2015年の北朝鮮のGDP、5年ぶりマイナス成長に-韓国銀行が推計値発表-

(北朝鮮、韓国)

中国北アジア課

2016年08月12日

 韓国銀行(中央銀行)は7月22日、北朝鮮の2015年のGDP成長率の推計値を発表した。それによると、実質GDP成長率はマイナス1.1%で、2011年以降4年連続のプラス成長から5年ぶりのマイナス成長に転じた。マイナス成長は金正恩(キム・ジョンウン)体制になってからは初めて。建設業は好調だったものの、鉱工業や電気・ガス・水道業が不振だったためと韓国銀行は分析している。

<農林漁業、鉱業、重化学工業など軒並みダウン>

 韓国銀行が2015年に発表した報道資料(注1)では、2011年から2014年までの4年連続のプラス成長は、大規模な水害がなく良好な気象条件に恵まれ、農作物の生産が順調で、かつ鉱工業生産も活発だったためとしていた(表1参照)。2015年の産業別成長率をみると、農林漁業は畜産業と漁業が大幅に増加したものの、コメ、トウモロコシなどの穀物生産量が減少し、マイナス0.8%になった(表2参照)。鉱業も鉄鉱石やマグネサイトの生産が減少し、マイナス2.6%になった。軽工業では繊維・衣服・皮革・履物が振るわず、マイナス0.8%、重化学工業も金属・機械・輸送装備などが振るわず、マイナス4.6%となった。

 

 電気・ガス・水道業は、渇水により水力発電量が減少し、マイナス12.7%と大幅減となったものの、建設業は建物建設、土木建設ともに好調に推移し、4.8%となった。サービス業は政府サービスと卸・小売業、飲食・宿泊、運輸・通信業などの民間サービスが堅調で0.8%となった。

表1 北朝鮮と韓国の実質GDP成長率の推移
表2 北朝鮮の産業別実質GDP成長率(前年比)

<サービス業などの比率が年々高まる>

 韓国銀行は北朝鮮のGDP推計値に基づいた産業構造を発表している(表3参照)。これは名目GDPに占める各産業別の生産額の比率を記載したもので、それによると、農林漁業は前年の21.8%から21.6%に、鉱工業は34.4%から32.7%に比率が低下している。一方、電気・ガス・水道業が4.3%から4.5%に、建設業が8.2%から9.0%に、サービス業が31.3%から32.2%に拡大した。

表3 北朝鮮と韓国の産業構造比較

 農林漁業と鉱工業の比率が低下し、電気・ガス・水道業、建設業、サービス業の比率が高まる傾向は2012年以降変わっていない(2013年7月23日記事2014年7月10日記事2015年8月4日記事参照)。

 

<名目GNIは韓国の45分の1

 2015年の北朝鮮の名目国民総所得(GNI)は、韓国ウォンで換算すると345,000億ウォン(約31,740億円、1ウォン=約0.092円)で、韓国のGNI1,5658,000億ウォン)の45分の1にとどまる(表4参照)。

表4 北朝鮮の経済規模および1人当たりGNI

 また、1人当たりのGNI1393,000ウォンで、韓国の3,0935,000ウォンの22分の1の水準にあり、2012年の格差が、名目GNI41.6倍、1人当たりGNI20.3倍だったことを考えると、GNI1人当たりGNIともに韓国との格差は拡大傾向にある。

 

<貿易は前年比17.9%の大幅減>

 このほか、韓国銀行は、北朝鮮と韓国の貿易規模の比較を行っている。それによると、2015年の南北交易を除いた北朝鮮の貿易規模は、前年比17.9%減の625,000万ドルとなった(表5参照)。輸出は前年比14.8%減の27億ドル、輸入が20.0%減の356,000万ドルになっている。輸出は繊維類が5.3%増だったものの、鉱物性生産品が14.7%減少したのが大きく、輸入は鉱物性生産品が34.2%、繊維類が15.9%、それぞれ減少した影響が大きかったと分析している。

表5 北朝鮮と韓国の貿易規模

 なお、2015年の南北交易については、報道資料の参考として添付した統一部作成資料の中で、韓国から北朝鮮への搬出(注2)が前年比10.8%増の125,900万ドル、北朝鮮から韓国への搬入が20.4%増の145,230万ドル、合計では15.7%増の271,130万ドルと明らかにしている(表6参照)。搬出増加の要因は電気・電子製品や化学工業製品の増加、搬入増加の要因は電気電子製品、生活用品をはじめほとんどの品目が増加したとしている。

表6 南北交易の推移

(注1)韓国銀行は1991年以降、北朝鮮の経済活動に関連する基礎資料の提供を関連機関から受け、それを基に、韓国での価格、付加価値などを適用して「北朝鮮の経済成長率」を推計している。これは北朝鮮の経済力を韓国の経済的視点から比較・分析し、その結果を北朝鮮政策に活用することを目的としている。この推計作業は国連の国民経済計算体系(SNA)に基づいている。

(注2)韓国と北朝鮮の貿易は、国家間の取引ではなく、民族内部の取引であるとの位置付けから、韓国では「南北貿易」とは呼ばずに「南北交易」と呼んでおり、韓国から北朝鮮への輸出は「搬出」、北朝鮮からの輸入は「搬入」という用語を用いて、あくまで国内取引だとしている。

 

(根本光幸)

(北朝鮮、韓国)

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