外国投資の審査対象を拡大、審査期間も延長(米国)
CFIUSの権限強化法が成立

2018年9月3日

「2018年外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)」がトランプ大統領の署名を経て成立した。FIRRMAは、外国企業の対米投資を審査する外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する法律であり、今回の法改正は日本企業の対米投資にも大きく影響しそうだ。本稿では、FIRRMA成立によるCFIUSの変更点を解説する。

法律施行日から18カ月後に実施

CFIUSは米政府内の委員会(注1)で、外国企業による米企業の買収が米国の安全保障に脅威を及ぼすかどうか案件ごとに審査している。審査メンバーは米政府の省庁部局の代表者で構成され、財務長官が委員長を務める。大統領にはCFIUSの勧告を受けて外国企業の買収を差し止める権限が与えられている。トランプ政権下でも、米半導体企業を対象にした買収が2件差し止められた。中国政府が関係する投資ファンドによるラティス・セミコンダクターの買収と、シンガポールに本社を置くブロードコムによるクアルコムの買収だ。また、大統領による差し止めまで至らなくても、CFIUSの審査対象となったことや差し止めの可能性を考慮して買収が破談に終わる事例もある。

FIRRMAはこのCFIUSの審査権限をより強化するもので、8月13日に2019年会計年度の国防授権法(H.R.5515PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(201KB) )に盛り込まれるかたちで成立した。FIRRMAによる主な変更が効力を有するのは、財務省が実施に伴う規制の整備などの準備ができたと官報で公示した日から30日、または法律施行日から18カ月後のどちらか早い方に設定されており、即時には適用されない。ただし、財務省は制度変更に向けたパイロットプログラムを先行して実施することもできる。

審査権限を強化する一方、申請制度の簡易化も

FIRRMAによる主な変更点は以下のとおり。

1.審査対象の拡大

審査対象の範囲を、現行の米国企業を「支配する」外国企業の投資から拡大し、以下の事業活動を審査対象に追加する。

  1. 米軍施設・空港・港などに隣接する土地の購入・賃貸・譲渡(一戸建て住居や市街地の土地は対象外)
  2. 重要技術・重要インフラ・機密性の高いデータを持つ米国企業に対する非受動的投資(少額出資であっても、米国企業が保有する機密性の高い技術情報・システム・施設などへのアクセスが可能になる投資や、役員会への参加などが可能な投資は対象にする)
  3. 外国企業が投資する米国企業において、その支配権が外国企業に渡るまたは機密性の高い重要技術・重要インフラ・データなどへの外国企業のアクセスが可能になる権利変更
  4. CFIUS審査の迂回(うかい)を目的とした取引・譲渡・契約

CFIUSは1と2について、一定条件を満たす投資を対象にするとみられるが、それらの条件については今後発表される規則により定められる。また、新たに審査対象となった投資の審査に必要な提出書類や審査方法なども別途定められる見込みだ。

2.審査期間の延長

現行のCFIUSによる審査は、最大30日間の第1次審査(National Security Review)と、最大45日間の第2次審査(National Security Investigation)で構成される。第1次審査の過程で審査対象の投資による安全保障上の懸念が解消されない場合は、第2次審査へと進む。

FIRMMAは、第1次審査の期間を15日間延長し、最大45日間にした。また、第2次審査の期間については、現行の45日間に加えて、財務長官が「特別事態(extraordinary circumstance)」(今後公示される官報で別途定義)と認めた投資案件に関しては15日の延長が可能になった。これにより審査全体にかかる日数は最大75日から105日に延びた。

なお、大統領はCFIUSによる勧告後15日以内に投資差し止めを含めた措置の内容を決定する必要がある(現行制度から日数の変更はなし)。

3.宣誓制度の新設

外国企業は、投資の概要を記した5ページ以内の「宣誓書(Declaration)」を提出することで、正式な審査を受ける必要があるか事前にCFIUSに判断を求めることが可能になる。CFIUSは宣誓書の提出を受けてから30日以内に判断結果を申請者に通知する。この段階で正式な審査は必要がないと判断されれば、審査に必要な書類作成や時間を削減できる仕組みになっている。

なお、FIRRMAは外国政府と「実質的な利害関係(substantial interest)」がある特定の投資については宣誓を原則義務付けている。また、重要技術への投資についても、CFIUSは別途規制を設定することで宣誓を義務付けることができる。現行CFIUSにおける申請は任意であるため、FIRRMAにより申請の一部が初めて義務化される。

4.審査手数料の導入

FIRRMAは、審査対象の案件の取引額の1%または30万ドルのうちどちらか低い方の金額を上限とした審査手数料を申請者から徴収する権限をCFIUSに与えている(現行制度ではCFIUSの審査は無料)。具体的な金額や算出方法は今後発表される規則により規定される。

5.同盟国や州政府など他の政府機関との情報共有

FIRRMAは、同盟国・友好国や米国の州・地方政府と投資審査に必要な情報の共有を認めており、この情報共有に向けた制度構築をCFIUSに命じている。また、これらの制度設計においては、安全保障に脅威を及ぼす企業や技術への投資に対して、他国と協調的な対応を取れるよう考慮すべきとしている。米国政府は今後、他国との投資規制の調和や強化を進めていくとみられる。

輸出規制改革法も同時に成立

議会に当初提出されたFIRRMAには、重要技術を持つ米国企業が海外での合弁事業などを通じて知的財産などを外国企業に提供する取引も審査対象に含める条項が含まれていたが、同条項は議会の関連委員会で取り除かれた。

一方、国防授権法は「2018年輸出規制改革法」を盛り込んでおり、米国の重要技術の海外流出への対策は輸出規制の強化により行われることになった。輸出規制改革法は、輸出管理規則(EAR:Export Administration Regulations)など商務省が実施する既存の輸出規制を法制化(注2)するだけでなく、新たに以下を行い、輸出規制を強化する。

  1. 現行の輸出規制では対象にならない「新興・基盤的技術(emerging and foundational technologies)」を対象にした輸出規制の構築
  2. 包括的武器輸出禁止国に対する輸出ライセンスの対象範囲および除外基準などの見直し
  3. 商務省のライセンス発行審査における審査要件に、対象技術の輸出が米国の防衛産業基盤に及ぼす影響を追加

注1:
CFIUSの詳細は2018年5月24日地域・分析レポート参照。
注2:
米国の軍民両用品の輸出規制である「輸出管理規則」は「1979年輸出管理法」により法制化されていたが、同法は1994年に失効している。米国政府は、それ以降は主に「国家緊急経済権限法(IEEPA)」に基づく緊急事態を宣言することで、輸出規制を実施してきた。

変更履歴
文章中に一部加筆しました。(2018年11月28日)
最終段落、項目2.
(誤)「武器輸出禁止国に対する輸出ライセンスの見直し 」
(正)「包括的武器輸出禁止国に対する輸出ライセンスの対象範囲および除外基準などの見直し 」
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
鈴木 敦(すずき あつし)
2006年、ジェトロ入構。対日投資部にて外国企業誘致に向けた地方自治体の支援や、日本の投資環境のPR業務を担当。その後、海外調査部国際経済研究課にて、国際貿易や世界の通商動向などに関する調査業務に従事。2014年9月から現職。米国の通商政策などに関する調査・情報提供を行っている。