2013年予算案は3年続けて超緊縮−懸念される景気下振れと財政悪化−

(スペイン)

マドリード事務所

2012年10月17日

政府が9月29日に下院に提出した2013年予算案は、歳入が前年比1.8%減の2,715億ユーロ、歳出が5.5%増の3,820億ユーロを見込む。11年から連続3年となる超緊縮予算で、景気悪化や国債費増大が指摘され、13年の財政赤字目標達成は早くも危ぶまれている。

<国債費が中長期的な財政圧迫要因>
2013年予算案(注1)の歳入減は国と自治州間の財源調整によるものだが、歳出増は国債発行が膨らむ中での国債費(33.8%増)、および高齢化進行や年金支給額1.0%引き上げ措置による年金支出の増大(4.9%増)という構造的要因によるもの。

2013年の国債費は前年から100億ユーロ近く増大する。これは国債利子の一時的高騰というよりも国債発行残高の急拡大(2008年から倍増)によるものだ。国債費は今後、中長期的に高止まりする恐れがある。

政府債務残高のGDP比は、2012年の85.3%から13年は90.5%とEU平均水準を上回る。政府はその要因として(1)税収減による国債発行増加、(2)地方自治体(州と市町村)のための財政支援プログラム、(3)欧州金融安定ファシリティー(EFSF)への拠出金、(4)EUによる金融セクター支援の政府債務への算入を挙げている。このうち(4)の金融セクター支援による債務増加分は、9月28日の外部ストレステスト発表時に政府が要請額の目安として示した400億ユーロで、GDP比4%程度となっている(注2)。

<歳出削減と増税で市場にアピール>
こうした中で、EUによる国内銀行セクターの資本増強支援などの条件として、また市場の信認回復のため、財政赤字削減を求められる政府は、歳出面では公務員給与の据え置き延長やインフラ投資凍結などを通じて省庁予算を8.9%削減する。社会支出でも失業給付支出(6.3%減)の縮小など大幅な削減を実施し、国家予算全体の経常支出を7.3%削る。

歳入面でも、2012年中に導入された多くの直接・間接増税の継続(2012年5月16日記事参照)に加え、大企業向け法人税の控除制限の強化、宝くじ当選金課税の導入など(表1参照)を通じて、4.0%の経常収入増を見込む。また、財政監視機関の設置など43に及ぶ構造改革を打ち出し、財政健全化を後押しする。

表12013年予算案で示された税制改正と財政効果

クリストバル・モントロ財務・公共行政相は「2013年予算は、資金調達環境の改善と景気回復のみを目的としている」と述べ、市場に財政再建の取り組みをアピールした。2013年も2,070億ユーロの国債発行・借り換えが予定されている。

<2013年の財政赤字目標達成は困難か>
政府は「2012年の一般政府財政赤字目標であるGDP比6.3%は必ず守る」と断言している。しかし、この目標がたとえ達成できたとしても、13年の目標達成は困難との見方が多い。

政府は2013年の実質GDP成長率をマイナス0.5%としており(表2参照)、他機関の予測(IMF見通しはマイナス1.3%)よりもはるかに楽観的だ。「13年は後半に景気底打ちが予測される。これに弾みをつけて財政危機から脱出するための予算だ」という(モントロ財務・公共行政相)。

しかし、2013年の財政赤字目標(GDP比4.5%)を達成するには、前年から1.8ポイント、つまり180億ユーロ規模の赤字削減が求められる。マイナス成長の逆境下では、実際にはこれを上回る規模の緊縮努力が必要なため、政府は2013年単年で259億ユーロ規模の緊縮策を打つ(表3参照)。景気への悪影響が懸念される。

表2財政健全化目標(GDP比)とGDP成長率の見通し
表3今後3年間の緊縮財政措置

過去2年間にわたり、緊縮財政による景気下振れによって財政健全化が遅れるという悪循環が続いている(図参照)。政府は追加緊縮と景気底打ちとの相乗効果に期待をかけるが、むしろこの悪循環の加速を懸念する声が多い。スペイン中央銀行のリンデ総裁は「政府の成長見通しが極めて楽観的で、本気で目標を達成するには追加緊縮策が必要」と指摘する。

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<州議会選挙を前に過熱する財政問題>
財政健全化のネックとされる自治州の財政赤字は、2012年6月末時点でGDP比0.93%(2012年通年目標は1.5%)に達している。これは目標を大幅に逸脱した11年と同様の推移で、予断を許さない状況だ。また政府が2012年7月に承認した180億ユーロの融資枠(12年中の州債償還や銀行融資の借り換え支援)には、カタルーニャ州やアンダルシア州など5州が既に支援要請を表明している。

他方、2012年10月末から11月末にかけて3州で州議会選挙が予定されていることから、財政問題も政治的駆け引きに利用されている。特に厳しい緊縮を強いられるカタルーニャ州では、求心力が低下している与党・カタルーニャ同盟(CiU、中道右派・地方主義)が州議会選挙を2年前倒しし、政権疲弊が進む前にスペインからの独立について民意を問う意向を明らかにした。しかし、これは多分に選挙対策の色合いが強い。「現在の苦境は、EUや中央政府からの欧州債務危機のしわ寄せの結果」「州が財政主権を持てば解決される」などと主張し、財政問題を「独立」と結び付けることにより、緊縮財政に不満を持つ州民の支持を地方主義に向けさせようとするものだ。他方、これまで同州政府が中央政府に対し独立を正式に提起したことはない。

こうした地方主義を主張するCiUのダブルスタンダード(二枚舌)は今に始まったことではないとされるが、EUや国際金融市場から注視される状況下でのCiUの政局重視の姿勢には、政界や経済界からも批判が多い。事実、2012年9月下旬にマス・カタルーニャ州首相が「独立を州民に問う」と発言した翌日に、国債利回りが悪化。ラホイ首相は10月2日の自治州首相会議で、全州首相に対し、2012、13年の財政規律の順守、および政府が今後EFSF支援を要請した場合の全面的賛同を約束する文書に署名させるなど、国外へのアピールを余儀なくされた。

注目されるスペインのEFSF支援要請(または要請の要否、注3)決定のタイミングだが、支援承認のカギを握るドイツの南欧支援をめぐる国内調整や、前述のスペインの州議会選挙といった政治的事情により、10月下旬ごろに持ち越される可能性が強まっている。

(注1)社会保障基金や国営機関を含む連結国家予算。なお、大部分の措置は2012年7月に決定済み(2012年7月18日記事参照)
(注2)同ストレステストにより国内金融機関の資本不足額は593億ユーロ(現在進行中の合併・統合や税効果資本を考慮した場合は537億ユーロ)だが、一部は市場調達、株主損失負担、事業売却でカバーできるため。
(注3)欧州中央銀行(ECB)はスペインなどの国債買い入れの発動要件として、EFSF支援条件の順守(つまり、EU、ECB、IMFによる財政監視)を定めている。

(伊藤裕規子)

(スペイン)

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