縫製品・履物の関税めぐるWTOパネル裁定に異議申し立て-パナマとの通商紛争が長期化-

(コロンビア、パナマ)

米州課

2016年02月03日

 コロンビア政府は1月22日、縫製品と履物について2013年3月から課税している複合関税制度をめぐるパナマとの通商紛争に関するWTO紛争処理小委員会(パネル)の裁定を不服として、上級委員会に提訴した。同紛争により、パナマとコロンビアの自由貿易協定(FTA)の批准審議は停止されており、パナマの太平洋同盟への加盟条件の達成を困難にしている。

<複合関税は違法輸入対策とコロンビアが主張>

 コロンビア政府は20131月、政令74号/2013を公布し、縫製品と履物の関税に従量税を追加して従価税との複合税とした。従来15%だった従価税を10%に引き下げる代わりに1キロあるいは1足当たり5ドルの従量税を追加した。アジアからの輸入急増を懸念する国内産業に配慮したもので、同年31日から1年間の時限措置のはずだった2013129日記事参照)。しかし、政府は2014228日付官報で政令450号/2014を公布し、2016329日まで2年間、適用期間を延長するとともに、表1のとおり従量税を輸入申告価格に応じて変更した。なお、コロンビアがFTAを締結する相手国の原産品の場合、同複合関税は免除され、FTAが定める税率(0%など)が適用される。

 輸入申告価格が1キロ当たり10ドル以下の縫製品、1足当たり7ドル以下の履物の場合、従価税に換算すると非常に高率の関税が課されている。パナマ政府は、同複合関税がコロンビアのWTO譲許税率(3540%)を超えているため、GATT21a)および(b)が定める最恵国待遇に違反する、と主張し、2013618日にWTOの枠組みでコロンビア政府に協議を要請した。WTOは同年925日にパネルを設置し、審議を開始した。パナマがコロンビア政府の措置を問題視する理由としては、中国などアジアの縫製品や履物はパナマのコロンフリーゾーンを経由して取引されることが多いため、コロンビアの複合関税がパナマの中継貿易の妨げになることが挙げられる。

 

 コロンビア政府は複合関税措置について、不当に低い輸入申告価格で申告する違法輸入と、同違法行為を通じたマネーロンダリングを防ぐための措置だと説明。GATT2条に基づく最恵国待遇の付与は違法輸入には適用されないとするとともに、違法輸入行為を防止する目的で導入する措置はGATT20条(a)、(d)に基づく「一般的例外」措置だ、と主張した。

 

 WTOパネルは20151127日に報告書をWTO加盟国に送付し、コロンビアの複合関税措置はWTO違反、というパナマ勝訴の裁定を下した。同裁定の主要なポイントは以下のとおり。

 

1)コロンビアの複合関税措置は、合法的な輸入、違法輸入の区別なく適用される。

2)複合関税はコロンビアのWTO譲許税率を上回り、最恵国待遇違反だ。

3)複合関税措置がマネーロンダリング防止や法律の順守のために必要な措置であることを、コロンビア政府は十分に証明できていない。

 

 WTOパネルの上記裁定に対し、コロンビア政府は主に以下の2点でパネルの裁定は間違いだと主張、上級委員会に裁定の取り消しを要請した。

 

1)パネルはGATT2条が定める最恵国待遇が違法輸入に適用されるかどうかという点について明確な判断を示しておらず、客観的な裁定になっていない。

2)パネルはGATT20条の「一般的例外」の適用について厳格に判断し過ぎており、政令450号/2014が問題視する違法輸入の実態を考慮することなく、コロンビア政府に対し複合関税の必要性についての証明のみ求めているため、客観的な裁定ではない。

 

<太平洋同盟の拡大を阻む要因に>

 縫製品と履物をめぐるパナマとコロンビアの間の通商紛争は、両国間で2013920日に署名されたFTAの批准を遅らせる要因になっている。パナマのメリトン・アロチャ商工相(当時)は20151月、コロンビアとの間の複合関税をめぐる紛争が解決されるまでは、2国間FTAの批准をしないと宣言し、両国議会におけるFTAの批准審議は停止されている。

 

 パナマはチリ、コロンビア、メキシコ、ペルーの4ヵ国が加盟する太平洋同盟に発足当時からオブザーバーとして参加する「加盟国候補オブザーバー国」の1つで、太平洋同盟に正規加盟国として参加する意欲を持っている。太平洋同盟は開かれた統合体として、後からの新規加盟も歓迎しているが、太平洋同盟に加盟するためには、全ての正規加盟国とFTAを発効させる必要がある(太平洋同盟枠組み協定第11条)。パナマ政府は20144月にメキシコとのFTAに署名し、同FTA201571日に発効しているため、残るは対コロンビアFTAの発効のみだ(表2参照)。

 

 太平洋同盟には、中米のコスタリカも加盟国候補オブザーバー国として参加しており、20142月以降、正規加盟に向けた手続きを開始している。パナマが正規加盟を実現するためには、コロンビアとの2国間FTAの発効は避けて通れないため、両国間の通商紛争は太平洋同盟の拡大を阻む要因ともなっている。

(中畑貴雄)

(コロンビア、パナマ)

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