広東省、1~3月の貿易は2桁減も、越境ECが成長続ける(中国)

2020年5月29日

広東省統計局が発表した2020年第1四半期(1~3月)の経済指標によると、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、貿易額は前年同期比11.8%減の1兆3,695億元(約20兆5,425億円、1元=約15円)となった。中国全体の貿易額の20.8%を占め、引き続き中国の省・市別で第1位を維持した。3⽉単⽉の貿易額は前年同月比5.9%減の5,250億元で、減少幅は1~2⽉(15.2%減)から9.3ポイント低下した(表1参照)。

輸出依存型の広東省で貿易は回復傾向にあるが、新型コロナウイルスの感染が欧米諸国へも拡大したため、第2四半期は外需不振が懸念されている。

表1:広東省の2020年第1四半期の貿易額 (単位:億元、%)(△はマイナス値)
項目 1~2月 3月 1~3月
金額 前年同期比 金額 前年同月比 金額 前年同期比
貿易額 8,427 △ 15.2 5,250 △ 5.9 13,695 △ 11.8
輸出額 4,904 △ 17.5 3,008 △ 9.4 7,926 △ 14.4
輸入額 3,524 △ 11.8 2,242 △ 0.9 5,769 △ 7.8

出所:税関総署広東分署の発表を基に、ジェトロ作成

国・地域別にみると、ASEANおよび「一帯一路」沿線国・地域との貿易は、それぞれ7.7%増、1.9%増と増加したものの、香港向けは19.0%減、EU向けは12.4%減、米国向けは28.2%減と軒並み減少した。

深セン市と広州市で貿易の約6割を占める

広東省内の市別の内訳をみると、深セン市と広州市の貿易額がそれぞれ全体の42.0%、14.8%を占めている。深セン市の第1四半期の貿易額は11.7%減となり、減少幅は1~2月に比べ5.9ポイント縮小し、うち輸出は21.1%減、輸入は0.7%増だった。また、広州市の第1四半期の貿易額は5.1%減と、1~2月に比べ減少幅が2.5ポイント縮小した(表2参照)。両市とも3月の貿易状況は改善し、今後の動向が注目される。

表2:広州市、深セン市の2020年第1四半期の貿易額 (単位:億元、%)(△はマイナス値)
項目 広州市 深セン市
金額 前年同期比 金額 前年同期比
貿易額 2,025 △ 5.1 5,749 △ 11.7
輸出額 1,108 2.7 2,916 △ 21.1
輸入額 916 △ 13.0 2,832 0.7

出所:広州市、深セン市統計局の発表を基に、ジェトロ作成

拡大する越境EC貿易

貿易形態別では、一般貿易が12.1%減の6,859億7,000万元、加工貿易が25.6%減の3,856億元と落ち込んだ中で、越境電子商取引(EC)貿易額は4.7%増の130億9,000万元と新型コロナウイルスの影響下でも堅調だった。

深セン市越境EC協会の王馨会長によると、深セン市の越境EC業者は4万社超と多く、2020 年 1~ 2 月には中国国内の新型コロナウイルス感染拡大により、越境ECの輸出商品の供給が制限を受けたが、3月以降は各地で操業再開が進んだことに伴い、EC商品の仕入れが改善した。しかし、3月半ば以降、海外における経済活動が停滞状態に陥り、海外からの受注の落ち込みが懸念されているという(「南方日報」5月11日)。

また、越境ECの輸出が拡大する一方、海外の販売先や倉庫へいったん輸出した商品の返品件数も増加傾向にあるという。返品に伴う中国側での輸入手続きでは、関税と増値税の納付が必要となるため、EC輸出企業側の業務負担が大きいことが問題視されている。税関総署の調査によると、中国の越境EC輸出品の返品率は平均で約5%(アパレル商品に限れば、10%以上)に達している。

なお、広州税関では全国に先駆け、2020年1月から「越境EC輸出商品の返品監督システム」の試験運用を始めている。返品商品オンライン監督システムを利用することで、越境EC輸出企業は輸出後1年以内の商品であれば、簡単に返品手続きを行うことが可能になった。2020年1~3月に広州市で取り扱った返品は57万6,000件に達したが、新システムの導入により、EC関連企業は関連の物流コストを節約できるという。広州市で試験運用が成功したことを受け、税関総署は「越境EC輸出商品の返品監督システム」の運用を2020年3月27日から中国全土に拡大している。

越境EC総合試験区は全国最多の13カ所に

新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ貿易を活性化させるため、国務院は4月27日、越境EC総合試験区を全国に46カ所増設することを決定した。越境EC総合試験区とは、越境EC取引に関する代金決済、通関、物流、税金還付、外貨管理などのシステム整備を先行的に行う試験エリアで、輸出貨物への増値税と消費税を免除する優遇政策や通関書類の簡素化などの利便性向上に向けた措置が適用される。広東省では2016年1月に深セン市、広州市で省内初の越境EC総合試験区が設置されて以降、現在は計13カ所に拡大している(表3参照)。

表3:広東省内の越境EC総合試験区設立都市
発表時期 都市名
2016年1月 広州市、深セン市
2018年7月 珠海市、東莞市
2019年12月 汕頭市、佛山市
2020年4月 梅州市、恵州市、中山市、江門市、湛江市、茂名市、肇慶市

出所:国務院の発表に基づき、ジェトロ作成。

広東省商務庁によると、2019年末までに広州、深セン、珠海、東莞、汕頭、仏山の6市の越境EC総合試験区に登録している企業数は3,918社、6つの試験区の貿易額は広東省のEC貿易額全体の97.4%を占める1,079億6,000万元に達している(「南方日報」5月9日)。

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所
盧 真(ロ シン)
2004年、ジェトロ・広州事務所入所。これまでに総務関係、日本企業の中国進出支援、調査、対日投資、イノベーション促進、経済分析などを担当。