知的財産に関する情報2018年7月開催 韓国知財セミナー/第20回韓国IPGセミナー(特許庁委託事業)開催レポート

趣旨

韓国の商標・デザイン出願件数は、いずれも人口比では日本の2倍以上の件数となっており、商標権・デザイン権の積極的な活用が行われています。一方、韓国では依然として冒認商標問題や模倣品問題が残っており、適正な権利化に基づくブランド・デザイン保護の必要性があります。2016年以降、関連法律が相次いで改正されたほか、2018年7月より、店舗外観などのトレードドレス(trade dress)が保護対象に加わりました。

このような状況を踏まえ、ジェトロでは、韓国へ商標・デザイン出願を行う際の注意事項や商標権・デザイン権の活用について、また、不正競争防止法の概要およびトレードドレス保護の動向をテーマとするセミナーを、福岡(2018年7月4日)・東京(7月5日)にて開催し、ソウル(7月9日)においても、同内容で第20回韓国IPGセミナーを開催しました(いずれも特許庁委託事業)。

開催概要

テーマ 韓国の商標・デザイン制度とトレードドレス保護の最新事情
開催日時 福岡会場:2018年7月4日(水曜)14時00分~16時50分
東京会場:2018年7月5日(木曜)15時00分~17時55分
ソウル会場:2018年7月9日(月曜) 14時00分~16時55分
内容
※日韓同時通訳

レポート

(福岡会場)

(東京会場)

(ソウル会場)

韓国商標出願の注意事項および商標権の活用

韓洋国際特許法人弁理士 李智瑛(イ・ジヨン)

商標関連の最近の改正内容

2016年商標法全部改正の主な事項を、いくつか紹介すると、(1)匂い、立体的形状、ホログラム・動きまたは色彩など、商標として機能する表示は、制限なくすべて出願できるようになった点、(2)商標不登録事由の判断時点が、出願時点から、商標登録決定時点へと変わった点(一部を除く)、(3)条約当事国で登録された商標の権利者と関係のある者が、元権利者に同意を得ずに出願した場合、元権利者の積極的な保護のために、異議申請や情報提供がなくても拒絶事由となるよう規定した点、(4)不使用取消審判を誰でも請求できるようになった点(これにより、取り消された商標は、2016年1,207件から2017年2,172件とほぼ倍増した)、が挙げられます。これに関連する商標の使用有無を争った韓国の大法院の判例を紹介すると、 (1)韓国の輸出自由地域内で輸出の目的でのみ登録商標が付された商品を製造した場合、(2)通常使用権者である外国の素材企業が、韓国内の企業から、委託生産(OEM)方式で登録商標が包装に表示された製品の供給を受け、自国で販売した場合には外国企業が韓国で登録商標を使用したとみなされると判断されました。

また、近年における審査基準の主な変更については、識別力がない立体的形状に識別力がある記号、文字、図形などが結合され、全体的に識別力を認めることができる場合には、識別力があるとみなすこととなりました。また、立体的形状が指定商品の形状を表示するものとは認識されず、一般的でないか、ありふれたものでない、例えば、ライオンの形の車のように非常に特異な形状である場合には、識別力があるものともみなすこととなりました。

日本語の商標に対する審査

韓国の商標審査基準では、ひらがな、カタカナなど日本語で構成された商標については、韓国語で音訳または翻訳し、その音訳、翻訳した韓国語についても、商標法の各条文に該当するかどうかを検討することを原則としています。日本語の商標が出願されると、韓国の商標審査官は、まず、辞書を引きますが、一例として、牛丼チェーン店のすきやが出願されたときに、「すきや」を辞書で引くと、「数寄屋」の定義が出ることが原因で、お茶と関連のない指定役務に使用する場合に、品質の誤認、混同のおそれがあることを理由に拒絶されました。再出願では、同商標における「すきや」が、お茶とは関係のない意味を持つことを立証したことで、登録決定になりました。

冒認商標の現状と対応

近年、韓国特許庁は、冒認商標の撲滅に相当な努力を注いでおり、冒認商標の登録は中々難しいことも多く認知されていることから、商標ブローカーによる商標出願も激減しています(次のグラフ参照)。

商標ブローカーによる出願件数は、2011年に2,087件、2012年に3,523件、2013年に7,264件、2014年に6,293件、2015年に348件、2016年247件となり、登録件数は、2011年に237件、2012年に208件、2013年に200件、2014年に140件、2015年に76件、2016年に24件となりました。

(出所)李弁理士の発表資料

しかし、冒認商標が皆無と言える状況ではないため、韓国でのビジネスを検討している企業は早めに商標を出願することが重要です。

冒認商標を発見した際の対応としては、まず、冒認商標が自身の先出願または先登録商標と類似する場合は、自身の商標の周知性に関係なく無効の主張が可能となります。また、冒認商標を出願した当事者と契約関係や業務上の取引関係などがある場合は、それを理由に冒認商標に対する措置を取ることができます。なお、韓国で商標出願をしていない状況でも、自身の先使用商標が韓国の需要者に著名な場合には、無効の主張が可能となります。最後に、自身の先使用商標が、日本などの外国で特定人の商品の出所として知られている場合、冒認商標の指定商品が、先使用商標が使用された商標と経済的な関連性がある場合には、無効請求が可能となります。この場合、自身の先使用商標と冒認商標が同種商品の場合には、勝算が高いですが、異種商品の場合には、不正の目的による出願であることを立証することは難しくなります。

韓国デザイン出願の注意事項およびデザイン権の活用

特許法人NAM&NAM代表弁理士 兪炳虎(ユ・ビョンホ)

デザイン、そしてデザイン権

デザインとは、一言で言えば物品の形です。また、すべての物品は、当然、それ自体に形があることに他なりませんが、形を従来とは異なるように作ることもできます。なお、物品のおしゃれな形、すなわちデザインは、事業の成功に結び付くこともあります。それは、デザインにより、市場の主導権が不均衡を成すためです。しかし、1つの成功は、必ずそれをコピーする競争者を呼び込むものであるため、コピーを許せば、デザインによる市場の主導権は均衡状態に戻ってしまいます。これに対する対応策が必要であり、新たに創作されたモノの形は、デザイン保護法により、独占的権利で保護されます。まさにデザイン権といえます。デザイン権は、市場における主導権のためのツールです。

デザイン侵害の訴訟費用は比較的安いが、損害賠償額は高い

2018年6月、米国にて繰り広げられてきた7年間にも及んだアップルとサムスンのデザイン侵害訴訟が和解で終結しました。損害賠償額に対する最も直近の決定では、3つのデザイン権の侵害により、サムスンがアップルに賠償しなければならない金額が5,000億ウォン以上にもなります。同様の訴訟でサムスンは技術的なアイデアに関する特許2件も侵害していますが、その損害賠償額は、デザインのそれの1/100程度にしかなりません。デザイン侵害に対する損害賠償の算定は、デザインが施された物品の利益全てを基準とするためです。さまざまな部品から構成された完成品の場合でも、デザインの本質如何により、部品デザイン権侵害の損害賠償額は、完成品の利益額全てになり得るとするのが最近の最高裁判決であります。一方、特許侵害訴訟の費用は、技術分析と侵害立証ならびに高コストのディスカバリーのために、デザイン侵害訴訟費用に比べて顕著に高額となります。損害賠償額と訴訟費用の違いまでを考慮すれば、デザイン権の力が感じ取れます。デザイン訴訟は、特許訴訟に比べて企業の最高経営者層からの関心も高い傾向にあります。形の比較に対する内容が主となるためです。さらにデザインは、企業のアイデンティティと考えられる場合が多く、これは企業のプライドをかけた感情的な争いになることもあります。知財関係者が注目すべき大きな課題でもあります。

韓国における様々なデザイン制度

韓国のデザイン制度は、デザイン創作にさまざまな便宜を提供しています。デザインは、物品の形であり、デザインが施される物品が何であるかを図で表現しなければなりませんが、デザインの創作部分が物品の一部に対するものであれば、その部分だけを権利化できるようにする部分デザイン制度があります。複数部品の製品である場合は、先行デザインの多少および損害賠償額算定の戦略に基づき、部品だけのデザイン権として出願するか、または完成品の部分デザインとして出願するかを選択しなければなりません。ただし、デザイン権は物品の形に限られた権利であるため、若干変更したデザインで回避設計され侵害を避けることが容易である場合もあります。したがって、さまざまな変更バージョンの類似デザインを、関連意匠制度を通じて1つ以上の権利として同時に確保しておくこともできます。また、そのデザインが適用された物品から技術的属性を抜き出し、特許や実用新案として権利化しておく作業も並行して進めることが好ましいといえます。ビジネス環境によっては、出願されたデザインを秘密として保持する制度、またはその反対に2ヵ月以内に迅速に審査を行い、権利化するか、公開のみでも早期に行う制度を活用することもできます。また、韓国独自のデザイン制度として、物品以外に文字フォントについても保護しています。

デザイン出願で権利を事前に確保すべき

韓国におけるデザイン出願件数は、日本や米国より多いです。米国と韓国は、アップルとサムスンのデザイン訴訟が本格的に始まった2011年の後半からデザイン出願件数が増加しつつある一方、日本は2008年以降、毎年減少する傾向を見せています。また、中国は韓国よりデザイン出願件数が10倍近く、注目に値します。韓国を含む各政府のデザイン産業関連政策と支援もまた、関心を持って見守る必要があります。

一方、不正競争防止法により、デザイン権登録がなされていない場合でも、物品のデザインが保護されることもあります。他人のデザインをコピーしたために商品の混同を来し、または信義則に著しく反するほど創作的要素の加味がない直接的模倣を行った場合には、同法違反になることもあります。短期間であれば、新商品デザインの保護も可能ですが、保護には限界があり、さらに、これに該当するための要件が非常に厳しいのが現実であります。デザイン出願で権利を事前に確保しておくことが望ましいのは言うまでもないことです。

韓国における不正競争防止法の概要およびトレードドレスの保護

金・張法律事務所弁護士 金元(キム・ウォン)

不正競争防止法(以下、不競法)の概要

韓国の不競法は、混同招来行為、誤認誘発行為、著名商標希釈行為、商品形態模倣行為などを禁止する法律であります。不正競争行為の定義を各条項として列挙する「限定列挙主義方式」を取っていましたが、この方式は、新たなかつ多様な類型の不正競争行為を規制できない限界がありました。

そのため、一般条項「その他、他人の相当な投資又は労力により作成された成果等を公正な商取引慣行又は競争秩序に反する方法により自身の営業のために無断で使用することにより他人の経済的利益を侵害する行為」(不競法第2第1号ヌ目; 2018年7月18日に施行した改正不競法では、ヌ目が新設され一般条項はカ目となる)が新設、2014年1月31日より施行され、定型化されていない不正競争行為に対しても法律領域が拡大しました。

一般条項の代表的な事例としては、二つのエルメス事件(以下図参照)が挙げられます。二つともエルメスのバーキングバックとケリーバックの形状を用いた事件であり、一つの事件(以下図の上段)の被告は、バックの形状をそのまま撮影し、これをポリエステル素材の布にプリントしたハンドバック製品を百貨店、免税店、インターネットショッピングモールなどに販売しました。ソウル高等法院(知財専担部のうちの1つである第5民事部)は、同事件の被告に対し、原告製品またはエルメスの名声、イメージなどが持つ顧客吸引力などに便乗する意図で被告実施製品を生産、販売したと判断し、また、原告製品の商品形態は原告の相当な投資や労力により作られた成果物に該当することを根拠に不正競争行為を認め、侵害製品の製造、販売などの禁止、廃棄、損害賠償を命令しました(上告却下で確定)。

二つのエルメス事件における原告製品のバックの写真と被告製品のバックの写真があり、一つの事件の被告製品は、不正競争行為が認められた一方で、もう一つの事件の被告製品は、不正競争行為が認められませんでした。

(出所)金弁護士の発表資料に基づき作成

もう一つの事件(前述図の下段)の被告は、バックの形状を借用し、ハンドバックの素材に光沢のある安価な人工皮革と輝く素材のスパンコールを使用し、その表面に大きな目をデザイン・印刷して販売しました。一審法院は侵害を認めましたが、控訴審であるソウル高等法院(知財専担部のうちの1つである第4民事部)は、同事件に対し、一般条項は他人の成果模倣や利用行為に、公正な取引秩序および自由な競争秩序に鑑みて正当化されない「特別な事情」がある場合に適用されるという前提のもとに、原告製品が「相当な投資や労力」により作られた成果には該当しつつも、被告製品は目玉の図案を製品全面の大部分に大きく張り付けて創作的要素を加味しており、素材が全く異なるため全体的な審美観において原告製品と違いがあり、価格、販売場所・方法、主な顧客層が明確に異なる原告製品と誤認・混同の可能性が認められないことを理由に不正競争行為を認めませんでした。本判決に対しては原告が上告し、大法院の判決が一般条項の範囲が整理される事例になる見込みです。

トレードドレスが法律に明文化

トレードドレスとは、商行為と関連した商品やサービスなどの全体的な印象、イメージなどが識別力を有するため商品やサービスの出所表示として機能することを意味します。トレードドレスを独自に保護する規定が存在しなかった時は、一定の要件で不競法第2条第1号イ、ロ(出所混同防止)、ハ(希釈行為防止)、ヌ(一般条項)目をはじめとし、商標法、デザイン保護法、著作権法などの個別規定により、保護されました。例えば、巣蜜アイスクリームを販売する原告の店舗は、いずれも共通するデザインからなる(1)外部看板、(2)メニュー、(3)乳牛ロゴ、(4) コーンリング、(5)アイスクリームコーンの陳列形態、(6)巣蜜の陳列形態、を使用しましたが、被告がこれと類似のインテリアのデザート店舗を直営または加盟店形態で運営した事件があり、2014年にソウル中央地方法院は、原告店舗外観を成す個別要素は知財関連法律により、保護を受けられないとしても、各個別要素が全体または結合した場合トレードドレスと評価されるとし、不競法第2条第1号ヌ目(一般条項)による不正競争行為を認めました(一審判決に対して控訴が提起されたが、該当判断部分に対する控訴は取下げられ、確定)。

しかし、2018年7月18日に施行した改正不競法では、「国内で広く認識されている他人の商品の販売・サービス提供方法、又は看板・外観・室内装飾等、営業提供の場所の全体的な外観と同一又は類似のものを使い、他人の営業上の施設又は活動と混同を招く行為を禁止する」ことが明記され、法律でトレードドレスが規定されることとなりました。ただ、不競法の適用範囲は、曖昧な部分もあるので、商標・デザイン登録を含めた不競法以外の知財法上のトレードドレス保護も図ることが望ましいです。

韓国の最新知財事情と韓国IPGの活動

ジェトロ・ソウル事務所副所長 浜岸 広明

韓国政府は2018年5月10日に、第22回国家知識財産委員会を開催し、「2018年国家知識財産施行計画」を審議・確定しました。6大重点方向を選定し、それに基づき事業と政策を新規推進・拡大推進する計画であります。6大重点方向とは、(1)IPを基盤にする良質の雇用創出に貢献、(2)第四次産業革命への対応および新産業創出に向けた強いIP確保、(3)創業と中小・ベンチャー企業の成長に向けたIP強化および公正な秩序の確立、(4)デジタル環境に対応する著作権エコシステムの基盤づくり、(5)グローバルなIP強化、(6)IP尊重文化の拡散および基盤づくり、となっています。

その他のトピックとしては、外国語弁論許可の手続きなどを定めた「国際裁判部の設置および運営に関する規則」が2018年6月13日に施行されました。同規則によると、当事者が外国人である事件、主な証拠調査が外国語で行われる必要がある事件などに対し、当事者の同意を得て、外国語で弁論することを許可しています。

最後に、大韓弁理士会が、南北の知財権制度の将来に備え、統一比較制度研究や望ましい知財権制度の統合などを研究することを目標とする南北知財権の特別委員会を設置する計画を明らかにしたことが注目を集めています。

なお、「2018年国家知識財産施行計画」と「国際裁判部の設置および運営に関する規則」の仮訳はジェトロ韓国知財ウェブサイトに掲載しています。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
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