2013年の対内投資は件数・金額とも減少するも高水準を維持−政治的混乱による認可の遅れが懸念−

(タイ)

バンコク事務所・アジア大洋州課

2014年02月26日

タイ投資委員会(BOI)によると、2013年の外国直接投資(FDI)は件数、金額とも前年に比べ減少したものの高水準を維持した。日本が投資額の約6割を占め、最大の投資国となっている。業種別では自動車を中心とした金属製品・機械・輸送機械が全体の4割を占め、投資を牽引した。政治的混乱に伴い、BOIでは2億バーツ以上の投資案件を認可できない状況になっており、混乱の長期化による企業の投資計画などへの影響が懸念される。

<6割を占め突出する日本からの投資>
BOIによると2013年の外国直接投資(認可ベース)は件数で1,224件(前年比9.8%減)、金額で4,789億バーツ(12.8%減、約1兆4,850億円、1バーツ=約3.1円)と、前年に比べそれぞれ約1割減少した。ただし、2012年に前年から金額ベースで倍増、件数ベースでも5割増加したことを考えると、依然としてタイ向け投資は高水準を維持しているといえる(図参照)。

なお、BOIでは2億バーツ以上の投資案件を認可する委員会の委員の任期が2013年10月末で切れ、その後、インラック政権が反政府デモへの対応から下院解散に踏み切り、選挙管理内閣となったことから、新たな委員を任命できない状況が続いている。その結果、BOIでは2億バーツ以上の投資案件の認可ができない状況となっており、投資への影響が懸念されている。

対内直接投資(認可ベース)の推移

国・地域別でみると、日本からの投資が686件(9.9%減)、2,905億バーツ(16.6%減)で前年から減少したものの、件数、金額ともに全体の約6割を占め、突出したかたちで首位を維持した(表1参照)。100億バーツを超える大型投資が日産のピックアップトラック製造(150億バーツ)、ニコンのデジタルカメラや光学部品など製造(123億バーツ)、マツダのトランスミッション製造(113億バーツ)と3件あった。日本からの投資がやや減少した背景には、(1)洪水後の復興需要も加わり過去最高の認可額・件数を記録した前年からの反動、(2)人件費の高騰や人手不足の顕在化、(3)円安傾向による投資の延期判断、などの要因が考えられる。また、特に2013年11月以降は前述した政治的混乱に伴う一定規模以上の投資案件の認可凍結も影響しているとみられる。

日本から大きく引き離されるかたちで、香港(51件、386億バーツ)、オランダ(25件、331億バーツ)、マレーシア(33件、214億バーツ)、シンガポール(84件、200億バーツ)が続いた。香港は風力発電所事業、ハードディスクドライブ(HDD)部品製造など30億バーツを超える案件が4件あり、投資額を押し上げた。オランダはアポロタイヤのラジアルタイヤ製造(147億バーツ)、マレーシアもエアアジアの航空サービス事業(144億バーツ)の大型案件により上位を占めた(表1参照)。

表1主要国・地域別対内直接投資(認可ベース)

<自動車関連が投資を牽引>
業種別にみると、BOIの投資奨励分類による金属製品・機械・輸送機械(4類)が、自動車および同部品を中心に410件、2,031億バーツとなり、件数、金額とも首位を占めた。金額ベースでは全体の4割以上を占め、多くの業種が前年比で減少を示す中で前年比6.0%増と拡大した(表2参照)。続く電気・電子機器(5類)は前年比31.6%減の836億バーツ(241件、7.7%減)と大きく落ち込んだ。タイはHDD、コンピュータ部品の世界向け供給拠点となっているが、「タブレット端末への移行などによる世界的なパソコンの販売低迷の影響を受けている」(日系家電メーカー関係者)という。

表2業種別対内直接投資(認可ベース)

2015年1月から適用される見込みの新投資奨励政策では、バンコクから離れるほど法人税免税などの優遇措置を手厚くするゾーン制を廃止し、特定の産業クラスター(集積)に対しての奨励を行う方針が示されている(2013年1月23日記事6月17日記事参照)。そのため、投資奨励対象から外れる労働集約型産業については駆け込み投資が増加するとの見方もあったが、対象となる軽工業品(3類)は前年比で件数、金額とも減少した。この背景には、「最低賃金の引き上げによる人件費の高騰」「1%を切る低失業率にみられる労働力不足」などの要因があるとみられる。2013年はむしろ、タイプラスワンとして労働集約型産業が近隣諸国へ生産機能を一部移管したり、機械化などで生産を効率化させたりする動きがみられた。

<懸念される投資計画への影響>
タイでは2月2日に総選挙が実施されたものの、反政府デモの妨害で立候補の受け付けができなかった選挙区があるほか、選挙当日も一部の選挙区で投票ができず再選挙が必要となるなど、政治的混乱は長期化する見通し。新政権が発足し、BOIが投資案件の認可を再開できるまでには時間を要するとみられ、企業によっては生産スケジュールなど投資計画にも影響が及ぶことが懸念される。

なお、BOIによる投資奨励業種は製造業が中心で、多くのサービス産業は対象外となっている。このため、BOIの投資認可統計にもサービス産業による投資はほとんど反映されていない点には留意は必要だ。タイは生産拠点としての産業集積の厚みはもちろんのこと、所得水準の向上から消費市場としての魅力が増している。近年は進出企業をサポートするような業種や、拡大する国内市場を目指して飲食などのサービス産業の進出も活発化している。

在タイ日系投資会社の担当者は「かつては製造業中心の相談が多かったが、ここ数年は外食系を中心にサービス業からフランチャイズなどの問い合わせが多い」と話す。外食系以外にも、2013年には例えば、「無印良品」を中心に専門店事業を運営する良品計画(資本金2億バーツ)の進出や、セキュリティー事業の綜合警備保障によるアジア統括子会社の設立(資本金800万バーツ)などがみられる。

(若松寛、大久保文博)

(タイ)

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