知的財産に関する情報第21回 韓国IPGセミナー(特許庁委託事業)開催レポート

第21回韓国IPGセミナー「日本特許庁の『デザイン経営』宣言と韓国政府のデザイン振興政策」をソウルにて開催しました

日本特許庁は2018年5月、デザインを活用した経営手法がブランドとイノベーションを通じて、企業の産業競争力の向上に寄与するという「デザイン経営」宣言を行い、日本企業の「デザイン経営」を後押しすることを発表しました。今後、ユーザー目線で行政サービスを刷新していくとともに、意匠制度の改正を推進していく予定です。

また、韓国では産業通商資源部傘下の韓国デザイン振興院が、韓国のデザイン振興政策を担っており、中小企業に対してデザイン活用事例やデザインのトレンドを総合的に提供するプラットフォーム作りや、デザインに関する紛争調停委員会の運営など、様々な取り組みを行っています。

そこで、韓国IPGでは、2018年11月8日にソウル市内のホテルにて、第21回韓国IPGセミナー「日本特許庁の『デザイン経営』宣言と韓国政府のデザイン振興政策」(特許庁委託事業)を開催し、日本特許庁で意匠および特許を担当する澤井審査第一部長より、日本特許庁の方向性について、また、韓国デザイン振興院のソン・ヒョンミン戦略経営本部長より、韓国政府のデザイン振興施策について、発表いただきました。以下で、概要を紹介します。

開催概要

開催日時 2018年11月8日(木曜)16時00分~18時00分
場所
ホテルプレジデント19階 Brahms Hall
ソウル特別市 中区 乙支路16(市庁駅そば)
主催
韓国IPG / SJC知財委員会(事務局 ジェトロ・ソウル事務所 知財チーム)
内容
16:00~16:05
韓国IPGリーダー挨拶
武内 敬司 株式会社韓国日立 代表理事 社長
16:05~16:55
セッション1:デザイン経営を支える意匠制度の未来
澤井 智毅 日本特許庁 審査第一部長
16:55~17:10
休憩 15分
17:10~18:00
セッション2:韓国政府のデザイン振興政策の現状と未来PDFファイル(3.4MB)
宋賢民(ソン・ヒョンミン)韓国デザイン振興院 戦略経営本部長

レポート

セミナー会場の様子

デザイン経営を支える意匠制度の未来

日本特許庁審査第一部長 澤井 智毅

デザイン経営の推進

製品の同質化(コモディティ化)が急速に進む今日、機能や品質だけでは差別化が困難な時代を迎えています。そのような中、明確な企業理念に裏打ちされた自社独自の強みや技術、イメージをブランド・アイデンティティとしてデザインによって表現し、製品の価値を高め、市場拡大に結び付けている企業が世界各国に現れつつあります。日本特許庁としても、こうした状況を踏まえて、デザインによる我が国企業の競争力強化に向けた課題の整理とその対応策の検討を行うため、「産業競争力とデザインを考える研究会」を立ち上げて議論を進めてまいりました。同研究会は、日本国内外のインダストリアルデザイナーや企業のデザイン担当者を中心に委員が構成されており、日本のデザインにおける問題に関して行った11回の議論の結果を、2018年5月に「『デザイン経営』宣言」という報告書に取りまとめました。

この報告書の中で、同研究会は、日本においては品質や機能が重視され、デザインが有効な経営手段として重視されていないことについて問題提起した上で、デザインはブランド構築とイノベーションを通じた企業の産業競争力の向上に寄与すること、そして、デザインを企業価値向上のための重要な経営資源として活用することを提言しました。

また、このようなデザインを活用した経営手法を「デザイン経営」と定義した上で、「デザイン経営」を推進すべく、情報分析・啓発、知財、人材、財務、行政の実践の5つの切り口から政策提言を取りまとめ、このうち、知財については、新技術(GUIに代表されるデジタル技術由来の新しいデザイン等)の特性を活かした新たな製品のサービスのためのデザインなどへ保護対象を広げることや意匠権取得の手続きの改善などを目指すことも提言しています(同報告書は、経済産業省ウェブサイトに掲載)。

意匠制度の近代化

現在、世界市場における産業のターゲットが変わりつつあります。例えば、日本の産業が世界をリードしている分野は、ハードウェア・エレクトロニクスの組み合わせ領域が中心である一方で、世界の産業の中心は、第四次産業革命以降のソフトウェア・サービス、データ・人工知能(AI)の組み合わせ領域へと急速にシフトしつつあります。こうした変化の中、日本特許庁は、意匠制度を時流にあわせて近代化するために、様々な取り組みを行っているところです。

(1)2018年意匠法改正

新規性喪失の例外期間(グレースピリオド)を6カ月から12カ月に延長しました。特許庁に意匠出願する前に、自分で雑誌などに、そのデザインを公表した場合には、新規性を喪失するために拒絶理由があります。従来、その公表が出願日の6ヵ月前以内の場合は、証明書を提出することで拒絶理由にしないという期間の規定がありましたが、これを法改正することで12カ月に延長しました。

また、諸外国への出願における優先権書類の交換を特許庁間で行うデジタルアクセルサービス(DAS)による優先権書類の電子的交換は、これまで特許出願に関してのみ行われていましたが、意匠分野でも導入できるように法改正を行いました。これにより、出願人にとっては、優先権書類提出手続きの簡素化やコスト削減の効果があると見込まれます。

(2)意匠制度のさらなる改正に向けた取り組み

意匠制度をさらに使いやすいものとすべく、現在、検討している主な事項は、次のとおりです。

  1. 画像デザインの保護対象の拡充の検討
    例:ネットワークを通じて表示される画像や物品以外の場所に投影される画像を保護対象にするべきかなど。
  2. 空間デザインの保護の検討
    例:建築物(不動産)や店舗、オフィスなどの内装を意匠の保護対象に含めるべきかなど。
  3. 関連意匠の新たなニーズへの対応に関する検討
    例:本意匠の公報発行日後における関連意匠の出願や関連意匠にのみ類似する意匠の登録を認めることが考えられないか(図参照)。その際、関連意匠の出願を認める期間をどのように設定すべきか。また、関連意匠の存続期間をどのように設定すべきかなど。

    (図)関連意匠の拡充について

    関連意匠の拡充に係る二つの例です。第一に、関連意匠の登録を公報発行日後においても認めることです。現行制度では、関連意匠の出願は公報発行日前とされています。例として、本意匠「包装用容器」意匠登録1375955号の類似の範囲と関連意匠「包装用容器」意匠登録1387038号の類似の範囲を説明しています。第二に、関連意匠の関連意匠の登録を認めることです。現行制度では、法10条3項により、関連意匠にのみ類似する意匠については、意匠登録を受けることができません。仮想事例として、消しゴムを挙げており、消しゴムの本意匠の類似の範囲に属する関連意匠の類似の範囲にのみ類似する関連意匠の範囲を説明しています。

    (出所)澤井部長発表資料

  4. 意匠権の存続期間を20年から25年に延長する検討
  5. 複数意匠の一括出願の導入の検討
  6. 物品区分の扱いの見直し

意匠制度の国際化

意匠分野における国際化が広がりつつあります。まず、海外への出願手続きを簡便に行う方法として、ハーグ協定を用いた出願方法があります。これは、同協定の締約国の出願人が、世界知的所有権機関(WIPO)国際事務局に対して出願手続きを行い、出願人が意匠権を取得したい締約国を指定することにより、当該指定締約国において権利が付与される(各国毎で要件を満たすことが必要)という意匠の国際登録制度です。日本は2015年にハーグ協定のジュネーブ改正協定に加盟し、同協定に基づく意匠の国際登録出願の受付を開始しました。これにより、海外から日本に対する意匠登録出願が増えつつあります。

ところで、世界各国のルールが違うと困るのは、ユーザーの皆様であり、できる限り世界各国の考え方やルールをハーモナイゼーションすることが重要です。その取り組みの一環として、2018年6月に、日米両国特許庁は、日米意匠審査官会合(定期会合)の設置や、日米共通分類の議論の加速化などを主な協力事項とした日米間の意匠分野における協力に関する覚書を締結しました。さらに、2015年に日・米・欧・中・韓の知財庁は、五庁による協力枠組みとしての意匠五庁(ID5)を創設し、会合を毎年開催するなど、意匠分野の国際協力を本格化しています。過去4年間の議論を通じて、各国の制度の相違について確認することができたため、今後は、各国が有するそれぞれの制度をどのように近づけていくかについて議論を始める予定です。

韓国政府のデザイン振興政策の現状と未来

韓国デザイン振興院戦略経営本部長 宋賢民(ソン・ヒョンミン)

韓国デザイン振興院によるデザイン振興政策

韓国デザイン振興院(KIDP)は、産業デザイン振興法(産業通商資源部)に基づき、1970年に設立されました。設立当時は、輸出促進のために輸出製品の包装デザインに本腰を入れるべきとのことで、韓国デザイン包装センターという名称でしたが、その後、韓国デザイン振興院へと、その名称が変化し、現在は、京畿道城南市の本院と慶尚南道梁山市の分院を構えています。さらに中国とベトナムにもデザインセンターを設立し、韓国企業のデザイン関連支援を行っています。

韓国デザイン振興院による主なデザイン振興政策を紹介しますと、(1)デザイン政策および戦略策定(産業通商資源部とデザイン政策の開発など)、(2)海外進出支援(海外展示、グローバル生活ブランドの育成など)、(3)デザインイベント&アワードの実施、(4)教育支援および人材養成、(5)企業支援(輸出企業に対するデザイン開発の支援、中小・中堅製造企業に対するデザイナー派遣事業、中小・中堅企業に対する短期間におけるデザイン隘路事項の解決など)、(6)サービスデザイン&デザイン思考、(7)デザイン研究開発(R&D)が挙げられます。

韓国デザイン振興院によるデザイン権利保護

当然ながら、デザイン権利は、デザイン保護法に基づくデザイン権により、最も確実に保護されるものです。しかし、この場では、韓国デザイン振興院が担当しているデザイン権利保護に係る二つの制度を紹介します。

(1)紛争調停制度-デザイン紛争調停委員会の運営‐

デザイン企業協会および韓国デザイン振興院のRDC(Regional Design Center)3所内の相談窓口において、紛争の申込があった場合に、法律諮問を実施した上、未解決事例は、韓国デザイン振興院のデザイン紛争調停委員会に移管されます。法律諮問とは、デザインに関する取引過程において発生する不公正取引および知的財産権紛争などに対する法律相談・諮問支援を意味します。しかし、紛争調停申込後、調停進行中に当事者間で合意、調停拒否などにより、中断される事件も多く、紛争調停委員会が開かれる場合はほとんどありません。同制度は、実際には紛争調停委員会ができるだけ、開かれないようにすることを目指しています。

同制度は、多くの費用と時間が所要されるデザイン関連の訴訟制度の代案として、紛争当事者間の合意の誘導と調停案を提示することにより円滑かつ円満な紛争解決を図る制度と言えます。なお、全ての手続きが非公開で行われるため、企業および個人の秘密維持が可能となります。
発表資料PDFファイル(3.4MB) 28ページ「直近5年間の紛争調停実績」参照

(2)デザイン公知証明制度

デザイン公知証明制度とは、デザインの出願登録前に、デザイン創作事実(創作者・時期)を証明する制度となります。同制度により、証明されたデザインは、韓国特許庁で当該デザインを審査する際に、創作事実の証拠資料として活用されます。また、無権利者のデザイン無断登録による侵害被害を予防する機能を果たします。特許庁に対するデザイン権の登録と、同制度の大きな違いは、デザイン権は、排他的権利が付与される一方で、同制度は、排他的権利はなく、公知事実のみが証明されます。また、同制度は、申請して1日もしくは数日以内に登録手続きが終わり、また、費用も比較的に安価です。
発表資料PDFファイル(3.4MB) 30ページ「デザイン権登録とデザイン公知証明の違い」参照

なお、同制度を活用する品目のうち、7割が衣類およびファッション・用品、1割が生活用品であり、流行のペースが速いため、活用期間が短期間である場合がほとんどです。特許庁へのデザイン出願までいかない場合が多く、デザイン創作に対する紛争が発生する場合、本人の創作時点などの根拠資料として活用が可能となります。そのため、これらの品目については、デザイン権を取得するよりは、同制度を利用することが望ましいといえます。年度別の登録状況をみると、2016年に284件、2017年に537件、2018年(9月末まで)に425件となっています。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
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