経済諮問委員会、ドイツ経済の現状と政策課題を整理
(ドイツ)
ベルリン発
2025年11月26日
ドイツ政府の経済諮問委員会(通称「五賢人委員会」)は11月12日、2025/2026年次報告書を発表した(ドイツ語
、英語
)。ドイツ経済は2023年(マイナス0.7%)、2024年(マイナス0.5%)と2年連続で景気後退し(2025年9月2日記事参照)、2025年も停滞が見込まれる。2025年の実質GDP成長率見通しは0.2%と前回6月の予測である0.0%から小幅に上方修正され(2025年6月3日記事参照)、2026年は0.9%と予測されている。報告書はドイツの経済成長を促す一方で、構造転換に伴う社会的・地域的摩擦を抑えるという課題を抱えているという見方を示し、インフラ投資・気候中立のための特別基金(2025年3月24日記事参照)から生じる機会を逃してはならないと強調した。
経済成長を抑制する要因として、ウクライナ紛争に伴う地政学的変化による国際貿易の変化、米国の保護主義的関税政策の不確実性、輸出市場での価格競争激化などを指摘。特に輸出依存度の高い化学品、自動車・機械などのエネルギー集約型産業では、競争力の低下により輸出が伸び悩んでいる。国内構造改革については、(1)過剰な官僚主義(行政手続き)、(2)雇用にかかる社会保険料などの負担の大きさ、(3)デジタル化と気候中立化への投資不足への対応を求めた。
財政面では、連邦政府が策定した財政パッケージを評価する一方、それが成長投資の確保につながるかどうかは不透明との見方を示した。インフラ投資・気候中立のための特別基金について、2030年までに支出予定の2,260億ユーロのうち、現状では追加的に支出が予定されているのは980億ユーロで、残りの1,280億ユーロはすでに予定されていたプロジェクトに使用される予定となっており、結果として追加支出は全体の50%未満である点を懸念。通常予算からの予算付け替えを防ぎ、また同基金の使途が消費的支出に偏ることを防ぐため、拘束力のあるルールを求めている。
委員会は、ドイツの高い税負担と税制度設計により企業の投資判断が歪(ゆが)められているとし、中長期的には税制上の歪みを是正し企業課税の中立性を高める必要があると指摘。投資の即時償却を含むキャッシュフロー課税の検討、事業承継制度の見直しなどを提示した。EUとの関係については防衛産業やエネルギー市場での協調強化を求めるとともに、EUレベルでの改革として、域内の規制差異や不均衡な資金調達条件により経済的潜在力が十分に発揮されていないとして、域内市場と資本市場の統合深化を優先課題に挙げた。
経済紙「ハンデルスブラット」は、深刻な構造問題を抱えるドイツ経済に小手先の改革では不十分だと指摘。EUレベルの改革案や、事業承継制度の見直しといった大きな制度改革を掲げた委員会の姿勢を評価した。その一方で、産業構造転換やサプライチェーン強化など、より踏み込んだ提案も求めた(11月17日)。
(打越花子)
(ドイツ)
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