繊維製品の輸入監視を強化、特別な業者登録が必要に

(メキシコ)

中南米課

2015年01月19日

政府は2014年12月26日、「繊維・縫製産業の生産性向上・競争力強化・アンダーバリュー防止対策を定める政令」を公布し、併せて同日および29日に関連規則を官報公示して、同産業を安価な輸入品から保護するためのさまざまな措置を導入した。2015年以降は繊維・縫製品の輸入に部門別輸入業者登録が必要となるため、繊維や自動車用シート素材など繊維製品を輸入する進出日系企業は注意が必要だ。

<衣類の関税率引き下げは4年後に延期>
12月26日に公布された政令は、ルイス・ビデガライ大蔵公債相が12月3日に発表していたもの。繊維・縫製産業の生産性向上や競争力強化のためのさまざまな対策(低利融資、技術革新や国際化のためのコンサルティングなど)を大蔵公債省や経済省が実施すること(第2条)に加え、過少申告(アンダーバリュー)の下で輸入される安価な輸入品から同産業を保護するためのさまざまな対策を両省が別途規則を定めて実施すること(第3条)を義務付けている。

また第4条では、関連業界団体が経済省に対して、WTOの枠組みでアンチダンピング(AD)調査やセーフガードの適用に向けた調査を要請するためのノウハウを、同省が業界団体に指導することが盛り込まれている。

さらに第6条では、カルデロン前政権下で進められた大規模な一般関税率の引き下げ措置(2009年1月15日記事参照)と現政権による同改定(2014年12月25日記事参照)で、2015年1月1日に25%から20%に引き下げられる予定だった衣類の関税率の引き下げを約4年後の2019年1月31日に延期することを定めている。

<繊維製品の輸入手続きが煩雑に>
12月26日付政令の公布を受け、大蔵公債省は同日付官報で「2014年度の貿易に関する一般規則」の第5次改定を公布し、2015年1月1日から適用した。同改定は、繊維・縫製品(HS50〜63類の全品目)を部門別輸入業者登録(Padron de Importadores Sectorial)の対象とし、同品目を輸入する場合は、一般の輸入業者登録に加え、特別な部門別の輸入業者登録を取得することを義務付けた。

同省はさらに12月29日、「大蔵公債省が定める推定価格対象品目の租税支払いを保証するためのメカニズムを定める決議」の改定を官報公示し、繊維・縫製品734品目について推定価格を設定した。適用は2015年2月2日から。

推定価格が設定された品目をそれより小さい申告価格で輸入する場合、輸入業者は推定価格を基にした租税公課と実際の申告価格で計算された租税公課の差額を6ヵ月の間、補償金として税関の指定口座に預けておかなければならない。当該輸入申告時に補償金の預金証明がない場合、輸入が差し止められる可能性があるほか、部門別輸入業者登録の取り消し事由ともなる。ただし、補償金を輸入申告の都度預金するのではなく、6ヵ月分の輸入についてまとめて預金しておくという選択肢もある(同決議第8条)。なお、各品目(HS)別の推定価格は税関のウェブサイト(スペイン語)から確認できる(繊維製品は別添:Anexo 4)。

ビデガライ大蔵公債相が12月3日に発表した内容によると、アンダーバリューの監視強化に向けた対策として、前述の部門別輸入業者登録と推定価格のほか、輸入自動通知制度も導入する予定だ(大蔵公債省2014年12月3日付プレスリリース)。同制度は、実際の輸入に先立ち経済省に事前通知する制度で、問題がなければほぼ自動的に輸入許可が下りることから、輸入自動通知と呼ばれる。2013年12月以降、鋼材や鉄鋼製品に対して導入されている(2013年12月17日記事参照)

輸入自動通知制度を実際に導入するためには、経済省貿易細則の別添2.2.1にリスト化されている輸入自動通知の対象に繊維・縫製品を加える必要がある。経済省は2015年1月8日付官報で経済省貿易細則の改定を公示し、別添2.2.1に履物(HS64類)を加えたが、同日時点で繊維・縫製品は加えられていない。しかし、近いうちに経済省貿易細則が再度改定され、繊維・縫製品も対象になるとみられる。

<中国からの輸入が増加傾向に>
メキシコの繊維・縫製品の輸入を繊維と衣類に分けて原産国別にみると、繊維分野では北米自由貿易協定(NAFTA)の原産地規則に基づき、原則として北米産の糸や生地を用いないとメキシコで縫製された衣類などの関税が米国側でゼロとならないため、米国産の輸入が依然として6割以上を占める。ただし、近年は中国からの輸入も大きく増えている(表1参照)。

表1原産国別繊維・同製品(HS50〜60類)輸入額(1〜9月)

他方、衣類の輸入をみると、2012年以降、中国が米国を抜いて第1位の輸入相手国となり、2014年1〜9月の輸入額は10億1,300万ドルと10年前の約28倍に達している(表2参照)。この背景には、メキシコが中国のWTO加盟以降、2国間合意に基づき課してきた対中国特別AD税が2011年末で完全に撤廃されたことがある。

表2原産国別衣類(HS61〜62類)輸入額(1〜9月)

以前は中国製の衣類に500%に及ぶ高率のAD税が課されていたため(2008年10月16日記事参照)、中国製衣類の合法的な輸入は現実的に不可能だった。しかし、密輸が横行し、露天商が集まる青空市場などでは密輸された中国製の衣類が氾濫していた。現在の一般関税率では合法的に中国製の衣類を輸入しても商売が成り立つため、政府はアンダーバリューの監視に目を光らせるようになった。

輸入が最も多いTシャツをみると、輸入量は過去6年間でほぼ倍増したが、輸入単価は同期間に平均で15.1%下がっている(表3参照)。特に中国製、香港製の輸入平均単価の低下が目立つ。大蔵公債省が設定したTシャツの推定価格は綿製で1着1.87ドル、綿製以外では1.87〜2.59ドルであり、2014年(1〜9月)は中国製品の大半が推定価格以下で輸入されていることになる。なお、日本の輸入通関統計をみると、Tシャツの輸入平均単価は2014年1〜10月に1着当たり3.29ドル、中国製でも3.09ドルとなっており、メキシコの輸入平均単価よりもかなり高い。

表3原産国別Tシャツ(HS6109)輸入量の推移

繊維製品は衣類だけでなく、自動車用シート素材やエアバッグ用繊維など自動車産業でも多く用いられる。繊維製品を自動車産業向けにアジアから輸入している進出日系企業も多いため、それらの企業にとっては輸入手続きの煩雑化につながる措置であり、輸入申告価格にも注意を払う必要があるだろう。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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