ドイツ最低賃金、段階的に引き上げ14.60ユーロに

(ドイツ)

ベルリン発

2025年11月17日

ドイツ連邦政府は10月29日、法定最低賃金の引き上げを閣議決定した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、ドイツ語)。現行の時給12.82ユーロを(2023年7月6日記事参照)、2026年1月に13.90ユーロ、2027年1月に14.60ユーロへ段階的に引き上げる。今回の決定は、2025年6月に出された最低賃金委員会(注)の勧告に基づくもので、政令により実施されることとなる。賃金引き上げの理由としては、生活水準の確保や社会参加の促進などが挙げられている。

最低賃金は、2025年5月に発足したキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が合意した連立協定書内にも明記されていた(2025年4月11日記事参照)。SPDの強い意向で連立協定書に、2026年には時給15ユーロまで引き上げることが可能だという表現で盛り込まれたが、最終的には最低賃金委員会が総合的な判断を行い、15ユーロを下回るかたちで賃上げの勧告が行われた。

ドイツ連邦統計局の推計によると、今回の最低賃金引き上げの恩恵を受けるのは約660万人の被雇用者で、総収入は最大で約4億ユーロ増加すると見込まれている。業種別では、宿泊・飲食業と農林水産業が特に影響を受け、宿泊・飲食業では被雇用者の56%、農林水産業では43%に影響があるという。また、政府の試算によると、企業が負担する追加人件費は2026年に約21億8,000万ユーロ、2027年に約34億4,000万ユーロにのぼるとされている。

この決定を受け、ベアベル・バース連邦労働・社会相(SPD)は、今回の値上げは最低賃金制度導入以来最大のものであり、日々ドイツを支える人々に対してより大きな公正性と敬意を示すものだとする声明を発表した。他方、業界団体の1つであるドイツのホテル・飲食店業連盟(DEHOGA)は、人件費の負担増は業界にとって大きな課題だとしている。

「フランクフルター・アルゲマイネ」紙(10月30日)は、最低賃金委員会がSPDの強い要望を退け、段階的引き上げを勧告したことを肯定しつつも、今回の賃金増額自体が経済的に持続可能ではない、と批判し、企業の負担増や雇用喪失リスク、業界の生産縮小などへの懸念を示した。

(注)最低賃金委員会は、最低賃金法に基づいて設置されており、委員長、労使双方を代表する投票権を持つ委員6人、ならびに投票権を持たない学術界からの諮問委員2人で構成される。委員会は連邦政府に対し、原則として2年ごとに最低賃金に関わる提案を行う。

(打越花子)

(ドイツ)

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