スリランカのタイヤメーカーGRIが描く持続可能なバリューチェーン
2026年1月26日
スリランカは、タイヤ内にゴムを充塡(じゅうてん)したソリッドタイヤの世界最大の輸出国だ。世界需要の約25%を供給している。その製造をリードしている地場企業が、2002年に創業したグローバル・ラバー・インダストリーズ(Global Rubber Industries、GRI)だ。GRIは初のスリランカ資本ソリッドタイヤメーカーで、高い性能・品質だけでなく、持続可能なバリューチェーンの構築に向けた積極的な取り組みをアピールポイントに、グローバル市場での信頼を獲得してきた。同社のサステナビリティーの取り組みについて、サーリンドゥ・アタパットゥ氏(最高経営責任者)、アナンダ・カルデラ氏(執行役員)、アセラ・グナワルデナ氏(営業・マーケティング部長)、ニシャディ・リヤナゲ氏(サステナビリティー&プライベートブランド事業部長)、チャミンドラ・ペレラ・ダッサナヤケ氏(人事部長)に話を聞いた(取材日:2025年10月8日)。
社会的価値を生み出すGRIの製品
スリランカのゴム産業は150年以上の歴史を持ち、国家経済を支える重要な柱の1つとして位置付けられている。スリランカは世界第13位の天然ゴム生産国であり、国内には13万ヘクタールを超えるゴム農園がある(注1)。東南アジア諸国の生産規模には劣るが、気候や土壌条件の利点から、より高い弾性・引張強度・耐疲労性を備える。こうした強みを生かし、スリランカでは高品質タイヤや医療用手袋など、性能が重視されるゴム製品の製造も盛んである。ゴム製品は、アパレル製品、茶に次ぐ第3の輸出産業だ。2024年のゴム製品輸出額は10億ドルに上り、スリランカの総輸出額の約8%、GDPの約0.8%を占めた(注2)。
こうした中、GRIは地場の特殊タイヤメーカーとして、スリランカのゴム産業を牽引している。同社は、代理店・販売店のネットワークと自社の流通網を組み合わせ、世界70カ国以上に製品を販売している。欧米での売り上げがメインで、売上高の約4割をEU、約3割を米国が占める。GRIは、キオン・グループ、キャタピラー、リープヘル、ブリックレといった世界的な重機・機械メーカーのドイツ拠点などに向けて、製品を供給している。残る約3割はカナダ、中南米、アフリカ、中東、アジアなど広範な国・地域にわたる。GRIはソリッドタイヤだけでなく、空気入りタイヤも手掛けており、製品構成は約5割ずつである。マテリアルハンドリング用、農業用、建設用が主な製品用途で、各現場の厳しい要求に応える高性能なタイヤを提供している(表参照)。
GRIはソリッドタイヤだけでなく、空気入りタイヤも手掛けており、製品構成は約5割ずつである。マテリアルハンドリング用、農業用、建設用が主な製品用途で、各現場の厳しい要求に応える高性能なタイヤを提供している(表参照)。
| タイヤの種類 | 製品カテゴリー | 主な用途と特徴 | 導入効果 |
|---|---|---|---|
| ソリッドタイヤ | マテリアルハンドリング用タイヤ | フォークリフトなどに使用。高品質な天然ゴムを使用し、優れた放熱性、安定性、安全性を実現。 | エネルギー消費を最小限に抑え、 倉庫作業における安全性と長寿命を両立する。 |
| 空気入りタイヤ | 農業用タイヤ | トラクターやハーベスターなどに使用。土壌圧縮を低減し、優れた牽引力を発揮する先進技術が特徴。 | 農地の健康を保ちながら、農作業の生産性を最大化する。 |
| 空気入りタイヤ | 建設用タイヤ | 掘削機やローダーなどに使用。要求の厳しい作業において機械の安定性を確保し、耐熱性、耐切創性、耐摩耗性に優れる。 | 長寿命と高い性能により、建設作業の効率と安全性を高める。 |
出所:GRI提供資料
GRIがグローバル展開を続け、欧米の大企業から信頼を得続けている背景には、同社のサステナビリティーへの深いコミットメントがある。GRIは事業に関わるステークホルダーに対する社会的責任に向き合ってきた。事業運営の根底にある「S6QCD」という独自の価値観にその考え方が反映されている。「S6QCD」は、Safety(安全性)、5S(「カイゼン」の精神)、Quality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の5つの要素から成る。単なる生産効率の追求ではなく、安全性や品質を通じてより広い社会的価値を創造することを目指すものである。
- Safety(安全性): 従業員から製品を使用するエンドユーザーまで、関わる全ての人の安全を最優先事項とする。
- 5S(「カイゼン」の精神):業務プロセスは決して完成することなく、常に改善を続ける継続的なプロセスであると捉える。
- Quality(品質):単なる製品の品質にとどまらず、それを使用するエンドユーザーの「生活の質」を向上させることを目指す。
- Cost(コスト): 利益の最大化だけを目的とせず、顧客が最良のコスト構造で事業運営できるよう継続的にコストを最適化する。例えば農業用タイヤであれば、農業生産を持続可能にし、消費者に適正価格で食料を届けられるといった、間接的な社会への影響を考慮したコスト管理をする。
- Delivery(納期):顧客がその先の顧客に対する納期を守れるよう調整。同じく農業用タイヤを例に挙げると、農業の周期に合わせたジャストインタイムの納品を実現することで、農家の収穫作業を支え、安定した食料供給に貢献する。
この基本理念を反映したGRI独自の取り組みに、「GREEN X Circle」がある。これは「農家から農家へ」というコンセプトの下、持続可能な農業を推進するものだ。この取り組みを通じて生産された高品質のスリランカ産天然ゴムがGRIの農業用タイヤに姿を変え、最終的に世界中の農機に装着される。このバリューチェーンの中で、GRIが天然ゴム農家(原料供給)と作物の生産農家(エンドユーザー)双方のサステナビリティーと価値向上に貢献することを目指している。
具体的な取り組みとして、GRIは2020年に開設した複数の自社運営の天然ゴム収集センターを通じて、スリランカの小規模ゴム農家と直接契約を結んでいる。これらのセンターにより、ゴム農家が公正な対価を得られるだけでなく、農家の家族がコミュニティーとして持続的に発展していくための支援がなされている。GRIは、生産性と収穫量の向上のための持続可能な農法の教育や、農家との定期的なミーティングなどを実施。他にも、農家の子どもたちの教育支援や健康面でのサポート、家計管理の指導など、農家の生活向上に資する支援にも力を入れてきた。こうした技術指導や対話を通じて収穫される天然ゴムを使用した農業用タイヤは、土壌圧縮(注3)を最小限に抑えられる。よって、作物の生産農家も収穫量増加というプラス効果を得られる。それだけでなく、原料のサステナビリティーに配慮しているという点で、社会的側面からも信頼される製品になっている。

流し込む作業員(GRI提供)

GRIの製品は環境配慮の観点からも評価が高い。GRIは、持続可能な素材(注4)を約9割使用した環境配慮型タイヤを生産しており、国際的な認証機関であるビューローベリタスによる製品カーボンフットプリント(注5)検証を受けている。マテリアルハンドリング用タイヤの「ULTIMATE GREEN XT」は、2025年3月に米国のシカゴで開催された製造や流通の現場におけるマテリアルハンドリング技術の展示会「ProMat 2025」において、「Best Innovation in Sustainability」賞を受賞した。12月には、同じタイヤがアラブ首長国連邦のドバイで開催された自動車サービス業界向けの展示会「Automechanika Dubai 2025」で「Sustainable Product of the Year」を受賞するなど、注目を集めている。

フォークリフト(GRI提供)

GRIチーム(GRI提供)
GRIの環境保護への取り組みは、製品開発だけでなく、製造プロセス全体に及んでいる。21万平方フィート超(約2万平方メートル)の工場では、1.2メガワット(MW)の太陽光発電設備を屋根全体に設置。今後、2.5MWに拡張予定だ。また、製材所から出る廃木材を100%燃料とするバイオマスボイラーを導入し、蒸気を生成している。水資源に関しては、雨水貯留システムを活用し、ボイラー用水として再利用している。生活用水は完全に処理・リサイクルされ、外部への排出はない。廃棄物処理も徹底しており、液体排出物および有害ガスの排出をゼロにする「乾式工程」を採用しているほか、固形廃棄物とゴムの端材は全てリサイクルまたは再利用される。

体系的な人権尊重の取り組みに向け一歩前進
GRIは、これまでの社会貢献や持続可能な製品開発・生産のアプローチに加え、体系的な人権尊重の取り組みに向けて動き出したところだ。同社は、2025年9月に独自の「ビジネスと人権に関する行動計画」を策定し、今後のアクションを設定している(図参照)。ここで示されている取り組み内容は、企業が人権尊重責任を果たす上での指針となる、国連「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」に沿ったものだ。UNGPsで企業に求められる取り組みは、(1)人権方針の策定、(2)人権デューディリジェンス(DD)の実施、(3)自社が人権への負の影響を引き起こしている、または助長している場合の救済、の3点に大別される。GRIでは、ステップを踏んでこれらの取り組みを段階的に実行に移していく予定だ。
出所:GRI提供資料
GRIは、図の「Formalizing(成文化)」に向け、準備しているところだ。つまり、組織としての説明責任と透明性を強化するため、人権方針を策定・公開する。前述のUNGPsによれば、人権方針とは、企業が人権尊重責任を果たすという約束(コミットメント)を示すものだ。方針策定・公開と同時に、企業は方針に基づく人権DD、負の影響の是正・救済プロセスを実施していく必要がある。従って、GRIも人権方針の策定・公開とともに、人権DDを開始し、苦情処理(グリーバンス)メカニズムを導入する予定だ。具体的には、匿名で通報できるホットラインとポータルを設置し、目安箱を改善するとともに、明確な是正・救済プロセスと連携していく。中でも、GRIが高優先度と捉えている生活賃金の保証と公正な支払いの確保、適正な勤務時間と社会的コンプライアンスといった課題について、まずは現状把握から進める。これらに次ぐ優先順位として、サプライチェーンにおける労働者の権利、従業員のメンタルヘルスとウェルビーイング、技術職やリーダー層におけるジェンダー多様性の確保などがあり、中長期的に取り組んでいく。
UNGPsでは、社内外のステークホルダーとの継続的な対話・協議を通して、人権DDを「PDCAサイクル」のように回していくことが求められている。GRIもステークホルダーエンゲージメントを中核的な取り組みに据えており、社内向けには、既にタウンホールミーティングや掲示板、ニュースレターなどを通して従業員との対話の機会を設けている。しかし、GRIのステークホルダーは社外にも多く存在する。従って、同社は今後、対話・協議の機会を社外ステークホルダーにも拡大していく。広範なステークホルダーとのエンゲージメントを経ながら、次の「Extending(拡張)」ステップでは、リスク評価と人権DDの範囲をサプライヤーや地域社会など、バリューチェーン全体に広げていく予定だ。その後は「Enhancing(改善)」「Strengthening(強化)」「Deepening(深化)」が示すように、人権DDや負の影響の是正・救済プロセスを継続的に見直し、改善していく考えだ。

- 注1:
-
スリランカ輸出開発局(EDB)ウェブサイト
参照。 - 注2:
-
スリランカ投資庁(BOI)「RUBBER MANUFACTURING SECTOR
(1.50MB)」参照。 - 注3:
-
土壌圧縮とは、土壌中の空隙(くうげき)が減少して密度が高くなる現象である。これが起きると、作物の根が伸びにくくなり、養分や水分の吸収が妨げられ、収量低下や土壌の健全性悪化につながるため、農業生産に深刻な影響を与える。
- 注4:
-
主な持続可能な素材には以下が挙げられる。
- 再生カーボンブラック:ゴムの強度や耐久性を高める役割を持つ。従来のカーボンブラックは製造過程で化石燃料を燃焼するため、環境負荷が大きい一方、再生カーボンブラックは、廃タイヤなどを熱分解して得られるリサイクル材。
- HDシリカ:タイヤの転がり抵抗を低減させるために使用される。HDシリカ(高分散性シリカ)は特殊加工したシリカで、転がり抵抗をより低減させると同時に、耐摩耗性を向上させる新たな素材。より高い燃費性能が実現できる。
- 大豆油:石油由来の油に代わる、再生可能で持続可能な素材。大豆油は天然ゴムの本来の品質を維持することへの寄与度がより高く、タイヤの全体的な性能を向上させる効果がある。
- 再生ゴム:使用済みタイヤから環境に配慮したリサイクルプロセスを経て採取され、純粋な天然ゴムとともに使用される。タイヤのサステナビリティーを高め、カーボンフットプリント(下記注5参照)を最小化する。
- スリランカ産天然ゴム:高品質で知られる地元の天然ゴムを積極的に活用し、持続可能な栽培と生産を支援する。
- 注5:
-
カーボンフットプリントとは、商品の原材料から製造、調達、販売、使用、廃棄、リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガス(GHG)の排出量を二酸化炭素(CO2)に換算したもの。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部国際経済課
宮島 菫(みやじま すみれ) - 2022年、ジェトロ入構。調査部調査企画課を経て、2023年6月から現職。




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