一般関税率を大幅に引き上げる輸出入関税法改正案を国会に提出

(メキシコ)

調査部米州課

2025年09月16日

メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は9月9日、2026年の歳入法案および歳出計画の国会提出に際し、歳入関連法案の一環として、一般(MFN)関税率を大幅に引き上げる輸出入関税法(LIGIE)の改正案を国会に提出した。メキシコでは、貿易法第4条に基づき、輸出入関税率表(TIGIE)を変更する政令の公布により、法改正を伴わずに関税引き上げが可能だが、今回は2026年歳入関連法案として法律を改正する手段をとった。法改正は、上下両院の過半数の賛成を経て成立する。今回の改正では、繊維・縫製品、鉄鋼・同製品、自動車部品、自動車など合計1,463品目(メキシコのHS8桁ベース)の関税率を引き上げる。対象品目や税率については添付資料表を参照。法改正の官報公布の30暦日後に適用が開始され、2026年末までの時限措置となっている。

対象品目をみると、繊維・履物や鉄鋼・同製品などのセンシティブ品目に加え、自動車や自動車部品も対象になっている。政府は関税率引き上げの目的として、センシティブ産業における中間財や最終製品の国内生産促進、原材料の輸入依存低下を通じた国内生産能力およびメキシコ国内の付加価値向上、不公正な貿易慣行や外国の補助政策から国内産業を保護し、公正な通商条件を確保することを挙げている。メキシコがWTOに約束した譲許税率(注1)の範囲内の引き上げで、自動車(EVなど電動車も含む)は50%、自動車部品は大半が35%まで引き上げられる。なお、鉄鋼や繊維などセンシティブ品目の一部には、2024年に実施されたTIGIE変更政令(2024年4月25日2024年12月25日記事参照)に基づき、既に35%や50%まで関税が引き上げられていた品目もある。

FTAやPROSECなど関税削減プログラムの活用が重要に

MFN関税率の引き上げは、メキシコと自由貿易協定(FTA)を締結する国の原産品に対しては影響を及ぼさない。日本はメキシコとの間で日本メキシコ経済連携協定(日墨EPA)や環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)を締結しているため、日本の原産品にはそれらの協定に基づく税率(大半が0%)が適用される。

今回の改正が実現した場合に、進出日系企業への影響が大きいのは、自動車部品の関税だろう。進出日系企業の中には、メキシコがFTAを締結していないタイから自動車部品を輸入している企業が多い。タイ製自動車部品を輸入する場合、現地で自動車や自動車部品を生産する企業であれば、産業分野別生産促進プログラム(PROSEC、注2)の優遇税率(0~3%)が活用できる。鋼材や繊維素材などPROSEC対象外の品目を輸入する場合は、レグラ・オクターバ(注3)の活用を検討するべきだろう。なお、PROSECやレグラ・オクターバは製品の生産に用いる部品・原材料に対する優遇措置であるため、補修部品などアフターマーケット用部品の輸入には適用できない。したがって、アフター用の部品については、日本などFTA締結国からの輸入に切り替えるなどの対応が求められる。

(注1)WTO加盟国が関税および貿易に関する一般協定(GATT)のウルグアイラウンド交渉において、他のWTO加盟国に対して約束した上限税率。関係国の合意なく譲許税率以上に一般関税率を引き上げた場合はWTO違反になるが、上限税率の範囲内であれば、各国政府の裁量に基づき、最恵国待遇(MFN)税率を変更(引き上げ、または引き下げ)することが認められている。

(注2)メキシコが国内生産を促進する24業種(自動車産業は第XIX業種)において、生産に用いる部品・原材料や機械設備をMFN税率よりも低い優遇税率で輸入することを可能にするプログラム。詳しくは「外資に関する奨励 メキシコ」を参照。

(注3)PROSECに登録している生産者は、PROSECの対象となっていない部品・原材料が国内で調達できない、または国内の供給能力が不足しているなどを理由に、経済省に対して特別無関税輸入許可を申請することができる。この制度のことをレグラ・オクターバと呼ぶ。特別輸入許可の有効期限は1年で、申請した数量枠内での無関税輸入が可能になる。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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