輸出代金の回収滞りの打開策:日本

輸出代金の回収が滞っていますが、どうしたら良いでしょうか?

輸出代金の回収が滞った場合、契約書に記載されている条件、取引先の現在の財務状況、取引先との関係などにより対処方法を考えます。海外取引での代金回収は、国内取引に比較して手間と時間がかかることが多いので粘り強く交渉することが肝要です。また、取引先との合意事項、確認事項などについては議事録、覚書などを交わし、双方の責任者が署名した書面を残すようにして下さい。

I. 資金繰りが原因で代金回収が滞っているが、取引先との関係は良く、今後も友好的な取引関係を維持したい場合

  1. まず、取引先の現在の概況(販売・受注状況、今後の見通し等)、特に財務状況(売上代金回収状況、借入金、資金繰り等)をできる限り確認します。資料提出を要求し、同時に信用調査機関を使って信用調査を行うことをお勧めします。
  2. これら確認内容を踏まえ、いつならば支払えるかという先方の見解を引き出し、分割払いの検討も含めて新しい支払い時期を確約させ、議事録、覚書などの書面を取り交わします。
  3. 上記合意後にも支払い遅れが出た場合は、新規注文には応じないことと、さらに既契約分に関しても、支払い条件をL/C、または前払い条件に変更を行います。変更に応じない場合は出荷を差し止めることを通達します。
  4. 取引先との関係が良好であっても、取引先の財務状況によっては、一度で合意できるとは限らないので、状況によってはなるべく早い時期に自社の担当者が取引先を訪問し、再々面談してでも一度の渡航で確約を取り付けるまで現地に滞在するようにします。
  5. たとえ一回分が少額となっても継続的に支払う約束をさせ、実績をみることも有効です。
  6. 交渉が長引く場合が多いので、継続的に支払いの督促、確認ができる出先あるいは代理人を確保することも有効です。

II. 取引先の状況も悪く、誠意も見られないため、今後の取引は行わないことを前提とする場合

  1. 取引先の所属している現地の商工会議所に手紙またはe-mailなどの書面で状況を訴え、そのコピーを取引先に送り、圧力を掛けます。
  2. 国際弁護士を起用して、法的手段を取るという内容の文書を送る、または実際に国際弁護士の名前で、そのような文書を送り、仲裁か裁判に持ち込むことも想定した圧力を掛けます。 ただし、実際に仲裁または裁判に持ち込むか否かについては、契約書に定めた条件や紛争解決条項にどれだけのことが記載されているかが重要です。
  3. 弁護士等に依頼する場合、または実際に仲裁や裁判に持ち込む場合は、相応の費用や時間がかかります。したがって費用対効果の面での注意や判断が必要です(「仲裁に持ち込むべきかの判断基準:日本」を参照) 。
  4. 最初からある程度の損金費用を覚悟するのであれば、債権回収会社(Collection Agency)に依頼する方法もあります。この場合、弁護士等のように初期費用はかからず、回収できた金額に対して何割かの成功報酬を支払うことになります。ただし、債権回収会社の事情は国や地域により異なります。
  5. 日本貿易保険(NEXI)の貿易保険あるいは民間の輸出取引信用保険をかけていた場合は保険求償をすることを検討します。貿易保険は支払期限を3カ月以上過ぎて支払いがない場合は事故発生として扱われます。輸出取引信用保険では、通常180日を過ぎた場合は事故発生として取り扱われることが多いようです。但し、貿易保険の場合は被保険者の回収義務は残ります。

III. 今後、債権回収問題を抱えないための注意点

まず、取引を始める前に不測の事態・リスクを想定し、それらに備えた支払条件・契約条件を網羅した契約書を取り交わすことが最も重要です。また、契約書には紛争が発生した場合に備え、必ず紛争解決条項、仲裁条項、さらに契約のベースとなる準拠法(これは相手国の法律とするより、日本国の法律とする方が一般的には有利となります)を記載しておきましょう。取引先の財務状況悪化、さらには倒産のリスクに加え海外の会社は財務状況が健全であっても支払期日に支払いを実行することに注意を払わない会社が多いので後払いなどの与信を発生させないことが一番ですが、止むを得ず与信が発生する場合は、取引先の財務状況を調べ、自社財務体力から与信限度の設定を行います。更に日頃から取引先の財務状況をチェックするなど管理体制を構築し、支払期日に支払いが実行されなかった場合は取引先に対して即督促するなど遅れは容認しないという厳格な態度を常に示すことも重要です。

参考資料・情報

ジェトロ貿易・投資相談Q&A:
輸入者からの支払方法変更要求への対処:日本
輸出債権の保全策:日本
輸出取引における決済方式の変更を依頼された際の留意点:日本
国際ファクタリングの仕組み:日本

調査時点:2011年9月
最終更新:2017年8月

記事番号: J-090101

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