法人税を20%に引き下げ、所得税率は3段階に-政府と議会共和党指導部が税制改革案を発表-

(米国)

ニューヨーク発

2017年10月16日

政府と議会共和党指導部は9月27日、法人税率の20%への引き下げなどを盛り込んだ税制改革案を発表した。トランプ大統領は、中間層のために減税し、税制を簡素化して全ての米国人にとって公平なものにする、と強調している。年内の法案成立を目指しているものの、改革案は詳細を詰めていく過程で多くの調整が必要で、議会審議も難航することが見込まれる。

法人税では共和党側に妥協

政府と議会共和党指導部は9月27日、合同で税制改革案「壊れた税制度を直すための統合した枠組み」を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。税制改革による法人税と個人所得税の引き下げは、トランプ大統領の選挙公約の主要な柱の1つだった。一方、下院共和党も2016年6月に税制改革案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(共和党ブループリント)を発表し、その実現を目指してきた。

トランプ大統領は4月26日に税制改革案の骨子を発表しており、その後、政府と共和党指導部の間で改革案の調整が進められていた(2017年5月12日記事参照)。7月27日には、ビジネス界などから反対の声が大きかった国境調整税の導入を断念することを発表している(2017年8月2日記事参照)。

今回発表された改革案は4月の政府案の骨子と大きく変わらないが、税率の面では共和党ブループリントに近い内容となっている(表参照)。改革案は主に法人税と個人所得税の部分に分かれ、法人税については、現行の最大35%から20%への引き下げが示された。トランプ大統領は選挙公約では15%への引き下げを掲げ、4月に発表した政府案の骨子でも15%としていたが、最終的には共和党指導部に妥協したものとみられる。

表 税制改革案(法人税)の概要
項目 現行制度 政府・共和党
指導部案
(2017年9月27日発表)
政府案
(2017年4月26日発表)
下院共和党案(ブループリント)(2016年6月発表)
連邦法人税の最高税率 35% 20% 15% 20%
パススルー事業体の所得に対する最高税率 39.6%
(個人所得税)
25% 15% 25%
課税方式 全世界所得課税+外国税額控除制度(注) 源泉地課税方式 源泉地課税方式 源泉地課税方式
海外留保利益への課税 米国への資金還流時に課税 一度きりの課税 一度きりの課税 一度きりの課税(現金および現金同等物に対しては8.75%、それ以外は3.5%)

(注)海外で支払った税金を米国の税額から控除する制度。
(出所)政府資料、「Unified Framework For Fixing Our Broken Tax Code」など

パススルー事業体(株式会社以外の事業体)に対しては、これまで個人所得税の最高税率39.6%が最大だったが、25%に引き下げられた。政府案骨子で示されていた15%までの引き下げは見送られた。一方、企業の代替ミニマム税(税優遇措置による恩典が大企業に集中しないよう調整するための税)は廃止される。また、投資費用については、少なくとも5年間は即時の償却を可能とする。

また、海外に留保している利益の米国内への還流を促すために、4月の政府案骨子と同様、源泉地課税方式が導入されることになった。これにより、海外からの利益送金には課税されなくなる。現行制度は全世界所得課税方式と呼ばれ、海外で支払った税額分は控除されるものの、海外から利益を米国に還流させた時点で課税される。政府は移行措置として、現在、海外に留保している利益については、1度限り低税率の課税を行うとしているが、税率は明記されなかった。政府によると、海外留保利益は2兆8,000億ドルに上るという。

個人所得税については、現行の7段階の税率(10~39.6%)が3段階(12%、25%、35%)に変更される。こちらも4月の政府案骨子とほぼ変わらないが、最低税率は10%から12%に引き上げられている。ただし、各段階に適用される所得水準は明示されていない。基礎控除を現行の約2倍に拡大するほか、子供のいる世帯の控除を拡大させるものの、それ以外の項目別控除の多くは富裕層が主に利用しているものとして、廃止するとしている。一方、遺産税は廃止する。

予算決議案の可決が前提条件

トランプ大統領は今回の税制改革案を、インディアナ州インディアナポリスでの集会で発表した。「この税制改革の実現は一生に一度のチャンスだ。中間層のために減税し、税制を簡素化して、全ての米国人にとって公平なものにする。それによって、雇用と富を米国に取り戻す」と語り、税制改革の意義を強調した。

政府案の骨子と異なり、今回は議会共和党の指導部と合同で改革案を発表しており、改革の実現性という点では一歩前進といえるものの、実現までの課題も多い。まず、改革実現の前提条件とみられるのが、歳出、歳入、財政赤字、債務残高の限度など予算の大枠を示す2018年度予算決議案の可決だ。ポイントは、予算決議案に財政調整措置として税制改革法案を指定することで、上院でも過半数で税制改革法案が可決できるようになる点だ。上院には審議時間を制限するルールがないため、少数党による議事妨害(フィリバスター)が可能だが、財政調整措置に基づく法案は議事妨害を受けることなく過半数の賛成で可決できる。これに対して、税制改革法案を財政調整措置に指定しなかった場合、フィリバスターを打ち切るためには上院の全議員の5分の3(60議席)以上の賛成が必要だが、現在、上院の共和党議員は52人なので、現実的には法案を成立させるのは困難になる。

現在、2018年度予算決議案は上院と下院で別々に作成され、下院の予算決議案は10月5日に本会議において賛成多数(賛成219票、反対206票)で可決された。反対票は全民主党議員と18人の共和党議員だった。上院の予算決議案も同日に予算委員会で可決されており、近く本会議で採決が行われる見通し。ただし、下院の予算決議案が税制の中立を求めて財政赤字の拡大を認めていないのに対して、上院決議案では向こう10年間で1兆5,000億ドルの財政赤字増を許容する内容になっており、上院での可決後に予算決議案の内容を両院協議会で調整し、再び両院の本会議で承認される必要がある。しかし、この過程で財政赤字の許容額(減税額)が固まるため、その後の税制改革案の議論は進めやすくなるとみられる。

政府・共和党指導部は年内成立を目指す

また、予算決議案の可決とともに、今後、税制改革案の詳細を詰め、法案化していく作業が必要だ。例えば、今回の税制改革案では、新たな3段階の個人所得税に適用される所得水準、廃止される控除項目などはほとんど明らかになっていない。減税によって経済成長が加速することで一定程度の税収増を見込むにしても、財政赤字を予算決議案によって認められた範囲内に収めるために、相応の増収策を盛り込む必要がある。オバマケア廃止の頓挫、国境調整税の見送りなどで大きな財源が見当たらない中、その作業は容易ではないとみられている。

財政タカ派の議員からは財政赤字悪化への警戒感は根強い。ボブ・コーカー議員(上院、テキサス)は、財政赤字を減らさないのであれば税制改革案は支持しないと発言している。税制改革の細部についても、影響を受ける地域や業界に利害関係を持つ議員からさまざまな異論が出てくる可能性がある。例えば、減税の穴埋めの有力候補とされている州税・地方税の控除廃止については、特に税率の高いニューヨーク州やカリフォルニア州などの住民への影響が大きく、これらの州選出の議員は賛成しにくいとみられる。また民主党議員からは、個人所得税の最高税率の引き下げや遺産税の廃止は富裕層の優遇だと批判が出ている。

2018年に入ると11月の中間選挙が視野に入ってくるため、各議員が選挙で有権者に不評を買うような妥協が一層難しくなる。このため、政府・議会共和党指導部は年内に税制改革法案を成立させる構えだが、多くの調整が残されており、議会審議も難航することが見込まれる。

(若松勇)

(米国)

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