トランプ政権と議会共和党、国境調整税の導入を断念-税制改革に関する共同声明を発表-

(米国)

ニューヨーク発

2017年08月02日

トランプ政権と共和党の議会指導部は7月27日、税制改革に関する共同声明を発表し、国境調整税の導入を断念する方針を示した。同税の導入に反対してきた流通業界やアパレル業界は今回の決定を支持する声明を出している。ただし、同税に代わる税源や税制改革の具体的な内容は示されていない。声明は2017年秋中に税制改革案の議会関連委員会の通過を目指すとしているが、共和党内の調整には引き続き時間がかかるとの見方もある。また、国境調整税に代わる代替税源が見いだせない場合は、法人税率の引き下げ幅が縮小される可能性もある。

共和党として足並みがそろったことを強調

7月27日の共同声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますは、共和党の議会指導部のポール・ライアン下院議長(ウィスコンシン州)とミッチ・マコーネル上院院内総務(ケンタッキー州)、議会で税制を所管する上院財政委員会のオリン・ハッチ委員長(ユタ州)と下院歳入委員会のケビン・ブレイディ委員長(テキサス州)、トランプ政権のスティーブ・ムニューシン財務長官とゲイリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長の6人が共同で発出したものだ。

トランプ政権は4月26日に政権の税制改革案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を公表し、議会共和党との調整を進めてきた(2017年5月12日記事参照)。今回の共同声明は、トランプ政権と議会共和党が税制改革に向けて足並みをそろえたことを強調する内容になっている。共同声明では「われわれは税制改革に向けた共通のビジョンを持っていると確信している」とし、「2つの関連委員会(上院財政委員会、下院歳入委員会)の主導により、大統領が署名する法案作成に取り組む準備が整った」と述べている。

流通やアパレル業界は国境調整税の導入見送りを歓迎

共同声明は、税制改革の目標として、最大限の税率引き下げ、(設備投資の即時償却などを認めることによる)資本支出の最大化、税制改革の恒久化の重視、海外利益の本国送還の促進、などを掲げている。

下院共和党が求めてきた国境調整税(注1)の導入は断念された。「われわれは国境調整を行うことによる経済成長の促進効果について議論してきたが、導入には未知な部分が多いとの認識に至った。税制改革を前進させるために、この政策の導入を見送ることにした」と明記している。

ブレイディ下院歳入委員長は「国境調整税が米国内の雇用維持にとって最良の解決策だと依然信じている」としながら、「われわれが団結する上では、今はそれを一度、脇に置いておくことが大切だ」と述べている。国境調整税については、トランプ大統領や上院共和党の議会指導部からも異論が出ており、政権が4月に示した前述の税制改革案にも同税の導入は盛り込まれなかった。今回の声明により、下院共和党の指導部としても正式に導入を断念した格好だ。

流通業界やアパレル業界など国境調整税に反対してきた業界団体は、今回の共同声明を支持している。

全米小売業協会(NRF)は「消費者に負担を転嫁する国境調整税を導入せずに税率を引き下げる包括的な税制改革法案の可決に全力で取り組むことを、政権と議会指導部が宣言したものだ」として声明を歓迎した。NRFは、輸入品を税額控除の対象外とする国境調整税が導入されれば、コストが消費者に転嫁されることで、一般家庭に年間最大1,700ドルもの追加支出が生じるとの分析を示している。

米国アパレル・履物協会(AAFA)も、ビジネス界やその他関係者の「国境調整税の導入は米国の企業や雇用または消費者を害する」という懸念の声を米国政府や議会指導部が聞き、同税の導入によって生じる困難な問題と不確実性を理解してくれたことに感謝するとの声明を出した。

法人税率の引き下げ幅縮小の可能性も

共同声明は今後の見通しについて、「今秋中に税制改革案が上下両院の委員会を通過し、両院の審議にかけられることを期待している」とした。米国商工会議所は「今回の声明とそこで示された統一されたビジョンにより、税制改革が年内に成立する可能性があるとの確信をさらに深めた」とし、税率の引き下げを含む税制改革の早期実現に期待を示している。

ただし、税制改革の実現には依然多くの調整が必要だとの見方が多い。民間調査機関タックスポリシー・センター(TPC)は、法人税や個人所得税の具体的な税率や、法人税率のパススルー事業体(株式会社以外の事業体)への適用など、税制改革の詳細は不透明だとし、「共和党指導部が現在議論している内容が今回の文書にそのまま表されているのだとすれば、税制改革案の作成までにはまだ長い道のりがある」との見解を示している。

また、TPCは「政権や議会指導部は『アメ(Sweeteners)』を多く含んだ税制改革案の目標を示しているが、それらの実現に向けた資金をどう調達するかについては何も語っていない」とし、国境調整税の導入が見送られた一方で、代替税源が示されていないことを指摘している。民間調査機関タックス・ファウンデーションも「税制の簡素化や恒久化などの税制改革が実現すれば、米国人の税負担の軽減と米国経済の成長につながる」と税制改革自体は歓迎する一方、「国境調整税による1兆3,000億ドルの税収が見込めない状況では、法人所得税の引き下げを相殺するために、議員はその他の税源を探すか支出を減らすか、または法人税率の引き下げ幅をより小さくしなくてはならない」と述べている。タックス・ファウンデーションのシニアアナリストのスコット・グリーンバーグ氏は、国境調整税が導入されない場合、「税収中立」(減税による減収分を別の財源で補うこと)を維持するのであれば、法人税率は最も低くて27%への引き下げとなる」との分析を示した(ブルームバーグ7月28日)(注2)。

(注1)生産地ではなく、消費地をベースに課税(仕向け地課税)を行うもので、法人課税において、輸出品を益金不算入とし、輸入品の損金算入を認めない税制度。国内品に対して輸入品を不利に扱うため、輸入が多い企業や団体を中心に米国事業への影響を懸念する声が強い。

(注2)連邦法人税の最高税率をめぐっては、トランプ大統領は15%、下院共和党は20%への引き下げを提案している。なお前出のブルームバーグ(7月28日)は、2008~2015年の期間において米国の大企業150社以上が支払った税率は28%以下との研究結果を紹介し、現行の35%から28%への税率引き下げはこれらの企業にとっては大きな意味はないと分析している。

(鈴木敦)

(米国)

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