EPAの原産品判定基準と特恵関税:マレーシア向け輸出

質問

日本からマレーシアへ輸出する際の経済連携協定の原産品判定基準と関税について教えてください。

回答

日本からマレーシアに商品を輸出する場合、日・マレーシア経済連携協定(JMEPA)、日・ASEAN経済連携協定(AJCEP)、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)、および環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)に基づく特恵関税の適用を受けることができます。マレーシアへの輸出に際しては、有利な特恵関税を利用することができます。

I. 日・マレーシア経済連携協定(JMEPA)

日・マレーシア経済連携協定は2006年7月13日に発効しました。内容は、貿易とサービスの自由化を図るいわゆる自由貿易協定を軸に人の移動、投資促進、経済協力など相互の経済連携を強化することを目的としています。また両国のビジネス環境の整備に関する小委員会を始め物品、原産地、サービス、投資、貿易制度についての小委員会が開催され、産業界から評価を受けています。

  1. マレーシアの輸入関税の引き下げ・撤廃

    同協定の原産地規則を満たした締約国の原産品については、譲許表に定められた方法・スケジュールに従い、関税の引き下げ・撤廃が行われてきました。日本の譲許表は協定付属書1(第2章第19条に関する表)に収録され、マレーシア側の譲許表は、英語版の協定附属書 1のPart3に収録されています。個別品目ごとの具体的な関税引き下げ・撤廃方法は、マレーシア側譲許表の区分欄(Column 4)においてカテゴリーごとに定められています。

    (例)A:即時撤廃、Bn:協定の発効日から「n+1回」の毎年均等な関税引下げを意味します。詳しくは、協定附属書1に記載されている一般的注釈(Part 1)およびマレーシアの表についての注釈(Part 3 Section 1)をご参照下さい。マレーシアの関税の引き下げは毎年1月1日に行われます。

  2. 原産品の判定基準
    1. 原産地規則
      同協定では第3章で原産地規則を定めています。これに従い締約国の原産品の判定を行います。原産品とみなされる産品は以下のとおりです。
      1. 完全生産品:当該締約国の領域において完全に得られ、または生産される産品。
      2. 当該締約国の原産材料のみから当該締約国の領域において完全に生産される産品。
      3. 非原産材料を使用して当該締約国で完全に生産される産品であって、下記に定める実質的変更基準のいずれかを満たすもの。協定附属書2において品目別規則の詳細が定められています。
        • 付加価値基準:加工の結果、産品に付加された価値が特定の比率(例:40%)以上となる場合に、原産品となります(乗用車は付加価値60%)。
        • 関税分類変更基準:非原産材料部品の関税分類番号が完成品の関税分類番号に変化すれば、完成品の製造国の原産品となります。何桁レベルの変更が求められるかは協定付属書2の品目別規則を確認する必要があります。
        • 加工工程基準:産品ごとに定められた特定の生産・加工が行われることにより原産品となります。繊維製品などが該当します。
    2. 救済規定
      上記の基準には次の救済規定が設けられています。
      1. 関税番号変更基準の適用に際して、僅少(産品により定められた価額あるいは量以下)の非原産材料の使用が認められています(デミニマス規定)。
      2. 締約相手国の原産材料は、自国の原産材料とすることができるとする累積に係る規定があります(自国関与品規定)。
  3. 積送基準
    日本からマレーシアに輸出される産品が、同協定に基づく特恵関税の適用を受けるためには、原則として直接輸送されることが条件です。途中で第三国を経由する場合には、保税区において、荷の積替え・一時蔵置などの場合のみ認められます。ただし、「通し船荷証券の写し」もしくは「認められた作業以外は行われていない旨の証明書(非加工証明書)」が必要です。
  4. 仲介貿易で使用する第三国インボイス
    仲介貿易の場合、日本・マレーシア以外の第三国でインボイスを切り替えることになりますが、同協定では、このような商流を認めています。第三国で発行されるインボイス番号が分かっている場合と、そうでない場合は特定原産地証明書への記載内容が異なります。
  5. 特定原産地証明書の取得
    同協定に基づく特恵関税の適用を受けるためには、同協定に基づく原産地証明書を取得する必要があります。日本では経済産業省の指定発給機関である日本商工会議所のオンライン発給システムにて発給手続きを行います。企業登録の後、申請者が原産性を確認し、証明証拠書類の保管用書類を整えた後、当該産品の原産地判定依頼をし、その後、特定原産地証明書の発給申請を行い、証明書を取得します。この特定原産地証明書をマレーシアの税関に提出することにより特恵関税の適用が受けられます。なお、原産性を証明するための証拠書類などは5年間保管する必要があります。

II. 日ASEAN経済連携協定(AJCEP)

日ASEAN経済連携協定は2008年12月1日に発効しました。マレーシアは2009年2月1日に正式に同協定に基づく「締約国」となったことにより、JMEPAに加え、AJCEPも利用可能となりました。

  1. マレーシアの輸入関税引下げ・撤廃

    同協定におけるマレーシア側の譲許表は、英語版協定附属書1のPart 6に定められています。Section 1でマレーシアの表に関する注釈、Section 2でマレーシアの関税引き下げ・撤廃スケジュールが品目ごとに記載されています。

    (例)A:即時撤廃、Bn:n+1回に分割して段階的に関税撤廃等。Bn*:マレーシア独自のもの。発効時に個別に関税率を設定しその後n+1年目で関税撤廃、R:第5欄(Column5)の注釈に従って引き下げられます。

  2. AJCEPにおける原産品の判定基準
    1. 品目別規則と一般規則
      AJCEPには品目別規則に加え、一般規則があります。原産地規則の規定がない品目の原産地規則は、一般規則(域内原産割合40%以上、または関税番号4桁変更基準)が適用されます。
      JMEPAではすべての品目が「品目別規則」に記載されていますが、上述のように、AJCEPでは例外的な取り扱いをする品目についてのみ「品目別規則」に記載し、それ以外は「一般規則」の対象となります。輸出産品のHSコードが「品目別規則」に存在するか確認し、存在している場合、その基準を満足していることが原産品と認められる条件となります。まず協定附属書2に記載されている品目別規則を調べ、そこに記載されていれば、品目別規則が適用されますが、記載されていなければ、一般規則(域内原産割合40%以上、または、関税番号4桁変更基準)が適用されます。
    2. 累積条項
      同協定では、ASEANの締約国における産品の累積による原産地認定が規定されています。同協定第29条を中心に関連する第26、27条などをご確認いただくことを推奨します。また、ジェトロ「EPA活用マニュアル」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどもご参照ください。
    3. 特定原産地証明書(Form AJ)
      AJCEPでは、特定原産地証明書はFORM AJを使用します。AJCEPにおける原産地規則はすべての締約国で共通ですが、関税の譲許率は国によって異なります。また、AJCEPにおけるマレーシアの譲許表は、JMEPAの譲許表とも異なりますので注意が必要です。
  3. 三国間貿易での活用
    1. AJCEPでも仲介貿易(第三国インボイス)での活用が可能です。2014年よりマレーシア発行の特定原産地証明がRVC以外であればFOB金額は不表示となりました。
    2. マレーシアに輸入保管し、更に他のASEAN諸国に再輸入するBack to Back特定原産地証明書も一年以内を条件に活用可能です。

III. 地域的な包括的経済連携協定(RCEP)

地域的な包括的経済連携協定(RCEP)は2022年1月1日に発効しました。また、マレーシアでは、同年1月17日に批准手続きを終え、同年3月18日に発効しました。同協定は、署名国15カ国で、世界のGDP、貿易総額および人口の約3割を占める広域な経済連携協定です。同協定により、地域の貿易・投資の促進およびサプライチェーンの効率化に向けて市場アクセスが改善され、発展段階や制度の異なる多様な国々の間で知的財産、電子商取引などの幅広い分野のルールの構築がなされています。

  1. マレーシアの輸入関税引下げ・撤廃
    同協定におけるマレーシアの譲許表は、協定附属書1に定められており、マレーシアの関税引き下げ・撤廃スケジュールが品目ごとに記載されています。
  2. RCEPにおける原産品の判定基準
    同協定の第3章には、原産地規則(第A節原産地規則、第B節運用上の証明手続)が規定されています。同協定では、「締約国原産」が採用されており、産品の原産性が輸出締約国ごとに認定されます。
    1. 原産地規則
      同協定において、原産品とみなされる産品は以下のとおりです
      1. 一の締約国において完全に得られ、または生産される産品
      2. 一の締約国において一または二以上の締約国からの原産材料のみから生産される産品
      3. 一の締約国において非原産材料を使用して生産される産品であって協定附属書3A(品目別規則)に定める関連する要件を満たすもの
    2. 累積条項
      同協定では、累積条項が定められており、他の締約国の原産材料を自国の原産材料とみなすことができます。
    3. 救済規定
      同協定は、僅少の非原産材料(デミニマス)の規定が定められています。同規定により、品目別規則に定める関税分類変更基準を満たさない非原産材料の価額が産品のFOB価額の10%以下である場合には、原産品とみなされます。また、HSコードの第50類 から63類までの各類に分類される産品(繊維、衣 類、履物など)についても、非原産材料の総重量がその産品の総重量の10%以下の場合には、原産品とみなされます。
  3. 積送基準
    原則として、原産品は輸出締約国から輸入締約国へ直接輸送されることが必要です。
    輸出締約国および輸入締約国以外の一または二以上の締約国または非締約国を経由して輸送される場合には、原産品としての資格を維持するために、次の条件を満たすことが必要です。
    1. 経由する中間の締約国または非締約国において、原産品に対してさらなる加工が行われていないこと
    2. 原産品が経由する中間の締約国または非締約国において、税関当局の監視の下に置かれていること

    これらの要件を満たしていることを証明するためには、(a)経由国の税関の書類または(b)輸入締約国の税関が要求するその他の適当な書類のいずれかを輸入締約国の税関へ提出する必要があります。

  4. 特定原産地証明書の取得
    同協定に基づく特恵関税の適用を受けるためには、同協定に基づく原産地証明書を取得する必要があります。同協定についても日本商工会議所のオンライン発給システムにて発給手続きを行います。輸出産品のHSコード、EPA税率の有無および税率、輸出産品にかかる規則、輸出産品にかかる原産性を確認した上で、企業登録を行います。登録後、当該産品の原産地判定依頼をし、その後、特定原産地証明書の発給申請を行い、証明書を取得します。この特定原産地証明書をマレーシアの税関に提出することにより特恵関税の適用が受けられます。

IV. 地域的な包括的経済連携協定(RCEP)

環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)は2018年12月30日に発効しました。また、マレーシアでは、2022年11月29日に発効しました。CPTPPは30章からなる通商ルールを規定した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)を基礎としており、米国が離脱したことで一部の項目として発効したものがCPTPPです。

  1. マレーシアの輸入関税引下げ・撤廃
    同協定における各締約国の譲許表は、TPPの協定附属書 2-Dに定められており、マレーシアの関税引き下げ・撤廃スケジュールが品目ごとに記載されています。
  2. TPP/CPTPPにおける原産品の判定基準
    TPPの第3章には、原産地規則および原産地手続が規定されています。
    1. 原産地規則
      同協定において、原産品とみなされる産品は以下のとおりです。
      1. 一または二以上の締約国の領域において完全に得られ、または生産される産品
      2. 一または二以上の締約国の領域において原産材料のみから完全に生産される産品
      3. 一または二以上の締約国の領域において非原産材料を使用して完全に生産される産品であって、協定附属書3-D(品目別原産地規則)に定める全ての関連する要件を満たすもの
    2. 累積条項
      同協定では、累積条項が定められており、CPTPPの締約国を一つの原産地域とみなし、自国以外の他の域内国の原産品も原産材料として取り扱うことができるだけではなく、締約国において非原産材料に対して付加された価値や行われた加工工程の足し上げを認め、これらを最終製品の原産性の判定時に考慮することができます。
    3. 救済規定
      同協定は、僅少の非原産材料(デミニマス)の規定が定められています。同規定により、品目別原産地規則に定める関税分類変更基準を満たさない非原産材料の価額の合計が産品のFOB価額の10%以下(繊維・繊維製品の場合は重量の10%以下など)である場合には、原産品とみなされます。
  3. 積送基準
    原則として、原産品は非締約国の領域を通過することなく輸入締約国へ輸送されることが必要です。 原産品が一または二以上の非締約国の領域を経由して輸送される場合には、原産品としての資格を維持するために、次の条件を満たすことが必要です。
    1. 締約国の領域外において当該原産品について、いかなる作業も行われていないこと(積卸し、ばら積み貨物からの分離、蔵置、輸入締約国の要求に基づいて行われるラベルまたは証票による表示および当該原産品を良好な状態に保存するためまたは輸入締約国の領域へ当該原産品を輸送するために必要な他の作業を除く)
    2. 当該原産品が非締約国の領域にある間、当該非締約国の税関当局の監視の下に置かれていること
  4. 特定原産地証明書の作成
    同協定については、輸出者(生産者)または輸出者が自ら原産地証明書を作成する「自己申告制度」が採用されており、同協定に基づく特恵関税の適用を受けるためには、原産地証明書を作成し、産品が原産地規則を満たす原産品であることを証明する必要があります。原産地証明書は特定のフォームは指定されていませんが、協定附属書3-Bが規定する必要的記載事項に沿って、原産地証明書を作成する必要があります。 原産地証明書の必要的記載事項は以下のとおりです。
    1. 証明者が輸出者、生産者または輸入者のいずれであるか
    2. 証明者の氏名または名称、住所(国名を含む)、電話番号および電子メールアドレス
    3. 輸出者、生産者および輸入者の氏名または名称、住所(国名を含む)、電話番号および電子メールアドレス(証明者と異なる場合)
    4. 産品の品名およびHSコードの6桁までの番号
    5. 産品に原産品であるための資格を与える原産地規則
    6. 12か月を超えない特定の期間において同一の産品を2回以上輸送する場合には当該特定の期間
    7. 証明者の署名及び日付

V. その他の注意事項など

マレーシアでの輸入申告時に、JMEPA、AJCEP、RCEPまたはCPTPPのいずれかの税率が適用されるかは、原則として輸入者がどの協定に基づく特定原産地証明書を添付して輸入国の税関に申告するかによって決定します。 なお、HSコードは原則として輸入国の税関が決定します。原産地規則や関税率などはHSコードによって違ってきますので、特定原産地証明書などEPAに関する書類の作成前に、必ずマレーシア税関に当該産品のHSコードを確認されることを推奨いたします。詳細については文末の貿易投資相談Q&A「事前教示制度:マレーシア」 などをご参照ください。

関係機関

外務省:
日・マレーシア経済連携協定(JMEPA): 日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP): 日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
地域的な包括的経済連携協定(RCEP): 日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP): 日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
経済産業省:
EPA /FTA/投資協定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
税関:
EPA/FTAサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
日本商工会議所:
EPAに基づく特定原産地証明書の発給手続きについて外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
マレーシア投資貿易産業省(Ministry of Investment, Trade and Industry):
マレーシア自由貿易協定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
マレーシア税関:
HSコード検索外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

参考資料・情報

ジェトロ:
日・マレーシア経済連携協定EPA活用マニュアルPDFファイル(1.87MB)
日・アセアン経済連携協定EPA活用マニュアルPDFファイル(4.98MB)
RCEP協定解説書:RCEP協定の特恵関税活用についてPDFファイル(12MB)
TPP11解説書:TPP11の特恵関税の活用についてPDFファイル(14.3MB)
貿易投資相談Q&A
事前教示制度:マレーシア」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

調査時点:2015年9月
最終更新:2024年3月

※本記事は、日本貿易振興機構(ジェトロ)クアラルンプール事務所が中小企業海外展開現地支援プラットフォーム事業による調査として、TNY Consulting (Malaysia) Sdn Bhdに委託し、2024年3月に入手した情報に基づき作成した物です。
掲載した情報は作成委託先の判断によるものですが、一般的な情報・解釈がこのとおりであることを保証するものではありません。また、本記事はあくまでも参考情報の提供を目的としたものであって、法的助言を構成するものではなく、法的助言として依拠すべきものでもありません。本記事で提供する情報に基づいて行為をされる場合には、必ず個別の事案に沿った具体的な法的助言を別途お求めください。 ジェトロおよびTNY Consulting (Malaysia) Sdn Bhdは、本記事の記載内容に関して生じた直接的、間接的、派生的、特別の、付随的、あるいは懲罰的損害および利益の喪失については、それが契約、不法行為、無過失責任、あるいはその他の原因に基づき生じたか否かにかかわらず、一切の責任を負いません。これは、たとえジェトロおよびTNY Consulting (Malaysia) Sdn Bhdがかかる損害の可能性を知らされていても同様とします。

記事番号: E-080306

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