欧州議会、2040年のGHG排出削減目標の立場採択、EU理事会に続き実質後退案を支持
(EU)
ブリュッセル発
2025年11月18日
欧州議会は11月13日、温室効果ガス(GHG)排出削減の2040年目標を設定する欧州気候法改正案の立場(修正案)を採択した(プレスリリース
)。欧州議会案は、欧州委員会が2025年7月に提案した「EU全体のGHG排出量を2040年までに1990年比で90%削減する」という2040年目標(2025年7月8日記事参照)の大枠を維持しつつ、EU域外のカーボンクレジットを活用することで実質的に85%減に目標を引き下げる内容となっている。これは、EU理事会(閣僚理事会)の立場(2025年11月6日記事参照)と同一の内容だ。このことから、両機関は今後、正式な採択に向けた交渉に移るとみられるが、早期の合意が予想される。
焦点となったEU域外のカーボンクレジットについては、議会案は理事会案と同じく、90%減という2040年目標の達成に向け、5%分活用するとした。一方で、議会案は理事会案から一歩踏み込み、今後策定される域外のカーボンクレジットの活用に向けたEU法による規制に関し、パリ協定に沿った高い信頼性のある活動に基づくべきとし、透明なガバナンス、強固なモニタリング・報告・検証方法、厳格な基準などを求めた。また、カーボンクレジットの対象となる活動については、EU排出量取引制度(EU ETS)で規制されていない分野に限定した。
このほか、議会案は、自動車での低炭素燃料の活用や、域内産業の競争力、エネルギー価格を考慮した改正法の将来的な見直し、ガソリン車や化石燃料を用いた暖房を対象にしたEU ETS IIの適用開始時期の1年延期など、理事会案と同一の文言となっている。
中道会派が勝利も、EPPは分裂
今回の議会案は、社会・民主主義進歩連盟グループ(S&D、中道左派)や、欧州刷新グループ(Renew、中道)などの中道会派が右派や極右会派を押し切って可決した。政治専門紙「ポリティコ」によると、右派や極右会派を中心に欧州委案から大幅に後退させる2040年目標を掲げたのに対し、中道会派がEU理事会の実質85%減を受け入れるかたちで譲歩し、可決につなげた。最大会派の欧州人民党グループ(EPP、中道右派)は中道会派案を支持したものの、一部が右派・極右会派とともに大幅後退案を支持し、投票行動が分かれた。EPPが他の中道会派を事実上排除し、右派・極右と協力し採択したCSRD・CSDDD簡素化法案(2025年11月18日記事参照)とは対照的な結果となっており、グリーンディール関連法を巡る会派間の駆け引きが激化している。
(吉沼啓介)
(EU)
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