エネルギー生産量が多い中東で冷房や海水淡水化に関する電力消費が増加、IEA報告
(中東、サウジアラビア、イラン)
調査部中東アフリカ課
2025年11月19日
国際エネルギー機関(IEA)は11月12日、世界のエネルギー状況に関する報告書「World Energy Outlook 2025」を発表
した。
同報告書によると、中東はエネルギーの主要な生産地で、石油生産上位10カ国にサウジアラビア、イラン、イラク、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートが入り、天然ガス生産上位10カ国にイラン、カタール、サウジアラビアが入るという。さらに、中東7カ国を含むOPECプラス諸国は、2025年に入り、2023年に合意した石油の減産を緩和している。
一方、中東諸国の一部では紛争など地政学的な影響もあり、エネルギー状況の見通しは不透明だと指摘した。
現地でのエネルギー需要も増加
中東ではエネルギー需要の56%を天然ガス、41%を石油で賄っており、世界平均の23%と30%をそれぞれ上回っているという。長期的には2035年までに天然ガス需要は約30%増加する一方、石油需要はわずかに減少する見込みだ(注)。なお、IEAの天然ガスに関する報告書によると、2030年まで世界の天然ガス需要は増加傾向にあり、中東でも天然ガスの液化能力も増加するとの予測だ(2025年11月17日記事参照)。
再生可能エネルギーについてみると、2035年までに中東の電力の15%以上が太陽光発電となり、風力を含むその他の再生可能エネルギーの発電も5%を占めるという。
冷房や海水淡水化用の電力需要が増加
中東は気温が高いため、空間冷却(冷房など)の需要が大きい。「World Energy Outlook 2025」によると、中東の冷房用の電力需要は、2010年の166テラワット時(TWh)から2024年には約300TWhとほぼ倍増となり、電力需要の約4分の1を占める。2035年には冷房用の電力需要がさらに140TWh増加する見込みだ。空調機器の効率性改善や建物の断熱性の向上が電力消費を抑制する効果を持つが、冷房機器の所有率の上昇、気候変動などにより消費電力を押し上げるという。
中東には、砂漠も多いため、世界の海水淡水化施設の8割が集中している。中東では消費電力の4%が海水淡水化に利用されており、2035年までに海水淡水化用の電力需要がさらに2.5倍以上も増加する見込みだ。
また、中東での自動車保有台数は人口1,000人当たり143台で、新興国および開発途上国の平均を約45%上回っている。電気自動車(EV)の市場シェアは非常に小さいが、ヨルダンでは2024年の新車乗用車の販売台数の50%以上をEVが占めたという。
なお、アフリカでの再生可能エネルギーおよび石油・天然ガスの投資は増加する見込みだ(2025年11月18日記事参照)。
(注)本文中のIEAによる2035年など将来の数値予測は、各国政府が既に公表もしくは実施済みの政策に限定して推計したSTEPSシナリオ(Stated Policies Scenario)の予測値を記載。
(井澤壌士)
(中東、サウジアラビア、イラン)
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