中国からのEV輸入と統括拠点設置が加速(シンガポール)
2025年6月24日
シンガポールの輸出を国・地域別に見ると、中国が2024年まで11年連続で最大だった。しかし、2025年に入り前年を下回る水準が続く。
他方で、中国からの輸入は、電気自動車(EV)などが牽引。2025年は反転増勢の傾向にある。
シンガポール政府が発表する最新の統計を基に(注1)、シンガポールと中国との貿易、さらには直接投資の動きを概観。地域統括拠点を設置する中国企業が増えていることにも触れる。
対中輸出:2025年に入って減少傾向
シンガポールの2024年の中国向け財輸出は、前年比7.2%増。約944億シンガポール・ドル〔Sドル、10兆2,935億円、1Sドル=109円(2025年4月末時点)〕で、3年ぶりに900億Sドルを突破した。2014年以降11年連続で、シンガポールの最大の輸出相手国になった。
しかし2025年に入り、中国向け輸出は前年水準を下回る展開が続く。第1四半期(1~3月)は前年同期比26.7%減、4月は前年同月比18.6%減だった(図1参照)。
これをa)再輸出とb)地場輸出の別に細分してみる。a)とb)は、第1四半期と4月のいずれも前年同期・同月水準を下回る点で共通する。ただし、輸出全体の減少への寄与度は、再輸出の方が大きい。

出所:Global Trade Atlas(S&P Global)から作成
再輸出について、第1四半期、4月それぞれ約2,700品目(HSコード6桁)のうち、各期間での再輸出減少への寄与が大きい上位5品目で共通する品目は、(1)「人用のワクチン(HS3002.41)」〔第1四半期寄与率:17.2%、4月寄与率:36.7%(注2)〕、(2)「集積回路の一種(8542.39)」(8.9%、28.9%)、(3)「記憶素子(8542.32)」(7.4%、9.9%)だった(注3)。
地場輸出(対象は2,000品目超)では、(1)「半導体デバイスまたは集積回路製造用機器(8486.20)」(52.0%、20.8%)、(2)「加工した金の一種(7108.13)」(22.4%、9.9%)、(3)「半導体ウエハーまたは半導体デバイスの検査用機器およびフォトマスクまたはレチクルの検査用機器(9031.41)」(12.3%、17.2%)、(4)「マスクまたはレチクルの製造または修理、半導体デバイスまたは集積回路の組立て、ボール、ウエハー、半導体デバイス、集積回路またはフラットパネルディスプレイの持上げ、荷扱い、積込みまたは荷卸しに使用する機器(8486.40)」(8.6%、24.9%)が、第1四半期と4月の減少に寄与が大きい。
中国からの輸入:減速基調の中、EVに存在感
財輸入はどうか。シンガポールの中国からの輸入は2024年、前年比4.1%減。757億Sドルだった(図2参照)。中国からの輸入額減少は、前年に続き2年連続になる。2013年から2023年までは国・地域別で1位だった。しかし2024年は、3位に順位を下げた。
中国に代わり1位になったのは台湾だ。2024年に台湾からの輸入増加に寄与が大きい商品を見ると、最大は(1)「プロセッサーおよびコントローラー(HS8542.31)」(寄与率:64.8%)。(2)「処理装置(8471.50)」(19.0%)、(3)「記憶素子(8542.32)」(17.3%)などが続いた。

出所:Global Trade Atlas(S&P Global)から作成
中国からの輸入について、2023年ならびに2024年それぞれで前年比減になった品目のうち、2024年の減少に最も大きく寄与したのは、(1)「軽質油・同調整品(HS2710.12)」(寄与率65.5%)だ。これに、(2)「データ受信、変換、送信、再生機械(8517.62)」(13.2%)などが続いた。
逆に、2023年ならびに2024年それぞれで前年比増だった品目では、減少を最も食い止めたのは、(1)「スマートフォン(8517.13)」〔△32.2%(注4)〕だった。(2)「(電話機およびデータ送受信機器の)部分品(8517.79)」(△12.6%)、(3)「ニッケル(合金を除く)(7502.10)」(△9.9%)、(3)「電気自動車(8703.80)」(△8.5%)などが続いた(注5)。
中国からの輸入は、2025年に入ってから増加している。第1四半期に前年同期比6.1%増、4月は前年同月比2.8%だった(図3参照)。この両期間に輸入実績があった品目は4,000を超える。その中から、それぞれの期間で増加への寄与が大きかった上位10品目を抽出した。その結果、両期間で共通したのは、(1)「プロセッサーおよびコントローラー(HS8542.31)」(第1四半期寄与率:50.7%、4月寄与率:271.8%)、(2)「加工した金の一種(7108.13)」(35.9%、67.1%)、(3)「ニッケル(合金除く)(7502.10)」(24.6%、81.8%)、(4)「電気自動車(8708.30)」(9.8%、11.1%)だった。

出所:Global Trade Atlas(S&P Global)から作成
シンガポール陸上交通庁(LTA)によると、電気自動車(ハイブリッド車を含まない/以下、EV)が全乗用車に占める割合は、2014年末(EV:1台、全乗用車:61万6,609台)から拡大した。2024年末に約4%(2万6,225台、65万7,744台)、2025年4月末には約5%に達した(3万2,156台、65万8,092台)(注6)。
メーカー別燃料タイプ別では、中国の大手EVメーカーの比亜迪(BYD)が全体の増加に寄与した。 2024年の全新規登録自動車台数(ガソリン車などを含め4万3,022台)に占める同社(6,191台)の構成比は14.4%で、トヨタ(7,876台)に次ぐ実績だった。2025年1月~4月の累計では、20%を超えた。
他の中国EVメーカーにも動きがありそうだ。中国EVメーカーA社のアジア市場担当者にヒアリングしたところ(2025年4月26日)、シンガポールを最優先市場の1つと捉え、「2025年内にシンガポールへの新規輸出を予定している」と明らかにした。当地では中国産EVの存在感がさらに増すと見込まれる。
対内直接投資:地域統括拠点設置が活発化
直接投資で、シンガポールと中国の関係はどうか。 シンガポール統計局によると、シンガポールから中国向けの対外直接投資額(ストック)が、中国からの対内直接投資額(ストック)を上回る(図4参照)。
このうちシンガポールからの対外直接投資額(ストック)を、中国で営む業種別に確認してみる。2023年末時点で最大なのは、「製造業」だ。これに、「不動産業」(16.7%)、「金融・保険業」(14.8%)、「卸売・小売業」(13.6%)が続く。統計がさかのぼれる1994年以降で見ると、一時期は60%を超えていた「製造業」のシェアは2023年には37.6%と低下傾向にあり。これに対し、「金融・保険業」(3.5%→14.8%)、「卸売・小売業」(6.5%→13.6%)の占める割合が拡大している。

注:ストックは各年末。2023年まで。フローは2015年から2024年まで。
出所:シンガポール統計局から作成
両国間の直接投資(ストック)の各年の前年差を見ると、増加分では「中国→シンガポール」が近年、「シンガポール→中国」を上回る(既出図4参照)。この動きは、中国からシンガポールへの対内直接投資のフローからも見て取れる。後方3年移動平均(注7)で見た中国からのフローの対内直接投資額は、2020年を底に拡大傾向にある(既出図4参照)。
中国からの対内直接投資額(フロー)を2022年~2024年平均で見ると、「不動産業」(29億6,000万Sドル)が最大。「卸売・小売業」(26億4,000万Sドル)、「金融・保険業」(20億3,000万Sドル)などが続く(表参照)。2017年~2019年平均(新型コロナウイルス感染症拡大前)と比べると、「専門および管理・支援サービス業」〔2017~2019年平均:△3,000万Sドル→2022~2024年平均:8億Sドル〕、「製造業」(△9,000万Sドル→3億2,000万Sドル)、「卸売・小売業」(23億Sドル→26億4,000万Sドル)などが、対内直接投資額増に大きく寄与した。
業種 |
2017年- 2019年平均 |
2022年- 2024年平均 |
寄与率 |
---|---|---|---|
全体 | 79.4 | 97.9 | 100.0 |
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△ 0.9 | 3.2 | 22.4 |
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0.3 | △ 0.1 | △ 2.1 |
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23.0 | 26.4 | 18.3 |
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△ 0.1 | 0.0 | 0.9 |
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1.5 | 4.5 | 16.6 |
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1.2 | 4.4 | 17.4 |
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26.3 | 20.3 | △ 32.4 |
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29.2 | 29.6 | 1.9 |
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△ 0.3 | 8.0 | 44.8 |
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△ 0.7 | 1.6 | 12.2 |
出所:シンガポール統計局から作成
「専門および管理・支援サービス業」には、「法律および会計サービス業」や「本社・地域統括会社」を含む。その動きは、ジェトロが2024年度に実施した調査(注8)からも追える。なおこの調査では、中国企業のシンガポール地域統括拠点の設立例についてもヒアリングした。
シンガポールの会計企業規制庁(Accounting and Corporate Regulatory Authority:ACRA、注9)に「本社・地域統括会社」として登録した中国・香港系企業は、2024年12月時点で83社に上った(注10)。このうち半数超が、2020年以降の登録だ(図5参照)。 グローバルにビジネスする中国系企業の中には、地域の統括機能をシンガポールに置く企業が少なくない。例えば、ASEANやインドへの事業展開を見据え、シンガポール拠点を輸出入ハブに位置付ける例などがある。

注:数値は、2024年12月26日時点。在シンガポール企業への出資割合が10%以上の株主の所在地(国・地域)により分類。
出所:ハンドシェイクス社(注10)提供データから作成
- 注1:
- 本レポートは、2025年5月27日時点で入手可能な統計に基づく。
- 注2:
-
寄与率は、全体の変化に対する特定要素の影響を示す。貿易では、輸出(または輸入)の増減に対して、特定品目がどれほど影響を与えたかを測る指標になり、百分率(%)で表わす。計算式としては、次のとおり。
寄与率(%)=〔個別品目の輸出(または輸入)増減額〕÷〔輸出(または輸入)全体の増減額〕×100 - 注3:
-
HSコードに基づいた品名は、「輸入統計品目表
」(財務省関税局)を基に簡略した。
- 注4:
-
この記事で、「△」はマイナスを意味する。
なお、寄与率の計算上、輸出(または輸入)が減少した年は分母が負値になる(注2参照)。その結果として、増加した品目にマイナス表記が付く(数値だけ見ると減ったように見えるものの、逆)。 - 注5:
-
「スマートフォン(HS8517.13)」と「(電話機およびデータ送受信機器の)部分品(8517.79)」は、2022年版HS(HS2022)から新設。それぞれ8517.12と8517.70から分離・独立した〔世界税関機構(WCO)ウェブサイト参照
〕。
シンガポールでは、HS2022に基づくAHTN2022を、2022年6月から採用している(シンガポール税関ウェブサイト参照)。
- 注6:
-
シンガポール陸上交通庁(LTA)ウェブサイト参照
。
- 注7:
- 対内直接投資のフローは、各年でばらつきが大きい。後方3年移動平均を計上したのは、それを均一化するため。
- 注8:
- 「非日系企業のASEAN戦略調査(2025年3月)」(ジェトロ)参照。
- 注9:
- シンガポールで、現地法人や支店設立の登記は、原則としてACRAに届け出る。ただし、通貨金融庁など、別政府機関が管轄している場合を除く。
- 注10:
- ハンドシェイクス(本社:シンガポール)から入手したデータに基づく。同社は、ACRAが指定するデータベンダー。

- 執筆者紹介
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ジェトロ・シンガポール事務所次長
朝倉 啓介(あさくら けいすけ) - 2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、国際経済研究課、公益社団法人日本経済研究センター出向、ジェトロ農林水産・食品調査課、ジェトロ・ムンバイ事務所、海外調査部国際経済課を経て現職。