欧州委、造船・海運や港湾の競争力・経済安保の強化に向けた戦略を発表
(EU)
ブリュッセル発
2026年03月10日
欧州委員会は3月4日、造船や海運に関する海事産業戦略と港湾戦略を発表した(プレスリリース
)。欧州委は、地政学的環境が不安定化する中で、造船などの海事製造(注1)と海運をEUの戦略的自律性を確保する上で不可欠な産業と、港湾を物流・旅客輸送における重要インフラと位置付ける。そこで、両戦略は、脱炭素化やデジタル化といった従来の目標に、競争力強化、経済安全保障、防衛力強化の観点を加え、欧州委が加盟国と協力し実施する措置をまとめたものだ。
まず、海事産業戦略では、EU域内での一定規模の商業造船の維持は、域内サプライチェーンや主要技術・ノウハウの確保など、軍事造船を支える上で重要だと指摘する。EUは、クルーズ船、軍艦、砕氷船、調査船、海底ケーブル敷設船、洋上風力支援船、浮体式プラットフォームなど、高度技術を要する特種船において依然優位性を持つ。そこで欧州委は、こうした産業的潜在力の高い分野に政策努力を集中させる必要があるとし、官民合同の「EU海事産業バリューチェーン・アライアンス」を設置する。
また、2030年までにデジタル化、先進ロボティクス、人工知能(AI)、エネルギーの効率化などを活用し、よりスマートでクリーンな海事製造を推進すべく、研究開発支援を実施する。さらに、域内の海事製造業の長期的な需要喚起策として、各加盟国の公共調達案件を集約的に提示するほか、今後実施予定の公共調達枠組みの改正で非価格基準を導入する。
加えて、欧州委は、「欧州再軍備計画」(2025年3月21日記事参照)を通じ、加盟国による海軍関連の産業強化を支援するほか、非常時の兵員や車両などの迅速かつ効率的な輸送を可能にすべく、軍民両用フェリー建造支援メカニズムを提案する。
一方、港湾戦略では、欧州委は、港湾施設について高リスク事業者による所有・運用を制限すべく、対内直接投資審査規則(2025年12月16日記事参照)の適切な実施に向け、外国投資評価ガイダンスと外国投資をマッピングし監視する枠組みを策定する。これは、EUの経済安保方針(2025年12月12日記事参照)に沿ったものだ。また、欧州委は港湾施設の電化に引き続き注力し、今後発表予定の電化行動計画において新たな支援策を提示する。
このほか両戦略は、海運分野の脱炭素化策であるEU排出量取引制度II(ETS II、注2)やFuelEU海事規則にも触れており、競争力強化に向け、排出量の測定・報告・検証(MRV)規則の簡素化を含め、実施上の課題を検討する方針を示している。
(注1)造船のほか、船舶の修理、港湾・海事関連の装備生産など幅広い産業活動およびサービスが含まれる。
(注2)調査レポート「EU ETSの改正およびEU ETS II創設等に関する調査報告書(2024年5月)」を参照。
(吉沼啓介)
(EU)
ビジネス短信 8a63e0723d316c51






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