戦略的保税区域の恩典を再び拡大-利用促進へ各種措置盛り込む-

(メキシコ)

米州課、貿易投資相談課

2016年03月01日

 政府は2月4日、「戦略的保税区域とその活用スキームを奨励する政令」を公布した。2002年の戦略的保税区域(RFE)設置政令の公布以降、2度目の恩典の拡大となる。一時輸入に伴う付加価値税(IVA)の保税認定や特定部門別輸入業者の登録が自動的に行われるなど、RFEの利用促進に向けたさまざまな措置が盛り込まれている。

<認知度と活用率の向上が目的>

 メキシコには保税区域は数種類ある(表参照)。戦略的保税区域(Recinto Fiscalizado EstrategicoRFE)は、国税庁(SAT)の認可によって開設される。認可は2段階制で、まず、税関の敷地内、あるいは隣接する土地の使用権を有する者に戦略的保税区域全体の管理運営権が認可される(「運営認可」)。次に同認可済みのRFEにおいて、貨物の蔵置、点検、改装、仕分け、加工、製造、展示などを行う利用者の登録が認可される(「利用認可」)。前者を取得した者は「利用認可」を取得できない。いずれの認可も1回の有効期限は20年間だが更新可能。

 RFEは国境や空港、港湾部に隣接している必要があるため、チワワ州フアレス市やヌエボレオン州コロンビア市といった米国との国境都市や、ラサロ・カルデナス港やアルタミラ港などの主要港、またはグアナファト州シラオ市やサンルイスポトシ州サンルイスポトシ市のような内陸税関を有する都市に限られている。加えて、全国工業団地協会(AMPIP)によると、工業団地内に設置されたRFEはサンルイスポトシ市のWTC工業団地とヌエボレオン州モンテレイ市郊外のインテルプエルト・モンテレイ(Interpuerto Monterrey)工業団地の2ヵ所に限られているため、政府は新たな恩典を与えRFE自体の認知度と活用率を改善する必要があると判断した。

 

<新規事業認可の取得手続きを簡素化>

 24日に公布された「戦略的保税区域とその活用スキームの奨励のための政令」(RFE振興政令)および2016年の貿易に関する一般規則(SAT貿易細則)の改正により、新規にRFEを設立するデベロッパーにとっては、「運営認可」を得る手続きが簡素化される。

 

 これまで「運営認可」を取得するには、100万ペソ(約620万円、1ペソ=約6.2円)以上の資本があることを証明する会社定款の認証コピーや、税務義務履行証明、投資計画書、会社の資金調達能力やRFE運営に必要な技術・経営・財務能力があることを証明する宣誓文書の提出が求められるほか、RFEの敷地として20ヘクタール以上(うち10ヘクタールは拡張用地)を取得する義務が課されるなど、さまざまな行政手続きと要件があった。

 

 RFE振興政令が官報公示された24日にSATのウェブサイトに掲載されたSAT貿易細則の改正案(注)によると、RFE運営事業者には今後も最低資本金100万ペソの要件が残るものの、それを証明するために定款の認証コピーを提出する必要はなくなる。また、税務義務履行証明の提出義務はなくなり、単に「租税の支払いに滞納がないこと」が要件とされる。また、RFEの敷地として最低限20ヘクタール確保する義務はなくなり、小規模なRFEの設立も可能となる。

 

 また、RFE内に入居して保税オペレーションを行う企業が受ける「利用認可」の取得手続きについても、定款の認証コピーや税務義務履行証明の提出義務は免除される。ただし、定款の代わりに会社の代表者が署名して提出する宣誓文書では、最低60万ペソの資本金があることを明記する必要がある。

 

<付加価値税の保税認定が円滑に>

 RFEは輸出向け製造・マキラドーラ・サービス業振興プログラム(IMMEX)と同様、一時輸入に際して付加価値税(IVA)が保税となり、燃料など一部の品目に課される生産・サービス特別税(IEPS)やアンチダンピング(AD)税も不課税となるため、RFE内で生産活動や物流事業を営む企業にとって税務面でのメリットが大きい。

 

 今回のRFE振興政令で注目されるのは、一時輸入におけるIVAIEPSの保税認定の即時認可だ。2015年からはIMMEX企業やRFEの利用認可を受けた企業が行う一時輸入であっても、IVAIEPSを保税にするための特別な認定を受けなければIVAの支払い義務が発生することとなった。IVAIEPSの保税認定を受けるためには、従業員数や税務義務の履行などの条件を満たし、それを証明するためのさまざまな文書を提出する必要がある(2014年1月30日記事3月24記事参照)。SATは、認定申請の受理から40日以内に判定を下す(SAT貿易細則5.2.12号)。

 

 今回のRFE振興政令およびSAT貿易細則の改正により、RFEの利用認可を受けた企業は、申請すれば即時にIVAIEPSの保税認定が受けられるようになる(政令第3XI)。ただし、申請自体は出す必要があり、また、企業認定モダリティーが定める要件(AAAAAAAの数が多いほど恩典が大きいが要件が厳しい)を常に満たしておく必要があるので注意が必要だ(査察を受けた場合に要件を満たしている証明は必要)。これは、認定要件の緩和というよりも、手続きの円滑化(SATの認定が下りるまでの期間を待つ必要なく保税オペレーションが可能)を意味する。

 

 さらにRFE振興政令により、国内貨物の搬入手続きも簡素化される。国内貨物や一度確定輸入された外国貨物をRFE内に搬入した場合、従来はそれらの貨物は確定輸出されたと見なされ、税関への申告が必要だった。今後は、内国貨物に加工などを加えないことを条件にステータスは国内貨物としたまま搬入することが許される(政令第3VIおよびVII)。これにより、製造ラインや計画の変更により使用しなかった部品や余った機械設備などをRFE域外の企業へそのまま売り戻したりする場合に、再度ステータス変更の申告をする必要がなくなり、通関手数料などが不要となるメリットが生まれた。

 

 また新たな恩典として、輸入通関後3ヵ月以内であり、SATが税務調査を開始していない段階であれば、SATの許可なく輸入貨物の原産地を修正申告することが可能となった(政令第3IV)。これにより誤った原産地の申告が発覚した場合の罰金の適用を回避できる。メキシコでは輸入申告書の一部のデータについては、SATの許可がない限り修正申告することができない。その1つが貨物の原産地だ。

 

<特定部門別輸入業者登録も即時認可>

 政府は20141226日に「繊維・縫製産業の生産性向上・競争力強化・アンダーバリュー対策を定める政令」を公布し、繊維・縫製品(HS5063類)を輸入・加工する企業に対して特別分野輸入業者登録(PISE)を義務付けた(2015年1月19日記事参照)。繊維・縫製品はPISEの登録が必要な品目(SAT貿易細則別添10)の第11分野に区分される。主に中国製の廉価な輸入繊維から国内産業を守るために公布されたものだが、自動車産業向けにも繊維素材が用いられるため、一部の進出日系企業にも影響が出た。

 

 RFE振興政令により、RFEの利用認可を受けた企業であれば、PISEの登録が申請時に即時に認可されるようになった(政令第3I)。繊維・縫製品(SAT貿易細則別添1011分野)の場合、SATの法定審査期間は15日以内となっているため、申請から登録までの時間が大幅に短縮される。IVAIEPSの保税認定の即時認可と同様、輸入の円滑化に貢献する措置といえる。

 

 なお、RFE振興政令の第3IIIは、搬入後の貨物の一時輸入滞留可能期間をSAT貿易細則が定める期間とする恩典を記載している。SAT貿易細則は、2011年からRFE内の一時輸入滞留期間を60ヵ月(5年間)としている。しかし、税関法135C条ではRFE内の一時輸入滞留期間を2年としているため、法的安定性が問題視されていた。今回、SAT貿易細則だけでなく、政令でもSAT貿易細則が定める60ヵ月を一時輸入滞留期間として明記したことにより、法的安定性が高まった。なお、RFE内における加工に用いる機械設備については、一時輸入滞留期間は60ヵ月ではなく、当該企業のRFE利用認可の有効期限まで(延長すれば無期限)となっている。

 

<国境や港湾でのロスタイム回避も可能に>

 メキシコでは貨物の輸入通関の際、通関士が保税区域内での開梱(かいこん)・現物確認をすることが権利として認められている(通称「プレビオ」制度)。例えば米国からメキシコへの輸入の場合、米国国境の保税区域で開梱し、現物確認をすると貨物へのダメージやジャストインタイムの納品ができない恐れがある。

 

 RFEを活用する場合、RFE自体が内国税関に隣接した保税区域であるため、フェロメックス(Ferromex)やカンザスシティー・サザン・メキシコ(KCSM)の鉄道網などを利用して国境税関からRFEまで保税転送を行えば、混雑の少ないRFEの敷地内でプレビオを行うことが可能になる。混雑の少ないRFE内でプレビオと輸入通関を行えば、通関にかかるリードタイムを予想することが容易となる。また、貨物へのダメージを軽減することもできる。

 

 なお、今回のRFE振興政令により、RFEへの搬出入に係る申告は、どの税関の管轄であっても365日、24時間実施することが可能という恩典が追加されている(政令第3II)。RFEの具体的な恩典と今回の政令による変更は添付資料を参照。

 

(注)SAT貿易細則の第13条に基づき、SATのウェブサイトには細則の改正が草案策定時から掲載されるが、正式な効力を持つのは同改正が官報公示された後となる。

 

(中畑貴雄、志賀大祐)

(メキシコ)

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