュージーランド(NZ)とのFTA交渉開始に向けたマンデート(権限移譲)案を含む、EU理事会(閣僚理事会)に対する勧告を発表。マルムストロム委員は会見で、「価値観を共有する国との貿易を拡大することになる」と強調した。

オーストラリア、ニュージーランド両マンデート案の特徴は、投資の保護および紛争解決に関する交渉が含まれていない点だ。EU司法裁判所は5月16日にEUシンガポールFTAについて、EUは投資家対国家の紛争解決(ISDS)について排他的権限を有しておらず、ISDSは加盟国との共轄分野とする判断を示していた(2017年5月17日記事参照)。この判断を受けて、欧州委と加盟国がFTA交渉における投資保護の位置付けについて協議中であることから、交渉を早期に開始するために取られた措置だという。ただし、マンデートの最終案は、加盟国の協議を経て作成されるため、投資保護が両国とのFTA交渉においてどのように扱われるか、引き続き注意が必要だ。

さらに、欧州委は今回、両マンデート案を一般公開した。これまでFTA交渉のマンデートは一般公開されていなかったが、ベルギー南部ワロン地域政府の反対でカナダとの包括的経済貿易協定(CETA)の署名が危ぶまれたことを踏まえ(2016年10月31日記事参照)、加盟国政府や国内地域政府も含めて議論を早期から広範に引き起こしたい意向だ。なお、EU理事会は2017年9月14日、日本との経済連携協定(EPA)交渉マンデートを公開した。

マルムストロム委員は会見で、将来の通商交渉において、貿易と投資保護分野の交渉を別々に行うかは、ケース・バイ・ケースで判断すると述べた。また、既に合意済みのベトナムやシンガポールとのFTAで、投資保護と貿易に関する部分を切り離して署名、批准プロセスを進めるかについては、明言を避けた。

投資裁判所制度の国際展開を目指す

欧州委はEU理事会に対して、投資紛争解決に関する多国間投資裁判所の設立協定の交渉開始に向けたマンデート案を含む勧告も公表した。従来の国際商事仲裁方式を活用したISDSに対しては、透明性や環境・消費者保護に関する国の規制権限について警戒感が根強い。欧州委は、EUが提唱し、ベトナムとのFTAおよびCETAに盛り込まれた、常設の投資裁判所制度(ICS、2016年2月8日記事および2017年2月16日記事参照)をさらに発展させ、最終的に関係国全てが活用できる「多国間投資裁判所」を創設したい構えだ(2017年10月3日記事参照)。

欧州委は、多国間のICS導入による透明性の向上、判事の完全な独立性、高水準の倫理規範、控訴審の設置、国による規制権限の保証を強調。今後、できるだけ多くの国・地域を巻き込んで議論を行いたいもようだ。

このほか、貿易パッケージでは、EUが締結する通商協定に関する諮問グループの創設も盛り込まれた。このグループは、企業団体や労働者団体、消費者団体を含む広範かつバランスの取れた利害関係者から、より容易かつ早期に通商交渉の対象分野に関する意見聴取を可能とすることが目的だ。

(村岡有)

(EU)

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