モザンビークの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 天然ガス輸出開始、5年ぶりにIMFと世界銀行からの財政支援再開など経済展望は明るい。
  • 国際市場での価格高騰を受け、石炭輸出が前年比94.6%増。
  • 天然ガス分野への投資が集中。
  • 日本からの自動車輸出は減少も、水力発電所建設計画に進展。

公開日:2023年10月5日

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マクロ経済 
輸出は好調、天然ガス生産開始を受け政府は経済成長に意欲的

2022年の実質GDP成長率は4.1%となり、前年から1.8%ポイント上昇した。COVIDショックからの国内経済の回復に加え、2022年に実施された公務員賃金体系の改定に伴う、政府支出の増加が複合的に作用したことが主な要因である。また、石炭など採掘産業に由来する輸出品目が、国際市場価格上昇の恩恵を受けたことも成長率を押し上げたとみられる。採掘産業では、イタリア資源大手エニが開発を主導するエリア4コーラル・サウス鉱区において、2022年6月から天然ガスの生産が開始され、同年11月には英国資源メジャーBP向けの出荷が始まった。同産業は2023年も好調であるとみられており、IMFとモザンビーク政府は共に、2023年の実質GDP成長率は5%に達すると予測している。

2022年にはIMFと世界銀行からモザンビーク政府に対する財政支援が再開された。国際機関からの財政支援は、非開示債務問題が発覚後の2017年に停止していた。IMFからは向こう3年間で総額4億5,600万ドルの融資、世界銀行からは総額3億ドルの無償資金提供を受ける。こうした状況を背景に、モザンビーク政府は2022年8月、経済成長促進政策「経済加速パッケージ(PAE)」を発表した。PAEは20の施策からなり、付加価値税(VAT)の減税や、ビジネス目的での入国要件を緩和するための査証制度の見直しなどが含まれる。2023年1月にはVAT税率が17%から16%に引き下げられるなど、施策は実行に移されつつある。

2020年の新型コロナウイルス感染症による経済不振から回復を続ける一方で、国内ではロシアによるウクライナ侵攻の影響で、燃料や食糧の価格が高騰し、インフレが懸念された。2022年3月から7月にかけ、3回にわたり政府による燃料の国内販売価格の値上げが実施されたものの、為替レートが年間を通して安定していたこともあり、消費者物価指数(CPI)の上昇率は9.8%と一桁台に収まった。

貿易 
浮体式天然ガス生産施設(FLNG)の輸入により貿易赤字は拡大

2022年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比48.3%増の82億8,086万ドル、輸入が前年比70.2%増の133億3,726万ドルで、貿易収支は50億5,640万ドルの赤字だった。赤字額は前年の22億5,160万ドルから約2.2倍に拡大した。主な要因は、42億ドルのFLNGの輸入であり、輸入総額の約32%に相当する。

品目別輸出額をみると、石炭は前年比94.5%増の28億5,220ドル(構成比34.4%)となった。モザンビーク産の石炭は、硫黄分や水分を多く含み、南アフリカ共和国産やオーストラリア産と比べ品質は劣るが、価格競争力を強みとしている。主としてインドのセメント・化学産業および発電会社からの需要が伸びた。天然ガスは前年比2倍増の5億4,160万ドル(同6.5%)だった。天然ガスの価格が欧州で前年比約2.5倍、米国で同1.7倍に上昇したことに加え、2022年11月からエリア4コーラル・サウス鉱区で生産開始されて天然ガスの輸出量が増大した。野菜類は前年比55.0%増の2億2,390万ドル(同2.8%)だった。主要な輸出先である南アフリカが新型コロナウイルス対策の各種制限を緩和したことによる。国別輸出額では、石炭、重砂、カシューナッツ、豆類などの輸出先であるインドが17億4,468万ドル(構成比21.1%)で首位となり、天然ガス、電力などの輸出先の南アフリカが11億2,060万ドル(同13.5%)と続いた。

品目別輸入額は、FLNGを含む機械が前年比4.6倍増の54億4,920万ドル(構成比40.9%)、ディーゼルやガソリンを含む燃料が前年比2.1倍増の19億6,620万ドル(同14.7%)となり、これら上位2品目が輸入総額の50%以上を占めた。国別輸入額では、FLNGの輸入元である韓国が42億6,850万ドル(構成比32%)、次いで自動車、電化製品、電気などの輸入元である南アフリカが20億8,180万ドル(同15.6%)、石油、医薬品、小麦などの輸入元であるアラブ首長国連邦(UAE)が13億3,260万ドル(同10%)と続いた。

表1-1 モザンビークの主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:百万ドル、%)
輸出(FOB)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
石炭 1,466 2,852 34.4 94.5
アルミニウム製品 1,394 1,801 21.7 29.2
農業関連製品(加工品を含む) 483 672 8.1 39.1
階層レベル2の項目野菜 151 234 2.8 55.0
階層レベル2の項目タバコ 143 151 1.8 5.6
電力 570 571 6.9 0.2
重砂 470 562 6.8 19.6
天然ガス 271 542 6.5 100.0
ルビー、サファイア、エスメラルダ 158 186 2.2 17.7
合計(その他含む) 5,583 8,281 100.0 48.3

[出所:モザンビーク中央銀行]

表1-2 モザンビークの主要品目別輸入(FOB) [通関ベース](単位:百万ドル、%)(△はマイナス値)
輸入(FOB)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
一般機械 1,184 5,449 40.9 360.2
燃料 919 1,966 14.7 113.9
階層レベル2の項目ディーゼル 590 1,390 10.4 135.6
階層レベル2の項目ガソリン 233 380 2.8 63.1
建築資材(セメントを除く) 844 652 4.9 △ 22.7
アルミニウム原料 363 466 3.5 28.4
自動車 346 369 2.8 6.6
医薬品及び試薬 335 321 2.4 △ 4.2
食用油 320 316 2.4 △ 1.3
コメ 342 288 2.2 △ 15.8
小麦 216 242 1.8 12.0
電力 254 204 1.5 △ 19.7
合計(その他含む) 7,834 13,337 100.0 70.2

[出所:モザンビーク中央銀行]

対内直接投資 
炭鉱事業売却によるマイナス投資で採掘産業の投資額減少

2022年の対内直接投資(国際収支ベース、ネット、フロー)は、前年比61.3%減の19億7,530万ドルだった。天然ガス、石炭などの採掘産業に投資総額の78.9%にあたる15億5,830万ドルが集中したが、同産業への投資額は52.7%減少した。採掘産業のうち、天然ガス分野への投資は22億7,200万ドルだった。他方、モアティーズ炭鉱とナカラ回廊鉄道・インフラ事業の売却に伴う貸付金などの支払いにより、7億3,650万ドルのマイナス投資(ダイベストメント)が計上された。同プロジェクトは、ブラジル資源大手ヴァーレと三井物産が共同開発していたが、2021年に第三者への売却を発表し、2022年4月にインドのブルカンへの売却完了を発表していた。国別投資額では、モーリシャスが13億9,260万ドルでトップとなり、オランダが5億4,560万ドル、UAEが1億8,290万ドルと続いた。これら上位3カ国からは採掘産業、電力・ガス・水道などのインフラなど、幅広い分野への投資が行われた。

対日関係 
水力発電所建設計画で日系企業の存在感が増す

2022年の日本の対モザンビーク輸出は前年比4.7%減の1億2,300万ドル、輸入は同12.2%減の1億2,600万ドルだった。輸出の4割近くを占める自動車は前年比11.6%減の4,700万ドルとなった。荷役機械は前年比4.7倍増と大幅に増加した。この背景は、第1四半期に三井E&Sマシナリーのモザンビーク政府向け港湾荷役クレーン8基がナカラ港に入港したことにある。同港は日本政府の円借款事業によって開発が進められている。

モザンビーク政府は、2022年8月にチュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD8)に代表団を派遣したほか、11月にはエルネス・マックス・トネラ・エリアス経済財務相、マテウス・マガラ運輸通信相らが来日した。来日した一行は、日系企業とのラウンドテーブルに臨んだほか、Mitsui E&P Mozambique Area1 Ltd.を通してエリア1天然ガス開発プロジェクトに出資している三井物産やJOGMECと会談するなど、活発な意見交換を行った。モザンビーク国内での日本企業の活動として、最大発電容量1,500メガワットの水力発電所建設プロジェクトに進展がみられた。住友商事と関西電力は官民パートナーシップによって実施される同プロジェクトのパートナー選定に参加し、2022年6月に入札参加資格審査を通過した。2023年5月には、両社およびフランス電力公社(EDF)、仏資源大手トタルエナジーズから成るコンソーシアムが、プロジェクト実施契約に向けたモザンビーク政府との優先交渉権を獲得したことが発表された。

表2-1 日本の対モザンビーク主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:百万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸出(FOB)
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 54 48 38.7 △ 11.1
階層レベル2の項目自動車 54 47 38.4 △ 13.0
階層レベル3の項目乗用車 29 28 22.8 △ 3.4
階層レベル3の項目バス・トラック 24 19 15.6 △ 20.8
一般機械 6 26 20.7 333.3
階層レベル2の項目荷役機械 5 23 18.8 360.0
原料別製品 26 17 13.9 △ 34.6
階層レベル2の項目鉄鋼 23 15 11.9 △ 34.8
原料品 11 12 9.7 9.1
電気機器 14 9 7.1 △ 35.7
化学製品 7 7 5.9 0.0
階層レベル2の項目医薬品 6 6 5.1 0.0
合計(その他含む) 130 123 100.0 △ 5.4

〔出所〕 財務省「貿易統計」(通関ベース)よりジェトロ作成

表2-2 日本の対モザンビーク主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:百万ドル、%)(△はマイナス値)
品目 輸入(CIF)
2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
鉱物性燃料 89 63 50.0 △ 29.2
階層レベル2の項目石炭 69 63 50.0 △ 8.7
原料品 49 54 42.5 10.2
階層レベル2の項目非鉄金属鉱 33 27 21.7 △ 18.2
原料別製品 4 6 4.7 50.0
階層レベル2の項目非鉄金属 0 1 0.9
階層レベル2の項目非鉄金属鉱物製品 4 5 3.8 25.0
食料品 2 3 2.6 50.0
階層レベル2の項目魚介類 2 3 2.2 50.0
合計(その他含む) 144 126 100.0 △ 12.5

〔出所〕 財務省「貿易統計」(通関ベース)よりジェトロ作成

基礎的経済指標

人口
3,162万人 (2023年6月、暫定値)
面積
79万9,380平方キロメートル(2022年)
1人当たりGDP
544 米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) △ 1.2 2.3 4.1
消費者物価上昇率 (%) 3.1 5.7 9.8
失業率 (%) 3.8 3.9 3.9
貿易収支 (100万米ドル) △ 2,294 △ 2,252 △ 5,119
経常収支 (100万米ドル) △ 3,869 △ 3,601 △ 6,455
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 3,836 3,550 2,709
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 10,101 10,392 10,061
為替レート ( 1 米ドルにつき、メティカル、期中平均) 69.47 65.47 63.85

出所:
人口、面積:モザンビーク統計局
1人当たりGDP、実質GDP成長率、消費者物価上昇率、 外貨準備高(グロス)、為替レート:IMF
失業率:世界銀行
貿易収支、経常収支:モザンビーク中央銀行
対外債務残高(グロス):モザンビーク経済財務省