責任ある養殖で育てたマダイ:しまうら島から世界へ

2026年2月20日

豊かな海に囲まれた日本では、魚は日常の食事だけではなく文化の中にも溶け込んでいる。特に、マダイは赤くて縁起の良いハレの象徴として「魚の王様」とも呼ばれるほど知名度が高い魚だ。国内でも九州・西日本での漁獲が多い。現在のマダイ市場は、天然の水揚げ量よりも養殖による生産量のほうがはるかに多く、安定供給に寄与している。マダイは味にクセがなく、低脂肪・高たんぱくであることから、そのおいしさだけではなく健康食材としても評価は高い。

今回、国際認証のASC(Aquaculture Stewardship Council)認証外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを取得した、宮崎県のマダイ養殖生産者である木下水産外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを取り上げる。

タイ類の輸出先国は金額・数量ともに韓国が1位

タイは、広義にはスズキ目タイ科の総称、狭義にはタイ科のマダイを指す。アマダイやキンメダイ、ネンブツダイといった名前に「タイ」が付く魚は、300種類以上存在する中、分類学的にマダイと同じタイ科に含まれる近縁種は、日本近海では約13種類にすぎない。農林水産省の漁業生産統計などでは、タイ類としてマダイ、チダイ、キダイ、クロダイ、ヘダイを含んでいる。

日本のタイ類の輸出概況について、2024年は、前年比4.8%増の約69億円、数量ベースで同1.2%増の約7,053トンとなった。輸出相手国の1位は韓国で、前年比7.6%増の約50億円、数量ベースで8.1%増の約5,030トンで、金額ベース、数量ベースとも韓国が全体の7割を占めている。2位は米国向けで同27.4%増の約9億円、数量ベースで同28.0%増の約538トン、3位は台湾向けで同1.4%減の約4.5億円、数量ベースで同11.9%増の約501トンとなった(図、表参照)。

図:年別輸出額・数量推移(たい)
2022年に輸出額・数量ともに最高値となり、2023年に減少したが、2024年に回復傾向にある。

出所:財務省貿易統計からジェトロ作成

表:輸出額・数量の年別推移(たい) 注1:2024年の輸出額上位10カ国(地域)を抽出。 注2:HS=030199100, 030285000, 030389300。 注3:「-」:単位に満たないもの 「…」:分類のないものまたは品目によって単位が異なるため合計できないもの。
順位 国・地域名 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年
数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 数量 金額 前年比伸び率(%)
数量 金額
1 韓国 4145.9 2257.8 4839.8 3297.6 5534.7 4952.8 4654.3 4633.1 5029.6 4985.7 8.1 7.6
2 米国 153.2 219.0 259.8 359.1 381.2 627.1 420.5 727.0 538.2 926.0 28.0 27.4
3 台湾 382.0 360.4 414.4 381.6 445.2 453.3 447.8 461.3 501.3 455.0 11.9 △ 1.4
4 香港 169.7 184.7 251.8 283.2 358.1 375.4 245.7 248.4 183.7 209.0 △ 25.2 △ 15.9
5 タイ 709.0 280.0 987.2 317.0 1071.0 403.2 511.1 207.6 414.2 170.2 △ 19.0 △ 18.0
6 ベトナム 239.1 83.4 317.4 102.7 595.7 181.2 248.1 75.3 224.4 72.7 △ 9.5 △ 3.5
7 マレーシア 6.9 1.1 34.4 7.1 29.7 6.8 27.7 10.2 141.1 49.5 410.0 384.2
8 ドイツ 0.4 1.1 3.3 5.7 9.0 13.0 177.1 128.0
9 カナダ 0.1 0.2 4.8 5.6 2.7 3.6 4.5 6.4 7.9 11.9 76.0 85.3
10 ザンビア 0.8 3.0
世界 6445.5 3778.8 7884.6 5041.9 9578.7 7475.3 6971.8 6591.1 7052.8 6904.3 1.2 4.8

注1:2024年の輸出額上位10カ国(地域)を抽出。
注2:HS=030199100, 030285000, 030389300。
注3:「-」:単位に満たないもの 「…」:分類のないものまたは品目によって単位が異なるため合計できないもの。
出所:財務省貿易統計

タイ類について、漁獲量を都道府県別に見ると、長崎県、兵庫県、福岡県、山口県、愛媛県などで多く漁獲されている。また、マダイ養殖については、天然の水揚げ量よりも養殖による生産量のほうがはるかに多く、市場への安定供給に寄与している。都道府県別では、愛媛県、熊本県、高知県などで多く養殖されている。 

「しまうら真鯛」で挑む海外展開への道―ASC認証の取得

宮崎県延岡市にある、県内唯一の有人島・島浦。木下水産は、祖父の代から続く技術を継承しながら、新たな挑戦を続けている。同社は2025年2月、環境と社会に配慮した責任ある養殖により生産された水産物に与えられる国際認証「ASC認証」を取得。九州の離島から世界市場を見据える木下豊一氏(代表取締役)と木下拓磨氏(取締役専務)に、同社の取り組みや今後の展望などについて話を聞いた。(取材日:2025年12月22日)

潮流が生む筋肉質で脂の乗った極上のマダイ

木下水産が育てる「しまうら真鯛」の最大の特長は、その身質にある。島浦島の海域は潮の流れが非常に速く、魚にとって過酷な環境だという。しかし、この激流に揉まれて育つことで、豊富な運動量を確保し、筋肉質で身の締まったマダイに成長する。

同社のマダイを仕入れ、流通・販売を手掛ける九州築地外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますの築地加代子氏(代表取締役)は、その品質を高く評価する。「他のマダイと比較すると、特に火を通したときのおいしさが際立つ。養殖特有の脂の乗りと、天然魚のような筋肉質のバランスが絶妙」と語る。

マダイの餌には生き餌ではなく配合飼料を使用している。これにより、養殖魚特有の臭みを抑え、品質の安定化を実現したほか、食べ残しによる海洋汚染や病気のリスクも低減させている。現在、この高品質なマダイは国内の高級ホテルにも定期的に出荷されている。

二人三脚で掴んだASC認証

木下水産にとって大きな転機となったのが、ASC認証の取得だ。当初、社内では誰もASC認証の存在を知らなかったという。「築地氏が大学教授やASC認証の有識者と意見交換を行い、取得までの具体的な道筋を説明してくれた。認証取得には費用も必要で、認証を取っても売れる保証がないため不安はあったが、何度も築地氏が島に足を運び、『この漁場ならASC認証を絶対に取れる』と認証取得を後押ししてくれた。社内でも議論を重ねて、島浦の魅力や自社の環境に配慮した取り組みを可視化するために決断した。自社だけでは認証の取得はできなかった」と木下氏は振り返る。

大手企業のトップダウンにより生産者が認証を取得するケースが多い中、生産者である木下水産と販売者である九州築地が連携し、世界認証取得の挑戦に踏み切った。宮崎の豊かな海を守りながら、安心・安全なマダイを育てるために、無投薬養殖に20年以上取り組んできたこれまでの経験と認証取得までの両社の取り組みが注目され、日本で初めてオランダのASC本部から撮影クルーが来島した。

現在保有する128台のいけすのうち30台(約25%)がASC認証を取得。認証取得後はメディア露出も増え、新たな国内販路の開拓にもつながっている。


左から築地氏、木下拓磨氏、木下豊一氏(ジェトロ撮影)

しまうら真鯛の養殖場(ジェトロ撮影)

九州築地とともに世界へ、広がる海外市場の可能性

海外展開において、パートナー企業である九州築地は現在、米国やシンガポール市場への輸出を当面の目標に掲げている。木下水産のASC認証の取得を機に、同社は2025年6月からジェトロの農水プロモーターによる伴走型支援を活用している。専門家の助言を受けながら、輸出に向けた体制強化を着々と進めており、4月にシンガポールで開催される総合食品見本市にも出展予定だ。

木下氏は、環境意識の高い欧州(EU)市場にも将来的な可能性を感じているという。EU圏内ではマダイがあまり流通していないが、ASC認証は広く浸透している。実際に、しまうら真鯛を食べたスウェーデン人観光客からは、赤いマダイの珍しさと味、そしてサステイナビリティーへの姿勢に高い評価を得ており、ポテンシャルを感じた。

島の未来を創る―外国人材の活躍と「食×観光」

木下水産では、特定技能実習生としてインドネシア出身のスタッフも活躍している。「非常に真面目で、働きぶりも素晴らしい」と木下氏の信頼も厚い。人材不足が叫ばれる第1次産業において、多様な人材の受け入れは事業継続のカギとなっている。

また、同社は生産者直営のレストラン「Blue Reef(ブルーリーフ)」を運営。朝締めの新鮮なマダイをふんだんに使った料理を手頃な価格で提供しており、県外や海外からの来客も多い。店舗の隣には観光案内所も併設し、今後は島浦の自然資源を生かした観光コンテンツの拡充も構想しているそうだ。

「日本国内だけでなく、海外にもしまうら真鯛を届けることで、時代に先駆けた展開をしていきたい」と語る木下氏。小さな離島の養殖業者が、世界基準の「責任ある養殖」で、日本の水産業に新たな風を吹き込んでいる。


Blue Reef 店内(ジェトロ撮影)

Blue Reefの人気メニュー「真鯛御前」(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ農林水産食品部市場開拓課
新井 剛史(あらい たけし)
1995年、ジェトロ入構。輸入促進、開発途上国支援、貿易投資相談業務などに従事、ハノイ事務所、三重事務所、北九州事務所に勤務。2024年6月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ宮崎
新里 栞(しんざと しおり)
2025年、宮崎市役所からジェトロへ出向。子ども未来部 保育幼稚園課/都市整備部公園緑地課/健康管理部 健康支援課を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ宮崎
真崎 康平(まさき こうへい)
2020年、ジェトロ入構。ジェトロ経理部 経理課(2020年~2023年)を経て、2023年10月から現職。