欧州テクノロジー業界、EUの電化促進に向け提言書を発表

(EU)

ブリュッセル発

2025年11月17日

欧州機械・電気・電子・金属加工産業連盟(ORGALIM)は11月5日、EUの電化促進に向けた提言書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

欧州委員会は2025年に入り、競争力強化と脱炭素化の両立に向け「競争力コンパス」(2025年2月6日記事参照)や「クリーン産業ディール」(2025年3月4日記事参照)を発表し、エネルギー価格の引き下げや送電網整備なども重点施策に掲げている。しかし、中国や米国に比べ、EUは電化に後れを取り、電力価格は高水準にある。提言書はその要因として、低炭素電力の供給不足や電力の価格変動が激しいことを挙げ、インフラの老朽化、送電網への接続やデジタル化の遅れを指摘した。

そこで、企業の電化に向けた投資や、電力需要の増加を見越した低炭素電力供給システムの整備を促進するためには、需要と電力供給の両面から包括的なアプローチが必要と主張した。長期的な投資促進の観点から、脱炭素化目標の設定は支持するが、産業部門別の電化目標の設定には反対した。企業が電力、水素または代替燃料など自社に最も適した脱炭素化手段を選択し、さまざまな技術を組み合わせることを可能とすべきとした。明確で一貫性があり、長期的な視点に立った政策が重要と強調し、脱炭素化に向けた企業の取り組みやEUの競争力強化には予測可能な規制環境が不可欠と述べた。

加えて、(1)電力価格と電力市場、(2)インフラ整備、(3)投資、(4)エネルギー需要、(5)電化技術の観点から、EUに対し施策を提言した。このうち、(1)について、電力価格の引き下げは、工業生産の電化のみならず、社会全体の電化に必要な新たな製造手段への投資の活性化にもつながると主張。平均で天然ガスに比べ3~3.5倍高い電気料金にかかる税と賦課金の負担の軽減や、欧州投資銀行(EIB)による保証の拡充など電力購入契約(PPA)の推進などを提言した。

また(3)に関しては、2040年までに必要なエネルギーインフラ整備への投資額は約2兆240億ユーロとの欧州委の試算に言及し、大規模投資が必要との認識を示した。産業界主導の革新的な電化事業のリスク低減に資する公共投資や、中小企業を対象とする財政面、技術面における公的支援の拡充を提言。公共投資は事業の開始段階やリスク低減に重点を置き、あわせてタクソノミー規則やエネルギー課税といった規制を通じ、適切な市場条件を整備することで、民間投資を促すべきと述べた。また、現行の排出量取引制度(EU ETS)および新たに導入予定のEU ETS II(注)はコスト効率性や透明性が高く簡素な制度にし、十分に機能させれば、追加の気候中立実現に向けた政策手段は不必要とした。

(注)調査レポート「EU ETSの改正およびEU ETS II創設等に関する調査報告書」(2024年5月)を参照。

(滝澤祥子)

(EU)

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