コロンビアの複合関税措置をめぐる紛争が長期化-パナマ政府は報復措置も検討-

(パナマ、コロンビア)

米州課

2016年08月19日

 コロンビア政府が縫製品や履物に対して課している複合関税をめぐるパナマとの通商紛争が長期化している。WTO上級委員会の違反との裁定を受け、政府は同措置を変更する意向をWTOに通知しているが、代替措置を考案するのに「妥当な期間」が必要として複合関税の適用を11月1日まで延長した。パナマ政府はこれに強く反発し、報復措置を検討するとともに、コロンビアからの輸入が多い切り花などの関税を、8月16日から12月末までWTO譲許税率の上限まで引き上げる政令を公布した。

<コロンビア:複合関税の適用を111日まで延長>

 コロンビア政府は20131月に政令74号/2013を公布し、アジアからの輸入急増を懸念する国内産業に配慮するかたちで、縫製品と履物の関税に従量税を追加して従価税との複合税とした。従来15%だった従価税を10%に引き下げる代わりに、1キロあるいは1足当たり5ドルの従量税を追加した(2013129日記事参照)。

 

 中国などアジアの縫製品や履物はパナマのコロン・フリーゾーン(CFZ)を経由して取引されることが多く、コロンビアの複合関税はパナマの中継貿易の妨げになる。パナマ政府は同措置がコロンビアのWTO譲許税率(3540%)を実質的に超えているとし、2013618日にWTOの枠組みでコロンビア政府に協議を要請した。WTOは同年925日に紛争処理小委員会(パネル)を設置して審議を開始、201511月末にコロンビアの複合関税措置は「WTO違反」というパナマ勝訴の裁定を下したが、同裁定を不服としたコロンビア政府は20161月、上級委員会に裁定の取り消しを求めて提訴した(201623日記事参照)。

 

 上級委員会の裁定でもコロンビアの措置は「WTO違反」と再確認され(2016620日記事参照)、622日にWTO紛争解決機関(DSB)はパネルと上級委員会の裁定を正式に採択したため、コロンビア政府は複合関税措置を修正する意向をWTOに通知した。

 

 しかし、コロンビア政府は、複合関税措置は不当に低い申告価格で輸入するアンダーバリューや資金洗浄などの犯罪行為を防止するためだとして、違法行為を取り締まるまでの代替措置の考案のためにはWTOの「紛争解決に係る規則および手続に関する了解」の第21.3条に定められた「妥当な期間」が必要だと主張、複合関税の適用期限を当初の730日から111日まで延長する内容の2016年政令229号を729日に公布した。

 

<パナマ:「妥当な期間」の決定に係る仲裁をWTOに要請>

 パナマ政府はコロンビア政府が複合関税を延長したことを受け、WTOを通じた手段と国内法による手段の双方で、コロンビアに対する対抗措置の検討を開始した。WTOを通じた手段としては、68日付でWTODSBに書簡を送付し、コロンビア政府が求める「妥当な期間」について、仲裁で決定するよう仲裁人の任命を要請した(DSB812日付通知文書WTDS46111)。

 

 WTOの「紛争解決に係る規則および手続に関する了解」の第21.3条は、DSBが勧告あるいは裁定を正式に採択した日(622日)から45日以内に紛争当事者間で「妥当な期間」についての合意がなされない場合は、採択から90日以内に拘束力のある仲裁によって決定されると規定している。パナマ政府は仲裁により適用期限を明らかにすることで、コロンビア政府に早急に複合関税を撤廃するよう促し、仮に撤廃されない場合でも期限到来後にWTOの枠組みで速やかに報復措置を適用できる仕組みを整備する狙いがある。

 

 他方、国内法による対抗措置も検討している。パナマの内閣に当たる閣僚評議会は82日、2002年法律58号を改正し、税制や通商においてパナマやパナマ国民・企業を不当に差別する国に対する報復措置を強化する法案を策定・採択した。2002年法律第28条は、パナマを不当に差別する国をリスト化し、リストに掲載された国の企業や自然人がパナマ政府や政府機関の調達に参加するのを禁止している。今回の改正は、従来の政府調達のみならず、さまざまな分野で差別国の企業や自然人、産品やサービスに対して報復措置を可能にするものだ。パナマ大統領府の82日付プレスリリースによると、主に以下の報復措置が適用される。

 

○配当や利子、ロイヤルティーの送金など、パナマ源泉の所得の国外送金における規制や高い源泉税率の適用

○報復関税措置

○差別国の国民に対する出入国や労働規制の強化

○政府調達における規制や応札資格の停止

○貨物や旅客の陸上・航空・海上輸送サービスの規制(輸送機材・船舶の国籍や積み出し港・仕向け港などに応じて規制)

○その他閣僚評議会が妥当と考える措置

 

 パナマ政府の公式文書やプレスリリースでは、今回の法律改正をコロンビアに対する報復措置の導入と直接関連付けてはいないが、両国の主要紙はコロンビアを視野に入れたものであり、パナマ国会で同法案が成立すれば、差別国のリストにコロンビアが載ることになると報じている。82日の閣僚評議会後の記者会見で、パナマのフアン・カルロス・バレラ大統領は「コロンビアはWTOの裁定を受け止め、速やかに複合関税を撤廃すべきだ」と述べた(「ポルタフォリオ」紙82日など)。

 

 パナマ政府は811日、閣僚評議会が策定・採択した法案を国会に提出。記者会見でドゥルシディオ・デ・ラ・グアルディア経済財務相は「何年も前から検討していたもので、コロンビアの複合関税措置に対する報復だけが狙いではない」としたが、アウグスト・アロセマナ商工相は「コロンビアのやり方は間違っており、それがこの法案を急いで提出することになった理由だ」と語り、「明らかにコロンビアは(報復措置の)対象となる国だ」としている(「ラ・エストレジャ」紙812日)。

 

<切り花や石炭、女性用衣類の関税を引き上げ>

 パナマの閣僚評議会は82日、輸入関税率を変更する政令(閣僚評議会2016年政令28号)を採択し、811日付官報で公布した。対象となるのは、バラ、カーネーション、キクなどの切り花や、セメントクリンカー、石炭、女性用衣類で、パナマ政府がWTO加盟国に約束したWTO譲許税率の上限である30%もしくは15%まで関税率が引き上げられる(表参照)。ただし、自由貿易協定(FTA)締結相手国の産品にはFTA税率が適用されるほか、ラテンアメリカ統合連合(ALADI)の地域協定第4号(PAR4)に基づく同地域の低開発国(エクアドル、ボリビア、パラグアイ)に対する特恵税率と、コロン・フリーゾーンの貨物を国内に持ち込む際の関税率には変更がない。適用は816日~1231日までの時限措置だ。

表 パナマの一般関税率引き上げ対象品目

 政令28号の前文では引き上げの目的が明確に記載されていないが、全てコロンビアからの輸入が多い産品であり、主に影響を受けるのはコロンビア産品となっている。切り花についてはエクアドルからの輸入が多いが、ALADIのエクアドル向け特恵税率には影響がない。女性用衣類の輸入では米国産やコロン・フリーゾーン経由の輸入も多いが、双方とも影響を受けない(米国産については対米FTA税率が適用される)。一部の中国製衣類は影響を受けるが、中国製衣類の大半はコロン・フリーゾーン内の倉庫にいったん運ばれるため、コロン・フリーゾーンを経由したものは影響がない。こうしたことから、明らかにコロンビア産を狙ったものと判断され、コロンビアとパナマの主要紙はいずれも、引き上げをコロンビアに対する報復措置の一環と報道している。

 

(中畑貴雄)

(パナマ、コロンビア)

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