茨城発スタートアップ、米国ニューヨークでつかむ成長のチャンス

2026年1月27日

ジェトロ茨城は茨城県からの受託事業として、2025年10月20日~11月21日にかけて、県内企業を対象に米ニューヨークのアクセラレーターによる支援プログラムを実施した。本レポートでは、西海岸ではなくニューヨーク(NY)を選択する理由、また、プログラムの具体的内容や茨城発スタートアップの手応えなどについて紹介する。

なぜ、ニューヨークなのか

米国市場を目指すスタートアップがまず思い浮かべるのはシリコンバレーを始めとする西海岸だろう。NYのアントレプレナー・ラウンドテーブル・アクセラレーター(ERA)代表であるムラット・アクティハノル氏はNYを選択する理由について、「NYは世界第2位の規模を誇るエコシステムで、米国企業の顧客は東海岸に集中している。フォーチュン500企業の約70%が所在しており、投資資本はサンフランシスコを上回るほどだ。投資家や起業家、顧客と直接会えるオープンな環境が整っているのが魅力だ」と語る。

プログラムで得られるもの

茨城県は2019年12月からERAとの間で連携覚書を締結、2020年度から県内スタートアップの米国展開を支援するため、「ベンチャー企業海外展開支援事業」を継続している。このプログラムでは、米国市場で求められるピッチや営業力の向上の指導、現地投資家へのピッチ機会を通じて、資金調達や事業連携、市場開拓を目指している。

2025年度のプログラムは、オンラインでの事前トレーニングとNYでの現地プログラムの2部構成で実施した(表1、2参照)。

3週間にわたる事前トレーニングで参加企業は、米国でのミーティングの基本や営業手法などに関する講義を受けた。例えば、ミーティング終了後のフォローに次の提案を盛り込むことや、メンターからの連絡に1日以上反応を空けると信頼を失うこと、米国でのリード獲得にはメールやLinkedInなどの直接アプローチが有効で、相手の課題解決に焦点を置くことが求められることなど、日本の商習慣と異なる箇所を中心に実践的な学びを得た。

1週間の現地プログラムでは、ピッチ練習とフィードバック、ピッチ資料と送付用資料の違いに関するトレーニングを受講。加えて投資家向けのピッチイベントが開催され、現地の投資家や起業家などとのネットワーク構築の機会を得た。トレーニングの内容はピッチイベントに向けた最終調整と各社への個別アドバイスで、商談では相手の自社製品へのニーズを見極めて交渉に臨むこと、後払い条件や無償のテクニカルサポートの提供など、買い手の意思決定を後押しする材料を用意することの重要性などが説かれた。

表1:オンラインプログラム実施内容
日程 日本時間 内容
1日目 21:30~ オリエンテーション、自己紹介
2日目 21:30~ メンターとのミーティングの指導 、重要業績評価指標(KPI)とローカライズ
3日目 21:30~ 参考ピッチ動画の視聴と意見交換、ピッチの構成と工夫
4日目 21:30~ 30秒ピッチの練習とフィードバック、KPI確認
5日目 22:45~ 米国でのセールスの方法について
6日目 22:30~ 米国市場でのリード獲得について
7日目 9:00~ 米国での資金調達プロセス、ピッチの磨き方、投資家リスト管理
8日目 8:30~ 30秒ピッチの練習とフィードバック、KPI確認
9日目 8:30~ One-Pager(1枚資料)の作成と活用方法、フィードバック
10日目 8:30~ 日本のスタートアップが米国市場に参入する際のカスタマーディスカバリー(顧客開拓)
11日目 8:30~ 5分程度のピッチ練習とフィードバック
12日目 8:30~ 30秒ピッチの練習とフィードバック、KPI確認

出所:ジェトロ

表2:現地プログラム実施内容
日程 現地時間 内容
1日目 12:00~ 参加者間での目標の共有
14:00~ 5分程度のピッチ練習とフィードバック
15:00~ ピッチ資料に関するフィードバック
2日目 10:00~ 交渉準備のポイント、クロージングのコツ、成約を上げるための方法
12:00~ 5分程度のピッチの練習とフィードバック
14:30~ 米国への進出や販路拡大に関するアドバイス、採用スピードや失敗などに対する米国と欧州の違い
3日目 12:00~ ピッチイベント・ネットワーキング実施
13:30~ 米国への進出方法、リスク、規制やコンプライアンスなどについて
4日目 10:00~ 日米の人事制度や雇用慣行の違い、米国の採用リスクと州ごとの違いに関する意見交換
13:00~ 投資家からの質問対応について
5日目 11:00~ 投資家に向けたピッチ資料の構成と作成ポイント
14:00~ 参加者のKPIの確認

出所:ジェトロ

国内市場の開拓にも役立つ

今回参加した有機ナノエレクトロニクス研究所(化粧品や医薬品などに活用可能な、顧客仕様に合わせたナノ粒子を開発する土浦市のスタートアップ)の最高経営責任者(CEO)永井優氏は、「綿密なトレーニングでピッチを仕上げられ、本プログラムを通じてピッチの完成度を高められた。米国市場への進出を考えており、コミュニケーションツールについて学べたことも収穫になった」と語った。

また、「日米のビジネス習慣は共通点が多いことを実感した。米国だけでなく、日本国内での市場開拓にも役立った」とし、「現地の投資家に実際に接していく上で、現地の雰囲気を感じ取るのは大切なことだと思う」と本事業の効果について述べた。


現地投資家に向けてピッチを行う永井氏(ジェトロ撮影)

取引拡大の可能性も

東京バル(既に米国と取引がある、植物性栄養食品を生産・販売するつくば市のスタートアップ) の取締役筒井怜子氏は、「これまでピッチの練習に課題を感じていた。ピッチの練習をプログラム中に繰り返し行うことで、商談の場でピッチができるようになり、顧客に自社について短時間で把握していただけるようになった。また、米国への拠点設置を検討しており、プログラムを通じて進出方法やコンプライアンスなどの足元の状況について良く理解する機会となった」と振り返る。

「現地のネットワークで、現地の考えに触れられた点が非常に有意義だった。実際に米国に進出したスタートアップの事例を聞けて非常に参考になった」と述べた。

また、「ピッチイベント後のネットワーキングで、フードテック系スタートアップのコミュニティーと新たに接点を持つことができた。その後、同コミュニティーのイベントで顧客候補と打ち合わせを行い、新たな取引につながる可能性を見出せた。メンターからの紹介先の質も高く、将来的な取引拡大の可能性を感じた」と、今後のビジネス展開につながる成果を実感したようだ。


現地投資家に向けてピッチを行う筒井氏
(ジェトロ撮影)

ネットワーキングの様子(ERA提供)

本プログラムに参加することで、海外で求められるピッチの感覚や現地での反応などを実際に確かめることができ、多くの参加者が新しい発見や手応えを得ている。

ジェトロ茨城では、今後も同様のプログラムを引き続き開催予定だ。茨城県のスタートアップ企業に、是非本プログラムを、事業を次のステージへ進める一歩として活用してほしい。

執筆者紹介
ジェトロ茨城
小川 雄大(おがわ ゆうだい)
2021年、茨城県を拠点とする物流企業に入社。2024年から現職。