一般関税率を大幅に引き上げる法案の委員会審議期限を2027年8月末まで延長

(メキシコ)

調査部米州課

2025年11月06日

メキシコ連邦下院の経済通商競争委員会は10月28日、行政府が9月上旬に国会に提出した輸出入関税法(LIGIE)改正案(2025年9月16日記事参照)の最終法案策定期限を2027年8月末まで延長する決定を下し、2025年11月3日付の下院公報で周知した。本来、下院規則第182条に基づき、各委員会は法案の受領から45営業日以内に本会議の採決にかける最終法案に仕上げなければならない。ただし、同第183条に基づき、委員会が最終法案策定期限を延期すべきと判断した場合、下院執行部に通知することで当国会期限(注1)まで延長することが可能。今回、同通知が行われたことにより、一般(MFN)関税率を引き上げる法案の審議は、当面の間凍結されるものとみられる。ただし、メキシコでは憲法第131条および貿易法第4条に基づき、行政府が輸出入関税率表(TIGIE)を変更する政令を公布することで、法改正を伴わずに関税引き上げが可能だ。そのため、MFN関税率が行政府の判断で今後引き上げられる可能性は残る。

下院が法案審議を遅らせた背景には、国内外からの反発がある。MFN関税率引き上げは、中国、韓国、タイなど、メキシコと自由貿易協定(FTA)を締結していない国の産品に影響を与える。中国政府は9月25日、メキシコの関税率引き上げに強く反発し、メキシコに対する貿易投資障壁調査を開始すると発表した(2025年9月29日記事参照)。以前から中国は、メキシコの製造業で用いられる電子部品などの中間財、金型や工作機械などの資本財の重要な供給国だ。さらに近年は、中国資本の自動車メーカーのメキシコ市場参入が加速し、欧米メーカーの中国生産車種と合わせれば、2024年の中国製自動車のメキシコ国内販売市場に占めるシェアは20.2%(注2)に及ぶ。法案では、自動車(完成車:新車)に対する関税が現行の15~25%から50%に引き上げられる予定だった。中国ブランドの自動車ディーラーも傘下に持つメキシコ自動車ディーラー協会(AMDA)は、関税引き上げが国内800カ所のディーラーで働く3万2,000人の雇用を危うくすると警告していた(「レフォルマ」紙9月10日付)。自動車部品工業会(INA)も、北米で生産されていない部品や素材が存在し、メキシコとFTAを締結していない国の部材がメキシコにおける製造プロセスを補完しているとコメントしていた(「エル・エコノミスタ」紙9月9日付)。

関税率の急な変更への備えとしてのPROSEC取得

行政府が政令で関税率を引き上げる場合、官報公布翌日からの施行があり得る。影響を最小限にするため、現地生産者が製造に用いる部材を輸入する場合は、産業分野別生産促進プログラム(PROSEC、注3)の活用を検討すべきだろう。ただし、PROSECでは、現行MFN関税率が0%のものは優遇関税の対象となっていない。この場合でも、レグラオクターバ(注4)を申請して関税を回避する選択肢があるが、レグラオクターバはPROSEC登録企業しか申請できないため、現時点で必要なくてもPROSECに登録しておいた方が無難だろう(注5)。

(注1)2024年9月1日に始まった第66国会は、2027年8月31日に終了する。

(注2)国産車も含めた国内販売総数に占める中国製自動車の比率。ただし、国立統計地理情報院(INEGI)に届け出を行っていない比亜迪(BYD)の車種は除く。メキシコで最も中国製自動車を販売しているのは米国系ゼネラルモーターズ(GM)で、2024年は小型車アベオを中心に13万1,822台を販売した。

(注3)メキシコが国内生産を促進する24業種(自動車産業は第XIX業種)において、生産に用いる部品・原材料や機械設備をMFN税率よりも低い優遇税率で輸入することを可能にするプログラム。

(注4)PROSECに登録している生産者は、PROSEC対象となっていない部品・原材料が国内で調達できない、または国内供給能力が不足しているなどを理由に、経済省に対して特別無関税輸入許可を申請することができる。この制度のことを「レグラオクターバ」と呼ぶ。特別輸入許可の有効期限は1年で、申請した数量枠内での無関税輸入が可能になる。

(注5)例えば、HS4016.93.06のゴム製ガスケット、ワッシャーその他のシール材は、現時点でMFN関税率が0%。そのため、PROSECの優遇関税が設定されていない。しかし、行政府が国会に提出したLIGIE改正法案では、同品目の関税率が35%に引き上げられる予定だった。PROSEC対象外品目のMFN関税率が引き上げられた場合、PROSECの適用はできないが、PROSEC対象企業に認められるレグラオクターバを申請し、無関税輸入許可を取得すれば、申請数量枠内で関税が免除される。PROSEC登録のない企業は、同登録から始める必要があるため、同対応が遅れてしまう。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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