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EUシンガポールFTAは「混合協定」-EU司法裁判所が意見書-

(EU、シンガポール)

ブリュッセル発

2017年05月17日

 EU司法裁判所(ECJ)は5月16日、EUシンガポール自由貿易協定(FTA)のうち、ポートフォリオ投資と投資家対国家の紛争解決(ISDS)の2分野については、EUと加盟国が権限を共有しており、同協定の正式な発効にはEUだけでなく加盟国の承認も必要だ、とする意見書を発表した。この意見書は、EUが今後、締結するFTAなどの通商協定にも影響を与えるものとして高い関心を集めていた。この見解に基づくと、ISDS関連条項を含む通商協定の正式な発効にはEU全加盟国による批准が必要となるため、手続きの複雑化を懸念する声もある。

加盟各国議会などの批准も必要に

EUシンガポールFTA(投資章以外は2013年9月に、投資章は2014年10月に交渉妥結)は、関税の引き下げや非関税障壁の撤廃に加えて、知的財産権の保護や投資、政府調達、競争、持続可能な開発などに関する条項も含む「新世代のFTA」となる(2013年9月24日記事参照)。同協定には加盟国が権限を有する分野が含まれている可能性もあるとして、欧州委員会は2015年10月に、同協定においてEUが排他的権限を有する部分と、EUと加盟国が権限を共有する部分、加盟国が排他的権限を有する部分を明確にするよう、EU司法裁判所(ECJ)に見解を求めていた。

ECJは今回の意見書において、EUシンガポールFTAにはEUの専権事項だけでなく、加盟国と権限を共有する分野の条項も含まれる「混合協定」だと判断。同協定の正式な発効にはEUレベルだけでなく、加盟各国政府の承認も必要になる、との認識を示した。加盟国と権限を共有していると判断されたのは、次の2分野だ。

  • ポートフォリオ投資(対外直接投資に含まれない、企業の経営と管理に影響を及ぼすことを意図しない投資)、および関連する情報交換のルールと、通知・確認・協力・仲裁・透明性・紛争解決に関する義務についてのルール
  • 投資家対国家の紛争解決(ISDS)

EUが排他的権限を有する分野については、欧州議会の同意が得られた段階で暫定的に適用を開始できるが、上記2分野の適用には、EU全加盟国の議会(および国会と同等の権限を持つ加盟国内の地域議会)の批准による、協定の正式な発効が必要となる。特にISDSについて、ECJは「係争を加盟国の司法制度の管轄外に移すものであり、加盟国の合意なく、こうした制度を設立することはできない」との判断を示した。

一部からは発効手続きの複雑化を懸念する声も

今回のECJの意見書は、EUが現在、発効に向けた手続きを進める通商協定や、交渉中の協定にも影響を与えるものとして関心を集めていた。ECJの見解に基づくと、EUがカナダとの包括的経済貿易協定(CETA)やベトナムとのFTAにおいて導入で合意した、従来のISDS制度に代わる「投資裁判所制度」(2016年7月25日記事参照)の設立にも、各加盟国政府・議会による協定の批准が必要となる。

またEUでは、2016年10月にベルギー南部のワロン地域政府の反対により、CETAの調印が遅れ、混乱が生じた(2016年10月31日記事参照)。こうした経緯も踏まえ、今回の決定に対して警戒感を示す向きもある。欧州化学工業連盟(Cefic)は「ECJの役割は尊重するが、加盟国および域内の一部地域の議会が協定を批准する必要が生じるため、この決定は将来のFTAの適用手続きを複雑化するものであり、EUの貿易パートナーとしての信頼性を損なうものだ」として懸念を表明した。

一方、欧州委は「EUと加盟国の権限の割り当てが明確になった」として意見書を歓迎したものの、「意見書を注意深く分析し、加盟国および欧州議会との取り組みを継続する」と述べるにとどまった。また、欧州議会国際貿易委員会のベルント・ランゲ委員長(ドイツ選出)も声明を発表し、「政策立案者は意見書から必要な結論を導き、共通通商政策の強みと正当性、一貫性を損なわずに推進する方法を決定しなければならない」とし、迅速な行動を呼び掛けると同時に、欧州委に対してEUシンガポールFTAの発効に向けた手続きの加速を求めた。

(村岡有)

(EU、シンガポール)

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