衣類と履物の関税率を改定、廉価輸入品には保証金制度も導入-パナマは新措置に不満を表明-

(コロンビア、パナマ)

米州課

2016年11月25日

 コロンビア政府は11月2日、2016年の政令1744号を公布し、衣類や履物に対する関税について、基準価格以下の輸入品にのみ高率な関税が適用される制度を導入した。また、同日付で2016年の政令1745号を公布し、違法輸入が疑われる水準以下の輸入品については、多様な情報をあらかじめ税関に提出した上で所定の保証金を支払わないと輸入できない輸入監視制度を導入した。これらの措置はWTO違反と裁定された複合関税措置に代わるものだが、複合関税を問題視していたパナマ政府は、新措置も同国のコロン・フリーゾーンの中継貿易を害するものとして不満を表明している。

WTO違反の複合関税措置は111日に廃止>

 コロンビア政府は20131月、政令74号/2013を公布し、アジアからの輸入急増を懸念する国内産業に配慮するかたちで、縫製品と履物の関税に従量税を追加して従価税との複合税とした。従来15%だった従価税を10%に引き下げる一方、1キロあるいは1足当たり5ドルの従量税を追加した(2013年1月29日記事参照)。中国などアジアからの縫製品や履物はパナマのコロン・フリーゾーンを経由して取引されることが多く、コロンビアの複合関税はパナマの中継貿易の妨げになる。パナマ政府は、同制度がコロンビアのWTO譲許税率(3540%)を実質的に超えているとして、2013年以降、WTOの紛争解決メカニズムの下で争った結果、最終的に20166月、上級委員会の裁定でコロンビアの措置がWTO違反と確定した(2016年6月20事参照)。コロンビア政府は複合関税措置を修正する意思をWTOに通知した一方で、複合関税措置は不当に低い申告価格で輸入するアンダーバリューや資金洗浄などの犯罪行為を防止するためだとし、違法行為を取り締まるまでの代替措置の考案のためには、WTOの「紛争解決に係る規則および手続きに関する了解」の第21.3条に定められた「妥当な期間」が必要と主張。複合関税の適用期限を当初の730日から111日まで延長する内容の2016年政令229号を729日に公布した(2016年8月19日記事参照)。

 

 パナマ政府はコロンビア政府の複合関税期限延長を受け、88日付でWTOの紛争解決機関(DSB)に書簡を送付し、コロンビア政府が求める「妥当な期間」について、仲裁で決定するように仲裁人の任命をWTOに要請した。WTO1115日、仲裁の結果、「妥当な期間」は2017122日までと決定し、コロンビア政府などに通知した。しかし、コロンビア政府は仲裁の裁定が下る前の111日に複合関税を撤廃し、翌112日に新たな輸入監視措置を導入した。

 

<廉価品にはWTO譲許税率の上限税率を適用>

 政令1744号に基づき衣類や履物に対して新たに導入された関税率は、原則として2013年の政令4927号に基づく関税率であり、衣類や履物は15%、履物の部品(甲)は10%だ。ただし、輸入価格が基準額以下の廉価品については、高率の関税が課される(表1参照)。40%あるいは35%の関税率は、コロンビア政府がWTO加盟国に約束した譲許税率の上限値であり、同税率を課すこと自体はWTO違反にはならない。なお、基準額以下の輸入品に対する高率の関税の適用期限は2016112日から1年間で、1年後には税率が15%に統一される予定だ。

表1 政令1744号に基づく衣類・履物の暫定税率

 政令1744号に加え、政令1745号において、衣類や履物の各品目で設定されたアンダーバリューなどの違法輸入が疑われる水準以下の申告価格で輸入される場合には、多様な情報の提供を貨物到着の少なくとも1ヵ月前までに国税関税局(DIAN)に提出すること、それらの貨物を輸入するためには保証金の設定を要求することが導入された(表2参照)。政令1745号第4条に基づき、輸入者がDIANに対して事前に提出しなければならない主な情報は以下のとおり。

 

1)輸出者が輸入者に商品を販売する意図があることを証明する書簡

2)輸出者の存在を示す証明書類(設立登記文書など)

3)当該商品を販売するコロンビア国内のディストリビューターの情報

4)輸入申告価格が実際に支払われる(支払われた)価格であること、輸入品の倉庫の住所、流通販売経路の情報などについての輸入者の宣誓文書

表2 違法輸入監視のための措置が導入される輸入基準価格

 なお、基準価格以下の商品を輸入する輸入者は、輸入申告価格の2倍で計算した金額の保証金を指定口座などに3年間積み立てておく必要がある(第7条)。また、基準価格以下の衣類や履物を輸入できる税関を限定することが計画されており(第5条)、1118日時点で当該税関の名前は正式に公示されていないものの、コロンビア産業連盟(ANDI)に対して114日時点で提示した案によると、ブエナベントゥーラ港、カルタヘナ港、サンタマルタ港の3港湾となっている。

 

 表2の基準価格は、コロンビアの輸入通関統計から計算できる2015年の輸入平均単価と比べてもかなり低くなっているため、多くの産品に影響が及ぶとは考えられない。

 

<関税措置をめぐる両国間の協議は継続>

 パナマ政府は今回のコロンビア政府の措置に対し、不満の意を表明している。コロンビア政府はWTOのルールに違反しない措置としているが、パナマ政府は依然としてコロン・フリーゾーンの中継貿易に悪影響を与えるとし、WTOのルールに整合的でない、という立場だ。

 

 パナマのアウグスト・アロセマナ商工相は、113日付の商工省プレスリリースで、コロンビア政府はWTO違反とされた複合関税を撤廃するという点ではWTOの裁定に従うことを選択したが、「同時に(WTOの)市場アクセスや関税評価などさまざまな義務に違反する輸入制限措置を導入することは許されない」とし、政令1745号に基づく輸入監視措置を問題視している。また、監視対象の商品を輸入通関できる港湾を限定した措置についてもWTO違反だとしている。

 

 両国の主要紙によると、パナマ政府は1122日以降にコロンビア政府と協議を重ね、両国が納得のいくかたちの合意策を見いだしていくとしているが、合意に至らない場合は再びパナマ政府がコロンビア政府の措置をWTO違反として訴える可能性も否定できない。また、DSBが、今回のコロンビアの措置についてWTOの裁定を順守した措置と認めない可能性もある。なお、WTO上級委員会の勧告をコロンビア政府が順守するために必要な期間として認められているのは、前述のとおり2017122日までだ。

 

(中畑貴雄)

(コロンビア、パナマ)

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