縫製品・履物の複合関税、WTO上級委員会も違反の裁定

(コロンビア、パナマ)

米州課

2016年06月20日

 WTOは6月7日、コロンビアが縫製品と履物に課税している複合関税制度をめぐるパナマとの通商紛争に関する上級委員会の裁定を加盟国に通知した。紛争処理小委員会(パネル)に続いて上級委員会でも、コロンビアの複合関税制度は「WTO違反」と再確認されたため、現行制度は適用期限の6月30日までに撤廃される見通しが強まった。

<コロンビア政府の主張も一部認める>

 コロンビア政府は20131月、政令74号/2013を公布し、アジアからの輸入急増を懸念する国内産業に配慮するかたちで、縫製品と履物の関税に従量税を追加して従価税との複合税とした。15%だった従価税を10%に引き下げる代わりに、1キロあるいは1足当たり5ドルの従量税を追加した(2013129記事参照)。

 

 中国などアジアの縫製品や履物は、パナマのコロン・フリーゾーン(CFZ)を経由して取引されることが多い。パナマ政府は、コロンビアの複合関税制度がコロンビアのWTO譲許税率(3540%)を実質的に超えており、パナマの中継貿易の妨げになるとして、GATT21a)および(b)が定める最恵国待遇に違反すると主張、2013618日にWTOの枠組みでコロンビア政府に協議を要請した。WTOは同年925日にパネルを設置し、審議を開始した。201511月末にパネルの報告書がWTO加盟国に送付され、コロンビアの複合関税措置は「WTO違反」というパナマ勝訴の裁定が下ったが、同裁定に対しコロンビア政府は20161月、主に以下の2点でパネルの裁定は間違いだと主張、上級委員会に裁定の取り消しを要請した(201623日記事参照)。

 

1)パネルは、GATT2条が定める最恵国待遇が過少申告(アンダーバリュー)など違法輸入にも適用されるかどうかという点について明確な判断を示しておらず、客観的な裁定になっていない。

2)複合関税は公のモラル維持や法律順守のために必要不可欠な措置であり、GATT20条の「一般的例外」に相当するというコロンビアの主張に対し、パネルは一般的例外の要件を厳格に判断し過ぎており、違法輸入の実態を考慮することなく、コロンビア政府に対し複合関税の必要性についての証明のみを求めているため、客観的な裁定ではない。

 

 上級委員会は、パネルがGATT2条が定める最恵国待遇が違法輸入にも適用されるかという点について全く分析を行っておらず、客観的な裁定ではないという点については、コロンビア政府の主張を一部認めた。ただし、違法輸入対策は関税評価額の監視やアンチダンピング(AD)税の適用などを通じてなされるべきで、最恵国待遇を与えないという手段は適当ではなく、また複合関税がコロンビアのWTO加盟国に対する譲許税率を実質的に超えているという事実は否定できないとし、GATT2条に違反する、とした。

 

 また、GATT20条が定める「一般的例外」については、コロンビアの複合関税措置が違法輸入やマネーロンダリングの防止を目的に導入された措置であることは認めたが(パネルでは複合関税の適用が違法行為の防止にはつながらないと断定していた)、同制度の適用が公のモラルの維持やコロンビアにおける法律順守に対して及ぼす効果の度合いと、貿易を制限してしまう効果の度合いが明確になっておらず、同制度が目的達成のために必要不可欠な措置であることの立証がされていない、というパネルの裁定を再確認した。

 

<複合関税は6月末までに撤廃または変更>

 WTOの上級委員会が、コロンビアの複合関税制度をGATT違反だと結論付けたため、コロンビア政府が裁定に従わない場合、WTOの枠組みで認められたパナマ政府による報復措置を招く恐れがある。

 

 複合関税制度の適用期限は当初、20142月末までだったが、その後2014年の政令450号に基づき、2016329日までとなっていた。しかし、WTO上級委員会の審議過程に合わせ、2016330日付官報で公布された政令515号/2016により再延長され、2016630日までが期限となっている。コロンビア商工観光省は67日にプレスリリースを出し、「WTO上級委員会の結論や勧告を分析し、犯罪の防止と抑制という政策方針は維持しつつも、必要な措置を講じる」としているため、現行の複合関税制度は6月末までに撤廃、あるいは変更される見通しが強くなっている。

 

(中畑貴雄)

(コロンビア、パナマ)

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