コストコがIEEPA関税還付を求め提訴、背景には還付の不確実性と異議申し立ての期限
(米国)
ニューヨーク発
2025年12月04日
米国大手会員制量販店のコストコが、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税措置は違法だとして、これまでに同社が支払ったIEEPA関税を全額還付するよう、トランプ政権を相手に11月28日付で米国国際貿易裁判所(CIT)に提訴した。背景には、関税還付手続きに対する不確実性がある。
IEEPAに基づき課されている相互関税と、合成麻薬フェンタニルなどの流入阻止を目的としたメキシコ、カナダ、中国に対する追加関税は、ワインの輸入販売などを手掛けるニューヨークの企業などが起こした裁判において、5月にCITで無効と判断された(2025年5月30日記事参照)。だがその後、政権が上訴し、現在もIEEPA関税は継続したまま、連邦最高裁判所で審理されている(注1)。
最高裁がIEEPA関税を無効と判断するかどうかは現時点ではわからないものの、仮にIEEPA関税が無効と判断された場合、企業にとっては既に支払った関税の還付が焦点となる。相互関税は基本的に全ての国・地域からの全ての品目の輸入に課しているため(注2)、還付される企業数は莫大だ。だが最高裁は6月に、別の裁判の判決で、訴訟に基づく救済措置は訴訟を起こした原告に対してのみ行うべきとの趣旨の見解を示している。また、11月5日に行われたIEEPA関税に関する口頭弁論では、原告側の弁護士が「最高裁に提訴された案件に直接関わる企業のみ、関税が撤廃された際に自動的に還付を受ける権利を有する」と述べ、「その他の企業は異議申し立てをしなければならない可能性が高い」と指摘した。米国通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表も、口頭弁論翌日の11月6日に、仮にIEEPA関税が無効と判断された場合、特定の原告に還付される一方、それ以外は方法を検討する必要があると述べている(2025年11月7日記事参照)。
コストコが今回、最高裁の判決が出る前からIEEPA関税の全額還付を求める訴訟を起こしたのは、こうした還付を巡る不確実性が背景にあるとみられる。実際、訴状には、「IEEPA関税を支払った輸入業者が、自ら判決および司法救済を得なければ、違法に徴収された関税の還付は保証されない」と記載している。
また、関税還付の異議申し立てを行うにあたり、一定の期限があることも関係している。米国では、輸入者が輸入時に納入する関税は推定関税(Estimate Duty)となっており、米国税関・国境警備局(CBP)はその後、通常314日以内に確定関税を通知する。ここで推定関税と差異があれば、この差額分が徴収もしくは還付される。これを関税清算(Liquidation)という。清算後も異議申し立てはできるが、180日以内に行う必要がある。
日系企業でも複数社が同様の訴訟を起こしている、と報道されているほか、通商専門誌「インサイドUSトレード」(12月2日)によれば、鉄道機器メーカーなども同様の訴訟を起こしている。11月の口頭弁論では、判事から政権側に厳しい質問が投げられたことから、最高裁はIEEPA関税を無効と判断するのではないか、との予測も出ている。ただし、法律事務所などの見解では、いまだ判決はどちらに転ぶかわからないとする慎重な見方もある。企業は、これら状況に鑑みながら、これまでに支払ったIEEPA関税の総額を踏まえた判断が求められる。
(注1)争点の1つは、IEEPAを基に関税を課すことができるかにある。IEEPAの条文には「輸入を規制する」との文言はあるが、「関税を課す」とは明記されていない。IEEPAを基に関税を課した大統領は、ドナルド・トランプ大統領が初めて。また、関税を課す権限は、憲法上、連邦議会にある一方で、大統領にどの程度まで関税を課す権限が移譲されているのかも争点の1つ。米国では、貿易相手国による不公平な慣行への対処など、特定の場合に限ってのみ、関税を課す権限を大統領に移譲する法律がある。そのため、IEEPAが全ての国・地域からの輸入品に対して、無制限に関税を課す権限を大統領に移譲しているかも審理されている。
(注2)ただし、相互関税の対象外となる例外品目も規定されている(2025年11月17日記事参照)。
(赤平大寿)
(米国)
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