粤港澳大湾区における薬品・医療機器導入の新制度(中国)
本制度を活用し中国市場参入が加速
2026年1月27日
港澳薬械通政策の概要
中国広東省は、2024年末時点で中国国内最大の人口約1億2,780万人を抱え、同年の出生数は約113万3,000人と、中国最大規模の医療需要を有する。こうした背景のもと、国際先進医療技術を迅速に導入するための政策を推進している。
2024年7月に制定し、同年12月に施行された「広東省粤港澳大湾区内地九市輸入港澳薬品医療機器管理条例(中国語)
」(以下、「港澳薬械通」政策)は、香港・マカオで承認済み、かつ広東省で臨床緊急需要(注1)があると認められた薬品や医療機器を、広東省内の指定医療機関が輸入・使用できる仕組みだ。対象品目は、(1)香港またはマカオで承認済みかつ臨床で緊急に必要な薬品、(2)香港またはマカオの公立病院で既に調達・使用され、臨床応用において先進性を備え、臨床で緊急に必要な医療機器だ。使用範囲は、広東省・香港・マカオグレーターベイエリア(粤港澳大湾区)の本土9都市(広州市、深セン市、珠海市、仏山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市)の指定医療機関に限定される。指定医療機関は二級以上(注2)で、専門医療チームの有無や保管条件、有害反応・不良発生時の緊急対応能力などの要件を満たす必要がある。2025年12月時点で、広東省内の71の病院が認定されている(注3)。
臨床緊急需要が認められる薬品・医療機器は、目録で管理されている。現地審査を通過した品目が「緊急需要港澳薬械目録」に掲載され、指定医療機関はオンライン審査や制度の簡素化によって迅速に輸入できる。最新の2024年版目録(中国語)
には、合計71品目(薬品34品目、医療機器37品目)が掲載され、がん治療薬、心血管薬、頭痛薬、先端診断機械などが含まれている。ノバルティス、ロシュ、サノフィ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど外資大手も本政策を利用しており、日本企業では、エーザイの製品が目録に掲載されている。
さらに、2025年11月施行の「広東省粤港澳大湾区内地九市臨床緊急需要輸入港澳薬品医療機器目録管理弁法(中国語)
」により、目録の策定・公表・更新をオープンかつ公正なプロセスで行うことや、臨床需要に応じて随時目録の更新を実施することが義務付けられた。目録への掲載条件は、国家薬品監督管理局(NMPA)が公表する臨床緊急需要品目で香港・マカオに登録済みであることや、希少疾患や小児用など臨床緊急需要性の高い品目であることなどが挙げられている。一方、安全リスクや倫理違反がある品目は除外される。広東省薬品監督管理局と広東省衛生健康委員会は、需要に応じて目録の更新を実施している。また、「事前審査対象品目データベース」を新設し、医薬品・医療機器の登録許可所有者、またはその委託を受けた中国国内の企業法人が、自ら審査対象品目の情報を事前登録できる仕組みが導入され、企業の政策利用機会の拡大を図っている。
なお、この政策の基盤となるのは、香港・マカオにおける薬品・医療機器の登録制度だ。香港・マカオでの承認を前提に、中国本土の臨床緊急需要と接続する仕組みとなっている。
香港における医薬品登録制度
香港の「医薬品(医療機器を含む)登録」は、医薬品、生物製剤、医療機器などの医薬品が香港市場において販売される前に規制当局による審査と承認を受けるための手続きをいう。この手続きは、衛生署(以下、DH)の医薬品登録事務所(以下、PRO)において行われている。医薬品登録の主な目的として、(1)当該医薬品が消費者にとって安全であることの確認、(2)製品が意図されたとおりの効用を有することの確認、(3)製品が厳格な品質管理基準に従って製造されていることの保証、(4)製品が香港の規制枠組みに準拠したものであることの確認、などが挙げられる。
香港で医薬品の販売を行いたい企業は、PROに登録を申請する必要がある。対象者は、製薬業者、医薬品輸入業者、医薬品卸売業者および販売業者、健康補助食品業者、医薬品販売小売業者など。なお、健康補助食品は必ずしも医薬品に分類されるわけではないが、特定の健康補助食品、特に医療上の効用について記載のある商品は登録が必要となる場合があるため留意が必要だ。
登録を申請する上で必要な書類は、次のとおり。
- 製品情報(成分、製造プロセス、使用目的などに関する詳細)
- 臨床データ(臨床試験の結果およびエビデンス)
- 適正製造規範(GMP)認証(当該製品が国際品質基準に従って製造されていることの証明書)
- ラベルおよびパッケージ(成分、投与量の指示、警告、注意事項などに関する情報)
- 規制証明書(当該製品が他の国での使用が承認されていることを証明するための、他の規制機関による証明書)
PROに申請書を提出後、登録のための審査が行われる。審査プロセスには次のポイントが含まれる。
- 安全性、有効性および品質(特に臨床データとテスト結果、製品が一般の使用において安全であることの確認)
- 製造された施設(香港以外で製造された製品については、PROは生産施設を検査し、GMPへの適合性を確認することがある)
- ラベルとパッケージ(製品のラベルとパッケージが香港の規制基準を満たしていることの確認)
審査に合格し、PROから承認を受け、医薬品登録が完了すると、当該製品は香港において販売が可能となる。申請から登録までの所要期間は、製品の特性や提出書類の整備状況により異なるものの、DHによればおおむね5カ月以内とされている。
香港では従来、香港での臨床データによる裏付けと専門家の認可を受けた後、域外の規制当局二カ所からの承認が必要だったが、2023年11月、どちらか一カ所からの承認のみで登録が可能となるスキーム「1+」(中国語)
が導入された。導入から1年弱の間に、海外や中国本土の製薬会社を含む80社以上から260件余りの問い合わせがあったという。このスキームは当初、難病・希少疾患用の新薬を対象に認められていたが、2024年11月から対象が全ての新薬に拡大された。現在では、ワクチンのほか、細胞・遺伝子治療を含む先端治療薬なども対象となっている。
医療機器の調達については、DHが2023 年6月に施策を改定した。医療機器管理規制システム(MDACS)の医療機器のクラス分類(注4)に基づき、同月からMedical Device Administrative Control System (MDACS)
(576KB)、クラスB~Dの体外診断用医療機器(IVD)
(276KB)について、MDACSに掲載されているものを優先的に調達することが定められた。優先調達の対象となるためには申請が必要となるため、DHは該当製品のMDACS掲載申請を推奨している。
なお、香港では未登録の医薬品の販売は違法だ。登録を怠ると、当該製品の没収のみならず、多額の罰金、法的処罰を受けることとなる。さらに、今後、当該製品は香港市場において販売禁止となる点に留意いただきたい。登録を受けることで、販売業者は香港における医薬品に関する規制要件を全て順守していることが担保されるとともに、公衆衛生上の懸念も払拭(ふっしょく)され、業者は自身の市場アクセスを広げていくことができるようになる。
また、香港の医薬品に関する規制は複雑で、特に臨床データの提出、製造認証、ラベルの適合性に関する要件は厳格だ。これらを満たさない場合、審査の遅延のみならず申請受理までに多くの時間を要する場合もある。申請の際は、規制を理解し、前述の申請プロセスをスムーズに進めることができる専門家の支援を求めることも1つのやり方として推奨されている。
医薬品登録のほか、輸入者側で当該医薬品に対する輸入ライセンスが必要な点にも留意が必要だ。輸入ライセンスの申請は、オンライン提出専用の医薬品許可申請・流通監視システム(PLAMMS)を利用して行い、DHがライセンスを発行する。申請から発行まで、通常2営業日程度を要する。輸入ライセンスがないと、製品が陸揚げされても保税倉庫に入れることができない。従って、輸出者も輸入者がライセンスを取得済みであることを確認しておくことが重要だ。そして輸入者は香港税関に輸入申告を行い、税関から許可を受けて輸入通関が完了、搬出となる。
政策利用のメリット
中国本土で薬品・医療機器を導入するには、通常は国家薬品監督管理局(NMPA)での登録が必要となり、類型によっては数カ月から数年を要する場合もある。一方、「港澳薬械通」政策を活用すれば、広東省の指定医療機関は中国未登録の薬品・医療機器をより迅速に使用できる可能性がある。
「港澳薬械通」政策を利用した場合の所要日数の目安として、目録掲載品目の場合は、申請受理後、衛生健康主管部門は5営業日以内に審査意見を提出し、薬品監督管理部門は当該審査意見に基づき5営業日以内に許可証を発行する。目録外品目の場合は、申請受理後、衛生健康主管部門は10営業日以内に審査意見を提出し、薬品監督管理部門は10営業日以内に許可証を発行する。また、当該品目は新たに目録に追加される。なお、専門家審査に要する時間は上記期限に含まれない点に留意が必要だ。専門家審査は、申請された港澳薬品・医療機器が臨床上の急需性や安全性、適用性を満たしているかを確認するために実施される。原則として、登録済みの専門家が審査し、申請受理後5営業日以内に審査を開始し、15営業日以内に審査意見をまとめる。ただし、登録専門家の専門分野が申請品目をカバーしていない場合、必要に応じて臨時に専門家を招聘(しょうへい)する。この場合、専門家の選定・招聘に要する時間は、審査意見提出や許可証発行の期限には含まれず、全体の所要期間が延びる可能性がある。
政策の利用は、中国本土での登録なく広東省での使用を可能とするのみならず、その後の中国市場全体へのアクセスを加速する重要なルートとなっている。さらに、中国本土での登録・申請に先立ち、広東省での使用を通じて、臨床データの収集をすることは、ブランドの認知向上にもつながる。ジェトロ広州が2025年6月に広東省衛生健康委員会にヒアリングしたところ、広東省には本土登録・販売許可の権限がないものの、「港澳薬械通」政策による使用実績は、リアルワールド研究(RWS)(注5)で安全性・有効性の評価を得られ、中国本土での申請・登録時に有利な要素となるとした。実際に、2025年2月27日付「南方日報」によると、ファイザー中国区総裁・彭振科氏は、「(粤港澳大湾区の政策により)当社の海外薬品・医療機器の国内導入までの時間を少なくとも3分の1に短縮できた」と述べている。同社は「港澳薬械通」を通じて新薬を導入し、RWSプロジェクトを開始した。現在、そのデータは中国本土での正式登録を後押しするエビデンスとなっているという。
「港澳薬械通」政策は、広東省における国際先進医療技術の迅速な導入を可能にし、患者の治療選択肢を拡大する制度的枠組みだ。今後、目録管理の透明化や目録の随時更新の仕組みを通じて、より多くの薬品・医療機器が粤港澳大湾区で導入されることが期待される。
- 注1:
- 臨床緊急需要の判断基準について、公式な定義は公表されていないが、ジェトロ広州事務所が2024年6月に広東省衛生健康委員会および広東省薬品監督管理局に確認したところ、以下の4点が必須条件とのこと。
- 注2:
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医療機関等級制度では、病院を一級、二級、三級に分類する。二級病院は主に県レベルを中心とした地域医療を担う中規模病院で、複数のコミュニティーに対して入院治療や外来診療を提供する。救急、転診、健康教育の機能を備え、医療品質管理や感染制御体制の整備が求められる。三級病院は省・市レベルで高度専門医療を提供する大規模病院で、専門診療、難病・重症疾患の治療を行い、さらに研究・教育機能を兼ね備えている。すなわち、医療水準は三級が最も高い。二級以上の医療機関とは、二級病院と三級病院を指す。
- 注3:
- 指定医療機関のリストは、3回に分けて公表されている。リストは後述の公式ページをご参照。
- 注4:
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医療機器の製造者が設計、製造、販売の過程において特定の手順に従うことを確保することにより、患者、使用者、その他の関係者の健康と安全を保護することを目的として設定された規則。一般の医療機器についてはクラスⅠ~Ⅳ
(576KB)(5.3.1,参照)、体外診断用(IVD)医療機器についてはクラスA~D
(276KB)(6.1参照)に分類されている。 - 注5:
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リアルワールド研究(Real World Study、RWS)とは、実世界のデータに基づき、医薬品の安全性と有効性を評価する方法。ランダム化比較試験と比べ、リアルワールド研究はより広範な患者群を対象とし、医療情報システム、医療保険システム、疾患登録システムなど複数の情報源からデータを収集・分析することで、薬剤の使用状況や潜在的なベネフィット・リスクに関する臨床エビデンスを得ることができる。リアルワールド研究の評価結果は、実際の臨床応用評価に対する有力な補完材料となる。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・広州事務所
汪 涵芷(オウ カンシ) - 2016年からジェトロ・広州事務所にて勤務。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・香港事務所
越川 剛(こしかわ つよし) - 金融庁で銀行検査、生命保険会社監督、暗号資産交換業者登録、産官学連携などを担当。2025年7月ジェトロに出向、同月から現職。




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