EU理事会、2040年のGHG排出削減目標の立場を採択、欧州委案の9割減から実質後退
(EU)
ブリュッセル発
2025年11月06日
EU理事会(閣僚理事会)は11月5日、温室効果ガス(GHG)排出削減に関する2040年目標を設定するための欧州気候法改正案の立場(修正案)を採択した(プレスリリース
)。理事会案は、欧州委員会が2025年7月に提案した「EU全体のGHG排出量を2040年までに1990年比で90%削減する」という2040年目標(2025年7月8日記事参照)の大枠を維持しつつ、グリーンへの移行がEUの最優先課題である域内産業の競争力強化に悪影響を与えないよう柔軟な措置を認めるとして、実質的に85%減に目標を引き下げる内容となった。今後は改正案の最終的な政治合意に向け、欧州議会が立場を採択し次第、EU理事会は欧州議会との交渉に入ることになる。
柔軟な措置の中心となるのが、EU域外のカーボンクレジットの活用だ。欧州委案では、1990年のEU全体のGHG排出量の3%分を上限に、2040年目標の達成に向け域外カーボンクレジットを算入することが「可能」としていた。一方、理事会案は上限を5%に引き上げた上で、2040年目標の達成に向けて算入する方針を明確化。これにより、EU域内のGHG排出削減目標は1990年比で85%相当になるとした。加えて、2040年目標の実現に向けた加盟国ごとの目標においても、最大5%分の域外カーボンクレジットの算入を認める。
また、2035年以降に内燃機関を搭載した新車の販売が禁止される乗用車などの道路輸送の脱炭素化を巡り(2023年3月30日記事参照)、禁止撤廃を求める動きが高まる中で、理事会案は、今後の法改正において、再生可能エネルギーだけでなく低炭素燃料などの役割を適切に反映することを欧州委に義務付ける規定を追加した。
欧州委が改正案の施行後に実施する欧州気候法の見直しに関しては、現行法は最新の科学的知見や国際的な動向に基づくとしているが、理事会案はこれに加え、エネルギー集約型産業などの域内産業の競争力に関する課題やエネルギー価格なども考慮することを明文化した。
このほか、理事会案は、ガソリン車などの道路輸送と化石燃料を用いた暖房を利用する建物などを対象に、2027年から開始が予定されているEU排出量取引制度(EU ETS)II(注)について、開始時期を1年延期し2028年からとすることを明記。今後、段階的な削減が予定されているETSの無償排出枠についても、削減をよりゆるやかに実施すべきとの文言を盛り込んだ。
(注)詳細は、調査レポート「EU ETSの改正およびEU ETS II創設等に関する調査報告書」(2024年5月)を参照。
(吉沼啓介)
(EU)
ビジネス短信 64c001e38c9ba8a6




閉じる
