EPAの原産品判定基準と特恵関税:マレーシア向け輸出

質問

日本からマレーシアへ輸出する際の経済連携協定の原産品判定基準と関税について教えてください。

回答

日本からマレーシアに商品を輸出する場合、日・マレーシア経済連携協定(JMEPA)、日・ASEAN経済連携協定(AJCEP)、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)、および環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)に基づく特恵関税の適用を受けることができます。これらの協定は優先関係のない併存する国際協定です。輸出者および輸入者は、品目別原産地規則、関税率等を比較してどちらか有利な方を選択し、マレーシアでの輸入通関の際に特定原産地証明書を提出します。

Ⅰ. 原産地基準

EPAの特恵関税率の適用を受けるにはEPAの定める原産品であることを証明する「特定原産地証明書」の提出が必要です。
日・マレーシアで締約しているEPAの原産品であることの原産地基準は下記に分類されます。

    1. 完全生産品(Wholly Obtained: WO)
      協定締約国内で完全に得られ、または生産される産品
    2. 原産材料のみから生産される産品(Produced Entirely: PE)
      協定締約国内の原材料のみから当該締約国内で完全に生産される産品
    3. 品目別規則(Product Specific Rules: PS)
      非原産材料を用いて当該締約国において完全に生産される産品であって、EPA協定文の附属書に定める品目別規則を満たす産品。*注1、*注2
      1. 関税分類変更基準 (Change in Tariff Classification: CTCルール)
        輸入原材料の関税分類番号(HSコード)が、生産された完成品の関税分類番号と異なれば、完成品の製造国の原産品とします。品目によってどの程度(何ケタ)の番号の変更が求められるかは、附属書の品目別規則を確認してください。
      2. 付加価値基準 (Value Added: VAルール)
        加工の結果、産品に付加された価値(原産資格割合)が特定の比率(例:40%以上)となる場合に原産品とします。
      3. 加工工程基準 (Specific Process Rule: SPルール)
        各製品について、重要と認められた製造作業または技術的な加工作業を例示し、域内で当該加工を施されたことをもって原産品とします(繊維製品・化学品が該当)。例えば織物の場合、製織と染色が必要とされます。また、化学品は化学変化、精製、異性体分離、生物工学的工程のいずれかの工程を経る必要があります。原産品としての必要な加工工程はHSコード毎に細かく規定されていますので、確認ください。

*注1 AJCEPでは例外的な取り扱いをする品目についてのみ「品目別規則」を記載しています。品目別規則に原産地規則の規定がない品目の原産地規則は、一般規則が適用されます。輸出産品のHSコードが「品目別規則」に存在するかどうかを確認し、存在している場合はその基準を満足していることが原産品認定の条件となります。HSコードが「品目別規則」に存在しない場合は、「一般規則」が適用され、関税番号(HSコード)4ケタの変更(CTH)、または域内原産割合の40%以上を満たしていれば原産品となります。
*注2 CPTPPでは品目別規則の付録としての「特定の自動車及び自動車関連部品に品目別原産地規則に係る規定」、及び「繊維及び繊維製品の品目別原産地規則」が定められています。

Ⅱ. EPAの特恵関税率、原産地基準(品目別規則)、および原産地証明制度、その他

マレーシアに輸出する産品にEPA特恵関税率が設定されているものか協定文の附属書の「関税の撤廃に関する約束の表(譲許表)」、及び産品に係る原産地基準を附属書の「品目別規則」を基に調べます。更に協定文には特恵関税率適用上の原産地手続きに関する記載もあります。

  1. EPAの原産地証明制度

    日本が締結したEPAの多くは、指定発給機関 である日本商工会議所が、事業者からの申請に基づき原産地証明書の発給を行う「第三者証明制度」を採用しており、JMEPA、AJCEP、RCEPでも第三者証明制度が適用されています。原産性を判定するのは 日本商工会議所であり、事業者はそのために必要な情報を日本商工会議所に提出します。 RCEP協定ではこれに加え、経済産業大臣による認定を受けた輸出者自らが原産地申告を作成する「認定輸出者自己証明制度」の利用も可能です。
    これに対し、CPTPPでは輸出者または生産者、輸入者自らが原産地証明書を作成する「自己証明制度」が採用されています。原産地証明書は生産者、輸出者、または輸入者のいずれでも作成可能です。輸入者は有効な原産地証明書を所持した上で、輸入国の法令又は手続きにおいて定められた要件に従って、CPTPP特恵関税率に基づく原産地申告を行います。

  2. 日・マレーシア経済連携協定(JMEPA)
  3. 日・ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)
  4. 地域的な包括的経済連携協定(RCEP)
  5. 環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)

    【原産地証明書の作成】

    CPTPPにおいては輸出者(生産者)または輸出者が自ら原産地証明書を作成する「自己申告制度」が採用されており、同協定に基づく特恵関税の適用を受けるためには、原産地証明書を作成し、産品が原産地規則を満たす原産品であることを証明する必要があります。原産地証明書は特定のフォームは指定されていませんが、協定附属書3-Bが規定する必要的記載事項に沿って、原産地証明書を作成する必要があります。 原産地証明書の必要的記載事項は以下のとおりです。

    1. 証明者が輸出者、生産者または輸入者のいずれであるか
    2. 証明者の氏名または名称、住所(国名を含む)、電話番号および電子メールアドレス
    3. 輸出者、生産者および輸入者の氏名または名称、住所(国名を含む)、電話番号および電子メールアドレス(証明者と異なる場合)
    4. 産品の品名およびHSコードの6桁までの番号
    5. 産品に原産品であるための資格を与える原産地規則
    6. 12か月を超えない特定の期間において同一の産品を2回以上輸送する場合には当該特定の期間
    7. 証明者の署名及び日付

    CPTPP原産地証明書 必要的記載事項(附属書3-B)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(577KB)

  6. 積送基準

    EPAの定める特恵関税の適用を受けるためには、産品は原則として直送されなければなりません。第三国を経由した輸送は、荷の積み替え、積み替えの際に荷を良好な状態に保つために保存する作業などの場合に限り認められます。この場合、船会社に「通しB/L」を準備してもらうか、もしくは当該第三国の税関または権限ある官公署が発行する「非加工証明書」を提出する必要があります。

  7. 仲介貿易

    商品は日本から直接マレーシアに輸送されますが、第三国の企業が一度買い取り、マレーシアの企業に販売することがあります。本協定ではこうした仲介貿易の商流を認めています。この場合、特定原産地証明書の所定欄に第三国で発行されるインボイス番号および日付、当該インボイスの発行者の名称および住所を明記します。特定原産地証明書の発給時に第三国で発行されるインボイス番号が不明の時は、日本の輸出者が発行するインボイス番号および日付を記載します。

  8. RCEPの連続する原産地証明

    中間締約国において、連続する原産地証明を使用して再輸出される貨物についてさらなる加工が行われないこと。ただし、再こん包または「物流に係る活動」は認められます。物流に係る活動とは、例えば、積卸し、蔵置、貨物の分割、輸入締約国の法令、手続、行政上の決定または政策が要求する単なるラベルなどによる表示、産品を良好な状態に保存するためまたは輸入締約国へ産品を輸送するために必要な他の作業が例示されています。

  9. その他の注意事項など

    マレーシアでの輸入申告時に、JMEPA、AJCEP、RCEPまたはCPTPPのいずれかの税率が適用されるかは、原則として輸入者がどの協定に基づく特定原産地証明書を添付して輸入国の税関に申告するかによって決定します。 なお、HSコードは原則として輸入国の税関が決定します。原産地規則や関税率などはHSコードによって違ってきますので、特定原産地証明書などEPAに関する書類の作成前に、必ずマレーシア税関に当該産品のHSコードを確認されることを推奨いたします。詳細については文末の貿易投資相談Q&A「事前教示制度:マレーシア」 などをご参照ください。

Ⅲ. 原産地証明書発給手続き(第三者証明制度)

  1. 発給機関およびフォーム
    日本商工会議所: 特定原産地証明書発給申請マニュアル 外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
  2. 発給手続き
    1. 輸出者または製造者が、日本商工会議所に特定原産地証明書判定依頼および発給申請のための企業登録をします。
    2. オンライン発給システムにログインするためのID、パスワードが届きます。
    3. オンラインシステム上で、輸出する産品の原産性の判定依頼をします。日本商工会議所の提示要求に応じ、事前に作成した対象産品に対する原産地規則を満足していることを証明する確認書に証拠書類を添付したものを提示します。
    4. 判定が下りたことを確認し、システム上で特定原産地証明書発給申請をします。
      JMEPA、AJCEP、及びRCEPの特定原産地証明書は電子媒体PDFファイルによる交付となります。
    5. 特定原産地証明書の発給に係る手数料は、1通につき基本料2,000円と品目数による加算額(20品目まで1品目500円、21品目からは1品目50円)の手数料を支払います。窓口発給の場合、郵送による受け取りも可能です。
    6. 仕入書、納品書、インボイス等原産地規則を満足していることを証明する証拠書類を5年間保管します。
  3. 有効期間
    特定原産地証明書の有効期限は発給から1年です。

関係機関

外務省:
日・マレーシア経済連携協定(JMEPA): 日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP): 日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
地域的な包括的経済連携協定(RCEP): 日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP): 日本語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます英語外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
経済産業省:
EPA /FTA/投資協定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
税関:
EPA/FTAサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
「自己申告制度」利用の手引きーCPTPPーPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.1MB)
日本商工会議所:
EPAに基づく特定原産地証明書の発給手続きについて外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
マレーシア投資貿易産業省(Ministry of Investment, Trade and Industry):
マレーシア自由貿易協定外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
マレーシア税関:
HSコード検索外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

参考資料・情報

ジェトロ:
日・マレーシア経済連携協定
日・アセアン包括的経済連携協定
日・アセアン包括的経済連携協定EPA活用マニュアルPDFファイル(4.98MB)
地域的な包括的経済連携協定PDFファイル(12MB)
環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定
世界各国の関税率(WorldTariff)
貿易投資相談Q&A
事前教示制度:マレーシア」

調査時点:2015年9月
最終更新:2025年9月

記事番号: E-080306

ご質問・お問い合わせ

記載内容に関するお問い合わせ

貿易投資相談Q&Aの記載内容に関するお問い合わせは、オンラインまたはお電話でご相談を受け付けています。こちらのページをご覧ください。