ワイン産地で日本酒コンクール(フランス)
ボルドー酒チャレンジ2021開催
2021年12月6日
日本酒の国際品評会「ボルドー酒チャレンジ(Bordeaux Sake Challenge)」が2021年10月24日、フランスのボルドーで開催された。この品評会の主催は、酒ソムリエ協会(Sake Sommelier Association、SSA)。2012年から、英国・ロンドンやイタリア・ミラノで開催されている。とくに今回の企画は、著名なワイン産地のボルドーで行われたことから注目を集めた。当日の様子と、ボルドーでの日本酒普及の現状などを報告する。
日本とボルドー両産地ワインの覆面対決企画も
品評会は、(1)日本酒、(2)日本産ワイン、(3)ル・ミニ・ジャッジメント・ボルドー(注1)、3部門の審査で構成。酒ソムリエや専門家ら約30人が審査に参加した。酒部門では吟醸酒、純米酒、リキュールなど、日本各地と海外から合計232本の酒がエントリーした。審査員は6つのグループに分かれる。各グループ約40本の酒について、まずブラインド・テイスティングで酒の色と外見、香り、味、総合評価を考慮して採点。その後、ボトルの覆いを取り除き、ボトルやラベルを含むデザインに関する採点へと続いた。
テイスティングでの審査員の反応は、豊かなフルーツ系の香りのモダンな酒を好む人と、うまみや香りの複雑さを備えた伝統的な酒を好む人に分かれたようだ。ラベルについては、酒と現地の人に分かるようにアルファベット記載が必要との意見が聞かれた。そうでありながらも、伝統的なラベルが好まれていた印象だ。
審査員の多くは、フランスだけでなく世界各国から集まった。今回の企画は、日本酒の知識やテイスティング手法を熟知する酒ソムリエにとっても貴重な機会となったようだ。審査員からは「さまざまな酒をテイスティングし、審査員の情熱があふれる1日だ。個人的に興味がある酒もいくつか見つけることができた」という声が聞かれた。
日本産ワインの審査には42銘柄が参加し、ワインソムリエや専門家によりブラインド審査が行われた。また「ル・ミニ・ジャッジメント・ボルドー」では、日本産ワイン15本とボルドー産ワイン15本が審査対象とされた。
3部門の審査結果は、ボルドー酒チャレンジのウェブサイトで発表された。
審査会に引き続き、日本文化イベント「ジャパンライフ」が開催された。版画、日本茶、福岡市(ボルドーの姉妹都市)の伝統工芸品など、日本文化紹介ブースなどが設置され、一般客でにぎわった。
パリには、日本食レストランも多い。また毎年、ワインのソムリエによる日本酒コンクール「クラ・マスター(Kura Master)」が開催されている。そうしたこともあり、ソムリエの間で日本酒に関する知識も蓄積されてきた。また、日本酒が取り扱われるのは、いまや必ずしも日本食レストランだけでない。星付きを含むフレンチレストランでの扱いも少しずつ増えている(2018年8月20日付海外農林水産・食品ニュース(Food & Agriculture)参照)。しかし、パリを除く地方では、取り扱いが限られ、日本酒が浸透しているとは言えない。ボルドーのような大都市でも、まだ同様だ。
今回、「ボルドー・酒チャレンジ」を運営したのが、クロエ・カゾー・グランピエール氏だ。氏は「同品評会を通して、酒と酒に関わる人々をボルドーで盛り立てたかった」と語る。併せて、「ボルドーの人々はワイン文化を通じて、価値が理解できるものに対価を支払うことができる。すなわち、そういう長所を持つボルドーには、日本酒普及の可能性がある。自分のできることで今後も日本酒普及に役立ちたい」と意欲を示した。
なお、氏は日本酒の輸入・卸販売会社「Otsukimi」の経営者で、日本酒ソムリエでもある。ボルドーでの日本酒普及について話を聞いた。
- 質問:
- ボルドーでの活動概要は。
- 答え:
- ワインとスピリッツの学位と、クリエイティブ産業マネジメントの修士号を取得後、ワインとスピリッツのプロフェッショナルとして活動している。また、ボルドーとテロワール(注2)を紹介する観光会社を創設。ヌーベル・アキテーヌ地域圏ガイド協会副会長を務めながら、ボルドーのプロモーションに携わっている。
- 2017年には、「Otsukimi-Buveurs de Lune(注3)」を創設した。同社を通じて、日本酒とリキュールを輸入・卸販売している。このほかの活動としては、(1)酒ソムリエ、焼酎アドバイザー、SSAの教育者として、プロや個人向けへの教育、(2)地方紙「フランス・ブルー・ジロンド」での日本酒に関するコラムの執筆、(3)国際的な雑誌「べール・ドゥ・バン」での日本酒やワインの評価、などがある。
- 質問:
- ボルドーでの品評会開催の背景について。
- 答え:
- 酒ソムリエ協会から、ボルドーでの開催の提案があった。日本酒と日本が大好きなので、ボルドーで日本酒を広め、日本酒と日本酒に係わる人を盛り立てたかった。今回の品評会は、ビジネススクールの構内で開催した。ビジネススクールのワイン・スピリッツ課程の学生にも品評会を手伝ってもらった。これは、学生が日本酒に触れる良い機会になった。
日本酒普及には、試飲機会などの提供が必要
- 質問:
- ボルドーの日本酒の普及状況はどうか。
- 答え:
- まだ、購入できる場所が多くない。しかし、日本食レストランやフュージョンレストラン、アジア系レストラン、アジア系食材店、日本食材店、ワインショップなどでは購入できる。また、当社のように「クリック&コレクト」(注4)による販売もある。
- 日本酒を広めるには、時間がかかる。ボルドーで試飲の機会を作ることが必要だ。私の場合、日本酒を扱うフュージョンレストランで、プロ向けの日本酒マスタークラスをシーズンごとに開催してきた。ワインソムリエや、ホテル・観光関係の学校やビジネススクールのワイン・スピリッツ課程で、日本酒について講義することもある。ワイン関係者の間で日本酒の興味は高まっている。そのため、日本酒の発展の可能性は十分あると思う。ボルドー観光局の依頼で、フランス、ベルギーの記者を招きボルドーのプロモーションをした時も、ワインと日本酒の試飲会を行った。ワインと日本酒は対立するものではなく、両者の橋渡しをするよう努めた。
- 一般客向けにも、取り組んできた。例えば、ボルドーのレストランで4種の日本酒をフランス料理に合わせるディナーを、定期的にオーガナイズした。さらに、10月には「アニマ・アジア」という文化イベントに出展。1本あたり10~90ユーロの価格帯の日本酒を100本以上、一般来場客に販売し、手応えを感じた。
- 日本酒購入者のプロフィールは、以下の2つに分かれる場合が多いと考える。
-
1)30~45歳で、アクティブ(比較的若年)
- 管理職層。日本に渡航歴がある(または渡航予定がある)、日本の文化を知っている。
- ボルドーでワイン産業に従事している。
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2)アジア系のレストランで日本酒を飲んだことがある
- 日本酒は強いアルコールだと思っている。
- 新しいものを発見したいが、必ずしも購入したいわけではない。
- 小型ボトルを購入する。
- 質問:
- 日本酒イベントを実施した際の参加者の反応は。
- 答え:
- プロを対象としたイベントの場合、参加者は日本酒を新しい発見として喜び、どのように使えるか想像する。同時に、顧客に対して日本酒の説明が必要ということも理解している。
- 一般客の場合、まず驚かれる。好きだと言うことも、好きではないと言うこと合もある。いずれにせよ、日本酒がそれまで思っていたアルコール度の強いお酒とは違うということが分かってもらえる。
- 質問:
- 日本酒普及の課題は。
- 答え:
- ボルドーには、アルコールと食の確固たる文化がある。ワインやスピリッツといった日本酒に競合する商品もある。また、ボルドーの消費者は、日本酒を「白酒」(アルコール度数の高い中国酒)と混同していることが多い。この点は、フランスの地方都市多くと同様だ。そのため、日本酒についての啓発が重要だ。
- ただ、ボルドーの消費者はオープンマインドだ。ワイン文化を通して、まずは高すぎないものから試そうとする。また、すでに価値が分かって納得しているなら、高価なものでも購入する習慣ができている。
- 質問:
- ボルドーで日本酒や日本食材のプロモーションイベントを企画する際に気を付けるべき点、アドバイスは何か。
- 答え:
- ボルドーで日本食材、日本酒を広めるには、広報・宣伝、良いパートナーが大変重要だ。ボルドーの人々は場所の評判に忠実なため、自分がよく知っている評判のレストランなどでイベントを行うと、日本酒を知らなくてもそのレストランを信頼して参加してくれることが多い。イベントを行うのに適した季節は、個人向けなら4~6月と9~10月。プロ向けは、9月がワインのブドウ収穫時期となるため、避けた方がよい。また、ボルドーは食文化が豊かで、名物である牡蠣(かき)、セップ茸(だけ)、魚介類、マルマンドのトマトなど、日本酒にも合う食材が豊富にあり、日本酒とボルドーの食材を組み合わせるのもよい。
- 質問:
- 今後の展望は。
- 答え:
- 次回も「ボルドー酒チャレンジ」を開催できるなら、より多くの日本酒、そしてより多くのワインが出品されることを願っている。日本のワインもとても興味深い。酒蔵や自治体にも参加いただき、マスタークラスや講義などを企画したい。
- 当社では、日本酒を一般客向けに販売するにあたっては、現在、ネット通販、クリック&コレクト(注4)を展開している。しかし、まだ実店舗は持っていない。今後は、まず3カ月などの一定期間、ポップアップストアを開設するなどして、実際にお客様とやりとりし、反応を見る機会を持ちたい。
- また、日本を訪れ、多くの日本酒に出会いたい。日本酒と食材のマリアージュ(注5)について扱ったビデオや動画なども、日本酒の普及のために大変重要なツールだ。そうした展開も、今後、進めていきたい。
- 注1:
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ル・ミニ・ジャッジメント・ボルドーは、日本産ワイン15本とボルドー産ワイン15本を、ワインソムリエや評論家などの専門家がブラインド審査〔産地情報などを一切不明な状態にして、視覚(色など)、嗅覚(香り)、味覚などだけで審査〕するコンテスト。1976年の「パリスの審判」に触発されて企画された。
この「パリスの審判」とは、カリフォルニア産とフランス産のワインをブラインド・テイスティングした結果、前者が後者よりも高い評価を得た出来事。当時、カリフォルニア産ワインはあまり評価が高くなかったことから、その結果は驚きをもって受け止められた。また、ワインの国際化が進むきっかけにもなったとされる。
ちなみに「パリスの審判」という言葉は、ギリシャ神話で、トロイア戦争の発端となった挿話の名称として良く知られている。1976年の出来事があったのがパリ(英語ではパリスと発音)だったため、件の神話と掛けてこのように呼ばれるようになった。 - 注2:
- ここで言うテロワールは、ワインブドウの生産地やその特性などを意味する。
- 注3:
- Buveurs de Luneは、「お月見」ないし「月夜酒」の対訳。
- 注4:
- 「クリック&コレクト」とは、インターネットで注文し店頭で受け渡すこと。
- 注5:
- ここで言う「マリアージュ」とは、ワインと料理の相性のこと。
- 執筆者紹介
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ジェトロ・パリ事務所
西尾 友宏(にしお ともひろ) - 2009年、農林水産省入省。2021年7月から現職(出向)。農林水産・食品関係業務を担当。