米議会諮問委、年次報告書で中国の供給過剰と経済的威圧への対応策を提言
(米国、中国、香港、台湾)
調査部米州課
2025年11月25日
米国連邦議会の諮問委員会「米中経済・安全保障調査委員会(USCC、注1)」は11月18日、2025年の年次報告書
を発表した。報告書は計12章で構成され、(1)過去1年間の総括、(2)世界秩序再編に向けた(中国による)取り組み、(3)フロンティア市場での競争、(4)中国による経済的ゆがみと強制、そして(5)台湾と香港に関する分析、という5つのパートに整理されている。また、議会に対して28の提言がされており、このうち10項目を最重要と位置付けた(注2)。
報告書では、中国が国内市場の経済的な停滞にもかかわらず、国家主導で製造能力拡大に資源を投じており、国外市場への供給過剰が生じていると指摘。この動きは米国の競争力や世界市場の強靭(きょうじん)性に直接的なリスクを与えるとした。特に、繊維製品や電子機器など低コスト製品の供給過剰が新興市場での雇用喪失や製造業への打撃を招く「チャイナ・ショック2.0(注3)」につながっていると分析する。
また、中国は製造能力を拡大し、他国の中国製品への依存を進める一方で、経済外交的な手段を活用して外国や企業、個人に対する経済的威圧を強めていると警告。具体的事例として、米国との貿易交渉で、レアアース(希土類)加工での独占的地位を交渉カードとして活用し、重要鉱物や磁石などの輸出制限を発動した事例を挙げた。その上で、中国は医薬品原料やエネルギーインフラ設備といった分野ですでに大きな支配力を有しているほか、基礎半導体などの分野でも同様の影響力を得るために投資を進めているとし、これらを含むサプライチェーンのボトルネックを武器化した場合の結果は甚大な影響を及ぼし得ると強調した。
このほか、中国のロシアやイラン、北朝鮮といった国々との連携強化も警告しており、輸出管理や制裁の運用を強化し、同盟・パートナー国と緊密に連携することが必要としている。
これらを踏まえた提言としては、輸出管理や制裁措置の強化に向けた、統合的な経済外交機関の創設といった組織面の改革の必要性や、重要鉱物や医薬品などのサプライチェーン上のチョークポイント解消といった経済的圧力緩和に向けた対策などが挙げられた。また、地域安全保障では、1つのパートとして取り上げられた台湾および香港に加え、中国による影響力拡大がみられる東南アジアや太平洋島嶼(とうしょ)部での対抗策が提言もされている。
(注1)米中間の貿易・経済関係が米国の国家安全保障に及ぼす影響を監視・調査し、議会に報告する。また、適切な場合には立法・行政措置に関する勧告を議会に提供する。2000年10月に設置され、民主・共和両党が指名した12人の委員によって構成される。なお、2024年の年次報告書については2024年11月21日記事参照。
(注2)委員会は最も重要だと位置づけた10の提言を本報告書のエグゼクティブ・サマリー
の12~15ページで取り上げている。
(注3)米国の経済学者デビッド・オーター氏、デビッド・ドーン氏、そしてゴードン・ハンソン氏が中国輸入急増による米国の雇用喪失を分析した2016年1月の論文で「チャイナ・ショック」と表現している。また、オーター氏とハンソン氏は2025年7月14日付「ニューヨーク・タイムズ」紙への寄稿で、「チャイナ・ショック2.0」に言及している。
(滝本慎一郎)
(米国、中国、香港、台湾)
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