輸出債権の保全策:日本

質問

海外向けに部品を1年以上にわたり継続的に輸出しています。取引相手先の事情で決済条件は全額後払い送金(船積み後90日以内)としていますが、今後の問題発生に備え、輸出債権の保全策を教えてください。

回答

保全策を考える前に、以下の対応によるリスク軽減策を検討します。

I. リスク軽減策

  1. 売主側に有利になるように決済条件を変更します。
    1. 全額後払い送金は一切の支払いの確約がありません。銀行の支払い確約の得られる信用状(L/C)決済とします。 L/Cには一覧払い(at sight)とユーザンス付き(一定期間の支払い猶予)があります。売主側に有利とするためには、なるべく一覧払いとします。船積後90日のユーザンスを受ける場合であっても、90日のユーザンス付きL/C(at 90 days after B/L date)とします。
    2. 継続的輸出であるため、契約ごとのL/C開設ではなく、回転信用状(RevolvingL/C)を開設することにより、輸出者はより確実に代金を回収できます。輸入側にとってもその都度L/Cを開設する時間と費用節減につながるため、双方にとって検討に値する方法です。詳細は文末の参考資料・情報の項を参照ください。
    3. L/C開設が困難な場合は、書類引渡し条件を支払渡し(Documents against Payment:D/P)または引受渡し(Documents against Acceptance:D/A)とします。この際は、輸出手形保険の付保も検討します。
    4. 送金ベースであってもなるべく前金の割合、しかも契約時の前金を増やします。ただし、前受けの場合は、前受け金返還保証を要求される場合もあります。 スタンドバイ信用状(以下、SBLC)は、輸入者の信用リスクをSBLC発行銀行が輸出者(SBLCの受益者)に対して保証するという観点からは通常のL/Cと同様の効果を持ちます。通常のL/Cによる強制力がなくても船積み時期、数量、品質などの契約条項を輸出者が履行し、かつ船積みの頻度が高い場合には取引銀行と相談しながらSBLCの使用を検討ください。
  2. 合意内容の記録
    合意に至った内容は、お互いの責任者の署名をとり書面で記録に残します。債権回収のみならず、さまざまな問題が発生した場合の解決は契約書に則り行われます。売買契約書は必ず交わし、準拠法、紛争条項、仲裁条項を盛り込みます。準拠法はできる限り日本国の法律とします。少なくとも相手国の法律は避けた方が賢明です。また契約書のひな形は、国際商業会議所(ICC)作成のmodel formが参考になります。
  3. 日本貿易保険(NEXI)による貿易保険または民間の輸出取引信用保険の付保
    貿易保険の場合、バイヤーの登録(海外商社登録)と格付けが必要です。登録ログアウトがない場合は、信用調査書を提出して登録します。NEXIに信用調査を依頼することもできます。保険を引き受ける側の与信額または残額によっては付保できない場合もあります。
  4. 現地銀行発行のL/GあるいはStand-by Creditを受け取る
    上述のOpen Account(後払い送金の売掛金)に対する支払い保証が得られ、買主の代金不払いなどの契約違反を理由として発行銀行への支払い請求が可能になります。
  5. ファクタリングまたはフォーフェイティングの利用

    金額が比較的大きく、L/Cで期限付き手形の銀行買取りがある場合、銀行が引き受けるフォーフェイティング(Forfeiting)という輸出者への買い戻し請求権を放棄した金融取引があります。買取り銀行は手形債権のリスクに応じて手形代金を割り引きます。代金回収リスクのみならずカントリーリスクも銀行にヘッジできます。
    また、国際ファクタリング会社を使い債権をファクタリング会社に譲渡する方法もあります。この方法は上述のフォーフェイティングと異なり手形の銀行の買取りが条件とはなりません。L/Cの発行が困難な場合でも貿易保険をかけずに回収リスクを回避できます。

II. 所有権留保、担保・保証取得の検討

取引先との交渉を行っても、決済条件の変更が売主有利に変更できず、または保険付保ができない等、上記リスク軽減策が取れない場合は、所有権留保、担保・保証取得を検討します。

  1. 「所有権留保」の設定
    売買契約書で代金返済まで販売商品に対する「所有権留保」(Retention of Title)条件を売買契約書で代金返済までとして明記します。ただし、原材料・部品の場合には、製品に組み込まれた場合、裁判では認められない場合があります。
  2. 「譲渡担保」の設定
    所有権留保条件に加え、さらに取引先の工場、施設にある販売商品に集合的「譲渡担保」を設定します。これは信用状発行銀行が、輸入者に対して、貸し渡し(Trust Receipt)の形式を取り、銀行の所有権留保とするのが典型的な例です。
  3. 「債権譲渡」(Assignment of Proceed)の設定
    取引先より第三者に販売された商品代金の「債権譲渡」を受けることができるように当該取引先と契約書を締結します。ただし、経営が危うい会社相手では交渉難航が予想されます。
  4. 社長の個人保証(債務の連帯保証)を取る方法
    一般に個人の資産は不透明なため、担保価値は不明であり評価が困難なこともあります。これら債権保全策は対象国の準拠法に則り、関係者の了解も取りながら必要手続きを取る必要があるので、その国の法律に精通した弁護士を起用することが不可欠です。また、すべて法的には有効であり、論理的に可能ですが、実務的には非常に面倒な手続きとなるため、あくまで、上記Iのリスク軽減策を第一に検討することをお勧めします。

参考資料・情報

ジェトロ: 貿易・投資相談Q&A
国際ファクタリングの仕組み
フォーフェイティング
輸出代金の回収滞りの打開策

調査時点:2011年9月
最終更新:2021年3月

記事番号: J-090502

ご質問・お問い合わせ

記載内容に関するお問い合わせ

貿易投資相談Q&Aの記載内容に関するお問い合わせは、オンラインまたはお電話でご相談を受け付けています。こちらのページをご覧ください。