州や郡の手厚い支援がエコシステムの形成を後押し、米NY州に半導体ミッション派遣

(米国)

ニューヨーク発

2025年10月08日

ジェトロは1013日、日本企業・団体関係者約30人で構成される半導体分野のビジネス・投資環境調査ミッションPDFファイル(132KB)を米国ニューヨーク(NY)州に派遣した。

NY州は近年、米国において最も急成長を遂げている半導体エコシステムの中心地の1つだ。研究開発からチップ製造、製造装置・材料分野、さらには産業人材の育成に至る層の厚い産業集積の形成が進んでいる。

代表的なプロジェクトとしては、NY州北部オノンダガ郡におけるマイクロン・テクノロジーによる最大1,000億ドル規模のメガファブ建設計画(2022年10月6記事2025年6月18記事参照)、および世界最先端の半導体研究開発拠点である「オルバニー・ナノテク・コンプレックス」の拡張などが挙げられる(2023年12月13記事2024年11月1日記事参)。

本視察ミッションでは、これらの主要拠点の視察を行ったほか、現地企業、政府関係者、教育・研究機関との将来的な協業・連携を見据えたネットワーキングを行った。

写真 マイクロン・メガファブ工場建設予定地(ジェトロ撮影、10月1日)

マイクロン・メガファブ工場建設予定地(ジェトロ撮影、10月1日)

NY州のエコシステムの発展を支えているのが、Green CHIPSプログラム(注1)をはじめとする州独自の先進的な政策支援だ。前出のマイクロンの投資計画では、CHIPSおよび科学法(CHIPSプラス法)に基づく連邦政府からの助成金の提供に加え(2024年12月16日記事参照)、NY州からも最大55億ドルの提供を受けることが発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますされている。

102日の、同州シラキュース大学でのミッション参加者向けのパネルディスカッションには、NY州経済開発公社(ESD)傘下の半導体産業推進専門機関GO-SEMI(注2)よりジェニファー・ウォーター氏が登壇し、州内での雇用創出・設備投資・研究開発促進するための優遇税制「エクセルシオール・ジョブズ・プログラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」などを紹介した。同制度の最大の特徴は、全額払い戻し可能な税額控除(Fully Refundable Tax Credit)の適用だ。ジェニファー氏は「他州で導入されている税額控除制度の場合、控除額の上限は納税義務額とイコールだが、NY州の場合、納税義務を上回る税額控除の差額分を追加的に払い戻す制度設計となっている」と強調した。さらに、半導体産業のサプライチェーンに関わる事業者に対し、州が管轄する各種税金のうち、「法人所得税率0%、個人所得税0%、製造業向けの機械・設備に対する売上税率0%などの優遇税制を最大10年間適用する」と説明した。

写真 NY州の半導体産業支援プログラムなどを紹介する担当者(ジェトロ撮影、10月2日)

NY州の半導体産業支援プログラムなどを紹介する担当者(ジェトロ撮影、10月2日)

また、同じパネルセッションに登壇したTTMテクノロジーズのキャサリン・グリッドリー副社長は、同社が2023年、米国初の超高密度相互接続プリント基板(PCB)製造拠点の最適な立地先を調査した際、最終的な候補地となった7州からNY州に決定した経緯などを説明。「新工場立地においては、州や郡によるインセンティブの存在に加え、NY州のあらゆる機関が連携した支援体制の充実が決定的な要因となった。州政府や経済開発公社に加え郡政府、さらには郡内の自治体の密な連携が決定的な差を生んだ」と強調した。

(注1)半導体製造拠点の立地に対する助成金に加え、投資税額控除、研究開発税額控除、給与税額控除などのインセンティブを付与。

(注2)Governor’s Office of Semiconductor Expansion, Management, and Integrationの略。2024年5月、NY州のキャシー・ホークル知事により正式に設立。

(伊藤博敏)

(米国)

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