変化するロボットの役割、コロナ禍を経て社会課題に挑む(世界)
スタートアップ・エコシステムを中心に

2023年2月17日

ロボットの役割は、製造現場における自動化や省人化にとどまらず、医療現場のサポートや介護、家事の負担軽減などのサービス分野へ大きく広がりを見せる。これまで「速く」「正確に」を実現してきたロボットは、「人との協調」が求められるようになった。ロボットの役割はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などのデジタル技術の高度化、また新型コロナ禍での需要の変化から一層多様化しており、さまざまな課題にいち早く対応するスタートアップの存在感が高まっている。

ロボティクスを強みとする世界のスタートアップ・エコシステム

新たな技術が生み出される過程で重要となるのが、ネットワーク構築や資金調達などの面でスタートアップ創出を支援する、スタートアップ・エコシステムの存在だ。米国調査会社のスタートアップゲノムは毎年、世界約280のエコシステムを評価した「グローバル・スタートアップ・エコシステムレポート外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」を発表している(表1参照)。その中で、「高度な製造業・ロボット」がサブセクターの強みとして紹介されたところは世界で10都市・国[ボストン、ミシシッピ、ピッツバーグ、ソウル、東京、京都、大阪、ケララ(インド)、ライン・ルール都市圏、デンマーク]に上った。これらの都市を中心に各国・地域の特徴を概観する。

表1:「高度な製造業・ロボット」をサブセクターとするスタートアップ・エコシステム
国(都市) サブセクター「高度な製造業・ロボット」で紹介された内容
米国
ボストン/ミシシッピ/ピッツバーグ
ボストン発のLocus Robotics (自律配送ロボット)は企業評価が10億ドルを超えるユニコーンに成長。ミシシッピ州は2022年末の施設開設のため、先端技術と製造設備に6,000万ドルを投資。ピッツバーグのGecko Robotics(産業施設の点検ロボット)は2022年3月に7,300万ドルのシリーズCを調達している。
韓国
ソウル
2020年10月、政府は「ロボット産業の積極的な規制緩和のためのロードマップ」を策定。ロボット関連の研究開発、流通・実証、人材育成のための予算は2021年に前年比29%増の1億6,000万ドルとなった。
日本
東京/大阪/京都
日本のロボット市場は、2035年には約10兆円に成長すると予想されている。
インド
ケララ州
先進的な製造業やロボット工学の企業にとって理想的な拠点。22のファブラボ、20のIoTラボなどが集積する。
ドイツ
ライン・ルール地域
インダストリー4.0のためのパワーハウスであり、ドイツ企業や世界的に活発な中小企業が集中している。製品のアイデアやデザイン、実証、顧客獲得に最適な拠点となっている。
デンマーク オーデンセ市は、175のスタートアップとスケールアップ企業、40の高等教育プログラム、10の研究機関を抱える、欧州でもトップクラスのロボット工学の中心地となっている。

注:サブセクターにはエコシステムで強みとされる分野が記載されている。一部抜粋。
出所:Startup Genome “The Global Startup Ecosystem Report 2022”

1.米国

米国では、古くから製造業の集積があるボストンやピッツバーグに、ロボット関連のスタートアップ・エコシステムが形成されている。掃除ロボットの代名詞、ルンバを開発したiRobotや、商業目的としては初の月面着陸機を手掛けたアストロボティクスもこれらの都市発祥である。特に、ピッツバーグに位置するカーネギーメロン大学は、ロボット工学研究の中心地となっている。

米国ではVC(ベンチャーキャピタル)やファンドを用いた、ロボット関連スタートアップへの投資が積極的に行われている。アマゾンは、2022年4月に10億ドル規模の物流関連技術に関する投資ファンド、Amazon Industrial Innovation Fundを立ち上げ、倉庫業務に関連した作業ロボットを手掛けるスタートアップに投資している。米国では新型コロナ禍後の働き方の変化や、長期化するインフレの影響から、転職者が後を絶たず、企業は労働力不足に直面しており、ロボットの導入も必然的に進んでいるとみられる。

2.韓国

韓国政府は2020年10月に、「ロボット産業の積極的な規制緩和のためのロードマップ」を策定。政府は規制緩和を通じ、2023年までの「世界4大ロボット大国入り」の目標を掲げる。最近では、ホテル、飲食店、配達などで使うサービスロボット企業の成長が目立つ。2022年には、外食産業向け自律型配膳ロボットを販売するベアロボティックス(注)が8,100万ドルの資金調達を達成したほか、LG電子と通信大手KTが業務協約を締結し、サービスロボット産業の競争力強化のためのプラットフォームの構築を発表。非接触型社会を、より便利にするロボットへの期待が高い。

3.インド・ケララ州

インド・ケララ州は2021年9月、州中部のイノベーション地区に、約1万8,580平方メートル規模の「デジタルハブ」を設立し、スタートアップ誘致を加速させている。特に、AI、ロボット工学、拡張現実(AR)、IoT、言語処理技術など、最新技術に焦点を当てている。ロボット分野では、インカ―ロボティクスやアシモフロボティクスなどのスタートアップが対話ロボットの開発に取り組んでおり、教育や医療の現場をサポートしている。インドは高い技術力を持つIT人材が豊富であることから、ロボット分野のみならず、さまざまな分野のソフトウェア開発の拠点として、世界から注目を集めている。

4.欧州

欧州では、デンマークやドイツのライン・ルール地域が紹介された。デンマークのオーデンセ市は、175のスタートアップ、40の高等教育プログラム、10の研究機関が立地し、欧州でもトップクラスのロボット工学の集積がある。同地に位置する南デンマーク大学は、協働ロボットで世界シェア1位のユニバーサルロボットを輩出した。

ドイツは、インダストリー4.0の中心地として、ライン・ルール地域には500以上のエコシステム・プレーヤーが位置する。サイバーダインなど、日本企業も当地に進出している。

日本を目指すロボット関連スタートアップ

日本の市場に魅力を感じ、海外から日本へ進出するスタートアップもある。先述のエコシステムレポートで「高度な製造業・ロボット」を強みとする都市として、日本からは東京、京都、大阪の3都市が紹介された。国際ロボット連盟(IFR)が2022年3月にリリースした報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます によると、日本は「世界最大のロボット生産国」との評価を得ており、同事務総長のスザンヌ・ビラー博士は「日本は高度にロボット化された国。日常生活におけるロボットの使用で、世界的なパイオニア的存在だ」と述べている。ロボットの開発・実証拠点として、また市場として、世界のロボット関連産業の日本への関心は高い。

各社報道およびプレスリリースから筆者が把握できただけでも2020年以降、少なくとも12のロボット関連スタートアップが日本企業との提携や子会社の設立に至った(表2参照)。全体として欧米からの案件が目立つものの、2021年ごろからサービスロボットを扱うアジアからのスタートアップの日本進出も見て取れる。

表2:日本に進出するロボット関連スタートアップ
発表(報道)時期 企業名 本籍地 内容
2020年1月 Exotec フランス 倉庫用ロボットを展開する仏Exotecは、ユニクロを展開するファーストリテイリングの倉庫に自社ロボットを導入
2020年3月 ホロビルダー 米国 竹中工務店は米ホロビルダーと技術開発の連携を開始。ロボットやドローンを用いて自動巡回撮影した画像クラウドで共有する。竹中工務店が開発したシステムや他のスタートアップが持つシステムとの連携機能を開発
2020年9月 OSARO 米国 イノテックと米OSAROは共同でAIピッキングラボを開設。AIソフトウェアによるピッキング作業の自動化をより汎用的に行うために、ロボットと周辺機器を組み合わせた形で、今後、プロダクト、ソリューションを拡充する
2020年9月 リップコード 米国 富士ゼロックスは米リップコードと新会社を設立し、銀行や保険、行政、エネルギー関連企業などが保管している紙の書類を高速・自動的にイメージデータ化する
2021年1月 Roboyo ドイツ 日立ソリューションズは独Roboyoと販売代理店契約を締結し、「RPA運用支援クラウドサービス」と組み合わせ、ロボット開発のライフサイクルを支援強化する
2021年4月 BERKSHIRE GREY INC 米国 ソフトバンクロボティクスとSBロジスティクスは米バークシャーグレイとパートナーシップを締結、物流拠点で何万ものSKU(最小単位の管理)を全自動で扱う
2021年6月 オートストア ノルウェー ソフトバンクロボティクスはノルウェーのロボット技術企業オートストアと販売提携し、さまざまなロボットや自動化技術を組み合わせて物流業界をロボット活用によってサポートする
2021年9月 Crown Technologies シンガ
ポール
JR東日本はCrown Technologies Holding社と連携し、駅でロボットによるコーヒーサービスを開始
2021年9月 WeHome 香港 トランザクションは香港WeHomeと独占販売代理契約を締結し、自走式見守りロボット「eboSE」を日本国内で販売
2022年1月 ez-ホイール フランス IDECは仏ez-ホイールと戦略的パートナーシップ契約を締結し、重量物搬送の負荷を軽減する「電動アシストホイール」と、自動搬送の労働力不足を解消する「安全自律走行ホイール」の日本での独占販売を開始
2022年2月 Keenon Robotics 中国 ソフトバンクロボティクスとアイリスオーヤマは中国Keenonの配膳・運搬ロボットを販売開始
2022年8月 Elite Robot 中国 2022年6月に日本法人を設立し、名古屋で製造業・飲食業・サービス業に向けに「人材不足」「自動化」「省人化」のソリューションを提供

出所:各社報道およびプレスリリースからジェトロ作成

例えば、シンガポール発のクラウン・テクノロジーズは2021年9月、JR東日本と合弁会社を設立した。同社はロボット・コーヒーバリスタを開発しており、JR東日本の駅構内でのテストマーケティングを実施。外国企業として初めて交通系電子マネー、Suicaを決済手段として使用することが認められた。CEO(最高経営責任者)のキース・タン氏は、日本を海外展開先として選んだ理由として「日本とシンガポールは高齢化と人材不足という似た課題を抱えている」とした。今後、国内での製造も視野に入れる。また、香港のWeHomeは、長期化するコロナ禍でのペット需要を背景に、コンパニオンロボットを製品化した。ペットや家族を見守る自走式ロボットとして、世界60カ国以上に展開。2021年にトランザクションと代理店契約を結び、日本での販売を開始した。

そのほかの進出事例では、デジタルトランスフォーメーション、いわゆるDXを推進するべく日本企業と提携する事例もみられる。米国のリップコードは富士ゼロックス(当時)と共同で、書類の電子化を進めるサービス会社を設立した。大量の紙書類を、ロボット技術とAIを使って高速で電子化し、銀行や行政のペーパーレス化を行う。また、米ホロビルダーは竹中工務店と提携し、建設現場の生産性向上を目指す。360度撮影した写真と撮影位置を、専用のアプリを用いて図面にプロットし、現場の把握および遠隔地への共有、さらに保守運用にも活用が可能だ。

他方、日本発、ロボット関連スタートアップの海外展開も進む。未来機械(ソーラーパネルの清掃ロボット)やユカイ工学(クッション型セラピーロボット)などは、海外での需要を見いだし、米国、アジア、中東へと進出を果たしている。

ロボットの役割が多様化するなか、新しいニーズを敏感にキャッチし、開発・製品化するスタートアップについて見てきた。各国・地域のスタートアップ・エコシステムは、同地でのパートナー発掘や、資金調達、市場の適合に重要な役割を果たし、イノベーションがその地で生まれる素地を提供している。日本のスタートアップの海外進出、また海外スタートアップの日本進出といった双方向にビジネスが展開されることで、ロボットによる人手不足の解消、DXの加速など、さまざまな課題解決に資するイノベーションの促進が期待される。


注:
米国シリコンバレー発の韓国系スタートアップ。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。