輸出取引における決済方式の変更を依頼された際の留意点:日本

海外の取引先から、輸出の決済条件をL/C決済からD/A決済へ変更を要求されました。決済方法を変更する際の対応について教えてください。

L/C決済からD/A決済への変更を依頼された場合、輸出者にとっては輸出代金が回収できないリスクが高まります。輸入者がなぜ決済の変更を要請したのか見極め、適切に対応をしてください。

I. 代金後払いの決済方法と決済リスク

輸出取引には代金前払いと後払いがあります。輸出者にとっては前払い(前受け)が一番リスクの少ない方法である一方、後払いの場合は輸出者にとって一定のリスクが発生します。後払いは以下の3種類に分けられます。

  1. L/C決済
    輸出者が商業信用状(L/C)の要求する船積書類を呈示することを条件に、L/C発行銀行が予め代金の支払いを確約する決済方法です。決済リスクは輸入者からより信用力のあるL/C発行銀行に移ることになり、輸出者にとって安心な決済方法です。
  2. D/P・D/A決済
    輸出者は船荷証券・インボイスといった船積書類に加え為替手形を振り出して、取引銀行経由輸入者の取引銀行に送付します。輸入者は、D/P(Documents against Payment)の場合は支払いと引き換えに、D/A(Documents against Acceptance)の場合は手形の引受(支払確約)と引き換えに、船積書類を受領し、受領した船荷証券により商品を船会社から受け取ることができます。輸出者にとっては、船荷証券と引き換えに輸入者が支払いあるいは支払確約をするため、TT送金に比べれば安心ですが、L/C決済のような銀行の支払確約がないため、輸入者自身の決済リスクにさらされることになります。
  3. TT決済

    TT決済(Telegraphic Transfer Remittance: 電信送金)上述のような仕組がなく、輸入者が合意された期日に銀行間のTT送金の方法で代金を支払う方式です。

輸出者にとってはL/C決済、D/P・D/A決済、TT決済の順にリスクが高くなります。また、それぞれの決済方法のなかでも、支払時期が遅くなるほどリスクが高くなり、一覧払いL/CよりユーザンスL/Cの方が、D/PよりD/Aの方がリスクは高くなります。

II. L/C決済からD/A決済への変更を依頼された場合の対応

  1. 依頼の理由・背景の確認
    輸入者が決済方法を変更する理由や背景を確認する必要があります。業績悪化等により銀行が与信枠を減らしL/Cを発行できなくなった、資金繰りが厳しくなったので一覧払い L/CからユーザンスL/Cに変更すべく銀行に検討を依頼したが謝絶された、といった輸入者の信用悪化が予想される場合は注意が必要です。一方、他の輸出者もD/A決済に応諾している場合や、単純にL/C発行料の削減を目的とした場合もあるので慎重な対応が求められます。いずれの場合も、信用調査機関などを利用して、輸入者の信用調査を行うことが有効な手段となります。
  2. 輸入者との交渉
    1. 中間の決済方法を交渉する
      L/CからD/Aへの変更をそのまま応諾するのではなく、少しでもリスクを減らす決済方法で合意できないか交渉を行います。例えば、L/C決済のままでユーザンスを長くすることで合意できないか(例:船積後30日払いから船積後60日払いに変更)、L/Cなしへの変更は受け入れるがD/AでなくD/Pで合意できないか等を交渉してください。
    2. スタンドバイ(Standby)L/Cを要求する
      D/A決済を応諾する条件として、「契約履行保証」を目的とするスタンドバイL/Cを要求します。輸入者が支払期日に支払わない場合、輸出者は輸入者の契約不履行を証したレターを作成し、取引銀行経由でL/C発行銀行に呈示して支払いを受けることができます。なお、スタンドバイL/Cは、国際商業会議所(International Chamber of Commerce: ICC)発行の荷為替信用状に関する統一規則および慣習(ICC Uniform Customs and Practice for Documentary Credits 2007 Revision: UCP600)や国際スタンバイ規則(International Standby Practice: ISP98)に準拠します。
  3. その他のリスク軽減方法
    1. 貿易保険の利用
      貿易保険の利用は、填補額の上限や保険料の問題と取引の採算性を併せて検討する必要があります。具体的な条件や料率については日本貿易保険(NEXI)にご確認ください。 なお、貿易保険を利用するには契約相手先、支払人等をNEXIの「海外商社名簿」に登録します。海外商社名簿への登録と同時に、信用危険を引き受けるための与信審査も行われ、審査結果は「海外商社格付」としてNEXIから申請者に連絡されます。また、民間損害保険会社の「輸出取引用・取引信用保険」もあるので、各保険会社へお問い合わせください。
    2. 銀行等のサービス利用
      大手邦銀や在日外資系銀行では、国際ファクタリング(銀行やファクタリング会社が海外との取引に伴うリスクを輸出者に保証する)、フォーフェイテイング(Forfaiting)(輸出者が振り出す輸出手形を、輸出者が買戻義務を負わないで銀行が買取をする)など、輸出者の売掛債権回収のリスクを軽減する方法もあります。

関係機関

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国際商業会議所日本委員会外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

参考資料・情報

ICC刊:「Commentary on UCP600」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
ICC出版物の販売サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます

ジェトロ:
貿易・投資相談Q&A
輸出債権の保全策:日本
国際ファクタリングの仕組み:日本
フォーフェイティング:日本

調査時点:2017/01

記事番号: A-A10833

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