拡大する韓国のスポーツ産業
テクノロジーやツーリズムに協業可能性

2025年8月4日

韓国のスポーツ産業は近年、従来の競技型スポーツにとどまらず、エンターテインメントやテクノロジー、観光など、さまざまな分野と結びつきながら、着実に成長を遂げている。特にプロスポーツ観戦でエンターテインメント要素の強化や、eスポーツといった新たな分野の発展、政府による充実した振興政策などが複合的に組み合わさり、今やスポーツ産業は韓国の一大産業に位置付けられている。日本でもスポーツ産業の盛り上がりが期待される中、韓国の取り組みから得られるヒントは多い。また、日韓間の協働可能性や日本企業の参入の余地も十分に存在する。

そこで、本稿では、韓国のスポーツ産業の現状と注目領域を概観し、日本企業がどのようなかたちでビジネスチャンスを見いだせるかを考察する。

スポーツ産業の市場規模は着実に回復

まず、韓国のスポーツ産業の市場規模を概観したい。韓国文化体育観光部の発表(注1)によると、2023年の韓国のスポーツ産業の売上高は、前年に比べて3.7%増加し、過去最高の81兆ウォン(約8兆1,000億円、1ウォン=約0.1円)を突破した(図参照)。内訳を見ると、スポーツ施設業が21兆7,560億ウォン(前年比2.0%増)、スポーツ用品業が34兆4,750億ウォン(同4.7%増)、スポーツサービス業が24兆8,010億ウォン(同3.9%増)だった。いずれの業種でも、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年と同程度まで回復しており、今後のさらなる市場成長が期待されている。

図:韓国のスポーツ産業の売上高の推移
2018年のスポーツ施設業は19兆8,490億ウォン、スポーツ用品業は34兆3,710億ウォン、スポーツサービス業は23兆8,470億ウォン、2019年のスポーツ施設業は20兆7,480億ウォン、スポーツ用品業は35兆4,050億ウォン、スポーツサービス業は24兆5,320億ウォン、2020年のスポーツ施設業は13兆3,160億ウォン、スポーツ用品業は25兆4,120億ウォン、スポーツサービス業は14兆1,900億ウォン、2021年のスポーツ施設業は16兆4,690億ウォン、スポーツ用品業は30兆6,240億ウォン、スポーツサービス業は16兆7,960億ウォン、2022年のスポーツ施設業は21兆3,230億ウォン、スポーツ用品業は32兆9,160億ウォン、スポーツサービス業は23兆8,670億ウォン、2023年のスポーツ施設業は21兆7,560億ウォン、スポーツ用品業は34兆4,750億ウォン、スポーツサービス業は24兆8,010億ウォン。

出所:文化体育観光部の発表資料からジェトロ作成

2023年の韓国のスポーツ産業の売上高を詳しくみると、特に成長性が高い分野がみられる。まず、スポーツ施設業では、サッカー場や野球場などの野外施設運営業が前年比13.7%増となった。テニス場や卓球場などその他施設運営業も同17.6%増で、野外スポーツの人気が高まっていることが推察できる。スポーツ用品業では、オンライン販売を中心とした無店舗小売業が前年比9.7%増となり、EC市場の拡大による消費行動の変化がうかがえる。スポーツサービス業では、スポーツ選手のマネジメントを担うスポーツエージェント業が前年比25.0%増だった。プロ野球やプロサッカーなどの競技業も同20.6%増で、プロスポーツの商業価値が高まっていることがうかがえる。

これらのデータから、韓国では、スポーツ産業が「見る・する・支える」の全ての面で成長しており、産業としての幅が広がっていることがわかる。特に野外スポーツの定着やECによる消費行動の変化、プロスポーツの価値向上といった要素が複合的に作用し、スポーツ産業全体の活性化につながっている。

エンタメ化進むプロスポーツ

近年の韓国では、プロスポーツの人気が急速に高まっている。特に注目されているのがプロ野球だ。韓国にはKBO(Korean Baseball Organization)というプロ野球リーグがあり、全10球団が所属している。2024年のKBO観客数は前年比34.4%増の1,088万7,705人で、初めて1,000万人を突破した。2025年もその勢いはとどまることなく、年間観客数が1,200万人に達するペースで推移している。これは、韓国の人口(約5,100万人)を踏まえると、国民の約4人に1人が観戦していることになる。

人気拡大の背景には、野球観戦が相対的にコストパフォーマンスの良い「娯楽」との認識が広がったことが大きいという。例えば、韓国の映画観覧料は過去3年間で25%程度値上がりし、映画1本当たり約15,000ウォンなのに対し、野球の観戦料はソウル首都圏で1万ウォン未満から2万ウォン程度だ(「メディアトゥデー」2024年9月16日)。また、スポーツ観戦にイノベーションやコンテンツ演出を融合させたスポーツの「総合エンターテインメント化」も、人気の要因の1つだ。韓国のプロ野球は、観客参加型の応援スタイルやチアリーダーによる演出、人工知能(AI)やデジタル技術を活用した演出などが導入され、試合そのものがエンタメ体験となっている。さらに、K-POPとの連携によるライブパフォーマンスやコラボイベントも開催され、幅広い世代が楽しめる工夫が施されている。


熱気あふれるソウル市内の球場(ジェトロ撮影)

さらに、SNSとの積極的な連動によるファンダム(注2)の形成や、地域密着型の球団運営といった球団の努力や工夫も、人気を後押ししている。韓国の各球団はYouTubeなどのSNSを積極的に活用し、選手の舞台裏や日常を発信することで、ファンダムを育成している。例えば、プロ野球チーム「ハンファ・イーグルス」の公式YouTubeチャンネル「Eagles TV」は、2025年7月時点で登録者数が47万人を超え、若年層の新規ファン獲得に大きく貢献している。また、地方では、各球団が地域限定グッズの販売や地元企業とのコラボといった地域に根ざした活動を通じて、地元ファンとの関係を深めている。加えて、地方球場の設備改善や交通インフラの整備も進み、快適な観戦環境が整いつつある。これにより、地域住民の観戦意欲が高まり、観客動員につながっている。さらに、スポーツイベントが観光資源として活用され、外国人誘致や広域観光との連携も進展している。

市場規模を2028年までに105兆ウォンに

韓国政府は急速に発展するスポーツ産業を韓国経済の成長エンジンとするべく、支援体制の強化を推進している。中でも、文化体育観光部が2024年4月に発表した「第4次スポーツ産業振興中長期計画」では、「ともに成長するスポーツ産業、韓国の新しい成長動力」をビジョンに掲げ、スポーツ産業の市場規模を2028年までに105兆ウォン(注3)にする目標を示した(表参照)。また、スポーツ産業のグローバル競争力強化や高付加価値産業との融合を通じて、スポーツを「見る・する・支える」産業として多面的に育成し、韓国の未来産業としての地位を確立することを目指している。

表:「第4次スポーツ産業振興中長期的計画」の概要

目標
項目 内容
市場規模の拡大 スポーツ産業の市場規模を2028年までに105兆ウォンに
企業育成の推進 売上高が100億ウォン以上のスポーツ事業者を2028年までに1,000社に
地域発展への貢献 韓国全体の地方事業者数の割合を2028年までに55%に
雇用の創出 スポーツ産業の従事者を2028年までに60万人に
推進戦略
項目 内容
スポーツ産業のグローバル競争力強化
  • 企業の段階に応じた成長支援体系の高度化
  • オーダーメード型の産業支援を通じた企業体力の増強
  • 専門人材ネットワークの構築と拡大
  • 持続的成長のための産業基盤の強化
高付加価値産業との融合を通じた新市場の開拓
  • デジタル技術を活用したスポーツ参加・観覧サービスのイノベーション
  • ICT(情報通信技術)イノベーションを基盤としたスポーツ産業の先端化(スマート化)
  • K-カルチャーとの連携によるスポーツ産業の多角化
地方主導によるスポーツ産業の成長
  • 持続可能な地方スポーツ産業の成長支援
  • バランスの取れた地方スポーツ産業の発展管理

出所:文化体育観光部「第4次スポーツ産業振興中長期計画」

テクノロジーやツーリズム分野に参入可能性

韓国ではスポーツ産業の多様化や市場の拡大に加え、政策的支援も充実しており、スポーツ産業の成長は今後も期待できると推測できる。そのような状況を踏まえると、日本企業にもビジネスチャンスが見込まれよう。韓国のスポーツ産業の潮流と政策を踏まえ、「テクノロジー」「ツーリズム」「コンテンツ」の3つの視点から、日本企業の市場参入の可能性を整理する。

(1)スポーツテック

まず、スポーツテックをはじめとする技術分野では、日本企業にとって韓国市場への参入の可能性が高まっている。韓国ではスポーツの総合エンターテインメント化が進み、観戦スタイルの高度化・多様化に加え、競技の質向上や運営の効率化など、多方面でイノベーションが加速しており、政府による積極的な支援も後押しとなっている。こうした中、日本企業はウエアラブル機器やヘルスケア製品といった物理的製品のみならず、AIやクロスリアリティー(XR、注4)技術を活用した分野でも、韓国企業との協業を通じた新たなビジネス機会を見いだすことができる。実際に「ソウル国際スポーツレジャー産業展(SPOEX)」などの展示会は、市場動向の把握やネットワーキングの場として活用できる。

(2)スポーツツーリズム

スポーツツーリズム分野では、旅行会社によるスポーツ観戦を組み込んだパッケージツアーの企画などを通じて、韓国との連携が期待される。前述のとおり、韓国ではスポーツイベントが観光資源として活用され、外国人観光客の誘致や広域観光との連動が進展している。特に地方都市では、スポーツ振興政策と地域資源が融合し、地域の食や文化を組み合わせた観光商品が注目を集めている。こうした流れの中で、日本の旅行会社はスポーツに食や文化を組み合わせた観光パッケージの企画や、韓国の自治体や企業との連携によるスポーツ体験ツアーの開発を通じて、協業の幅を広げることができる。

(3)スポーツコンテンツ

最後に、スポーツ産業のコンテンツ化やIP(知的財産)活用、OTTプラットフォーム(注5)との連携によって、新たなビジネスチャンスの創出が期待される。韓国ではプロ野球団が自らSNSなどを運用し、選手やチームをK-POPアイドルのようにブランディングすることで、ファンダムを形成し、メディアに多く露出している。こうした展開はグッズ販売やイベント開催に波及し、競技中心型の収益モデルを補完する新しい収益源となっている。この韓国型モデルは、日本企業にとっても有効な連携手法となり得る。例えば、日韓両国の選手が出演するドキュメンタリーやバラエティー番組の共同制作は、新たなファンダム層へのアプローチを可能にし、新規ファンの拡大に寄与するだろう。さらに、OTTプラットフォームでのコンテンツ配信を通じて、スポーツコンテンツのグローバル展開が進み、日韓両国の国際競争力強化にも貢献する可能性がある。

このように、韓国のスポーツ産業はエンタメ性の向上やデジタル活用、地域密着型の運営など、多面的な進化を見せている。日本企業は技術力やIP資産を生かし、韓国との協働関係を築くことで、両国のスポーツ産業のさらなる発展に貢献できるだろう。また、スポーツを通じた日韓連携は、単なる経済活動にとどまらず、文化交流や国際関係の深化にも寄与する。今後は「共創」の視点から、スポーツ産業での新たな協業モデルの発見と推進が期待される。


注1:
文化体育観光部は、スポーツ産業について、スポーツ施設の運用・建設業などの「スポーツ施設業」、スポーツ用品の流通・販売業などの「スポーツ用品業」、競技運営や情報サービスなどの「スポーツサービス業」の3つに区分している。
注2:
特定のコンテンツに対して熱心な支持者やファンの集団。
注3:
2023年の韓国内の外食産業の市場規模とほぼ同じ。
注4:
VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などの技術を包含する現実世界と仮想世界を融合させた体験を創造する技術の総称。
注5:
Over The Topの略称で、インターネット回線によってアクセスできるコンテンツ配信サービスの総称。
執筆者紹介
ジェトロ・ソウル事務所(執筆当時)
橋本 泰成(はしもと たいせい)
2022年、ジェトロ入構。農林水産食品部戦略企画課を経て、2024年7月からソウル事務所で韓国関係の調査を担当。現在はDX推進室とデジタルマーケティング部コンテンツ課で日本のコンテンツ輸出を支援。